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6歳2月(14)

6歳2月(14)


「ンサカ! おタマさん、おスミさん! 一緒に寝よう。」


返事も待たずに3人でぎりぎりな天幕に無理矢理潜り込む。

そして私は呆気にとられているンサカに抱きつくように密着する。


「ンサカ、抱っこして寝よう。」


「リルカさん、わたくしが抱っこして良いですの? わたくしの妹はリルカさんみたいに元気で可愛らしくて、わたくしのことが大好きでしたわ。」


「抱っこしていいのよ。私もンサカが大好きよ。誇り高いンサカが恰好良くて大好きよ。どんなに辛くても一族を守るために頑張るンサカが大好きよ。私のお姉ちゃんになって。ンサカ姉ちゃん!」


「嬉しい……。でも私は奴隷ですわ。リルカさんのお姉ちゃんにはなれませんわ。」


ウサ耳も伏せて哀しげなンサカの言葉に反応したおスミさんが上半身を起こす。


「スミもタマも、奴隷だった。だけど私たちを買った将軍――ハンナ様は、家族として扱ってくださった。ンサカはリルカ姫のお姉ちゃんになれる!」


急な剣幕に驚きつつも、その台詞の趣旨から外れた、別な部分が心にひっかかって、私が反論する。


「えー。私がスミ姉ちゃんって呼んだら、けじめだからおスミさんって呼びなさいって言ったじゃない。おスミさんが家族ならお姉ちゃんでいいでしょ。」


「ダメ。私たちはそんなハンナ様の優しさに甘えてはいけない。私たちは侍女。将軍と姫様にそんな態度はできない。けじめが必要。」


「スミねえは頭が固いばい。リルカちゃんの気持ちの方が大切たい。」


「タマは軽すぎる。この幸運を当然と思ってはいけない。ハンナ様の侍女でいられるだけで十分すぎる幸せ。お傍にいられるようにお役に立てるように努力し続けることこそ当然。その先を望んでは大きな罰が当たる。一線を引いて、けじめをつけなくてはダメ。」


呆れた顔のおタマさんと怒った顔のおスミさんが、抱き合う私とンサカの上で睨みあう。


「私1人だけ仲間外れは寂しいわ。」


そこへお母様が乱入して潜り込んできた。

3人でピッタリな天幕に、5人も入ったのでみんなぎゅうぎゅうと密着状態だ。

お母様はおスミさんに密着している。そしていつも眠る前の私にするのと同じようにおスミさんの頭を撫でながら優しく言葉を続けた。


「おスミちゃんはそんなこと考えていたのね。私のところに来たばかりの頃は泣いてばかりで私が抱っこして寝ていたのに、立派に育ってくれて嬉しいわ。」


「ぐ! 将軍、そのようなお戯れをこのような場で……。」


おスミさんはいつも澄ました顔を、困惑の表情に変えて挙動不審になっている。


「あ、私も覚えているわ。私が隣で寝ている時に、おスミさんはお母ちゃん、お母ちゃんって言って、お母様にすがりついて泣いてたわ。生まれたばかりの私より甘えん坊だったじゃない。」


「リルカ姫、生まれたばかりなのに、なぜ覚えているっ!」


「スミねえ、もう諦めるたい。うちも覚えているばい。将軍のおっぱいに顔を埋めて親指をしゃぶっていたっちゃね。」


「タマ! ―――!」


おスミさんは声にならない声を上げ、顔を真っ赤にして跳ね起き、天幕を飛び出ようとしたところをお母様に捕まって抱きつかれ、元のように寝かしつけられた。


「あなたたち、みんな私の大事な家族よ。おスミちゃんもおタマちゃんも間違いなく私の娘よ。ンサカももう私の娘よ。みんなリルカのお姉ちゃんよ。誰が何と言おうと、別れようと離れようと、私の大切な家族だからね。愛しているわよ。」


お母様はそういって、おスミさんを滅茶苦茶に抱きしめて頬や首にキスをする。おスミさんは苦しそうだけど顔を赤くしたまま、お母様にされるがままになっている。

おスミさんが燃え尽きたようにグッタリとうつ伏せに倒れると、お母様は続けておタマさんを抱きしめる。


「おタマちゃん、おスミお姉ちゃんを助けて、妹たちを可愛がってね。」


「もちろんたい!」


お母様はニコニコするおタマさんを満足するまで抱きしめて、撫でて、キスすると、さらに鼻息を荒くして私とンサカが抱き合っているところへ飛び込んできた。


「ンサカ、あなたの家族が見つかるまででもいいわ。今から私たちが家族よ。いいわね。1人で全部背負う事無いわ。ンサカの一族は私が必ず助ける。私に任せなさい。そしておスミちゃんとおタマちゃんがお姉ちゃんで、リルカが妹よ。よろしくね。」


「……嬉しいですわ。」


感極まったように半べそのンサカと私を一緒くたに抱きしめ、揉みくちゃに撫でまわしていく。

お母様が気が済むと、狭い天幕の中、みんなでくっ付いて寝た。暖かくて幸せだった。


そんなことがあっても、翌朝からおスミさんの態度は変わらなかった。

でも私が“スミ姉ちゃん、タマ姉ちゃん”と呼ぶのを止めることはなくなった。

ンサカ姉ちゃんも合わせて4姉妹ね。


大好きなお姉ちゃんが増えて、本当に幸せ。

さあ、ンサカ姉ちゃんのために宝石を探しにいかなきゃ!


◆◆◆


次の日も走り続け、遠くに見えていた山の麓まで来たところで野営となった。

傾いたお日様が赤く染まる中でスミ姉ちゃんタマ姉ちゃんが用意してくれたご飯を食べていると、

お母様が急に立ち上がり、戦闘態勢を指示する。

慌てて装備を整えた後で20名ほどの男たちが現れた。


「最初からこんな美味しい獲物を捕まえるなんてついてるぜ。」


ニヤニヤと喋る男は、鼻を横から貫くように棒が刺さっている。


「おっちゃん、お鼻に棒が刺さっているよ! きっと名前はボウハナゲだね!」


「うっさい! お洒落じゃぼけー! 誰がボウハナゲじゃ! 奴隷にする前に殺すぞ!」


私の言葉に大人げなく言い返す男はマスケット銃をこちらに向けた。


「あれは、黒魔術の火を噴く棒ですわ! リルカ、危ないですわ!」


ンサカが私を庇うように前に立つ。ウサ耳もピンと立ち上がって私を庇う。

しかし、そのさらに前方に、お母様が立ちはだかった。


「ンサカ、あなたを襲った奴隷狩りはこのボウハナゲ?」


「違いますわ。こんなボウハナゲではなかったですわ。」


「てめえら、話を聞けよ! ボウハナゲじゃないっていってるだろ! まじ殺すぞ!」


男たちは半円状に並んでこちらを囲んでくるが、マスケット銃を持っているのは中央の1人だけのようだ。他の男たちは穂先が石でできている短槍を持っている。


「おタマちゃん、おスミちゃん、2人をお願い。」


タマ姉ちゃんとスミ姉ちゃんは素早く私とンサカ姉ちゃんの手を引き、

仁王立ちで立ちはだかるお母様から離れて伏せる。

タマ姉ちゃんが先頭で伏せて両腕の小盾を前方に突きだして構える。


「これが流れ弾用の防御たい。」


それを見た男たちは大笑いする。


「げへげへげへ! おいおい、後ろの娘たちは素直に降参したようじゃねえか。たっぷり可愛がってから奴隷商人に売ってやるぜ。てめえも死にたくなければ早く武器を捨てて降参しな。痛くて死ぬよりも気持ち良い方が好きだろ? げへげへげへ!」


「そんな構えでは、私に当てられるないな。撃ってみろ。外したら次の瞬間に貴様の首が胴体から離れるぞ。」


お母様はまったくひるまずに、堂々と武骨に輝く同田貫を抜き放つ。

そのままゆっくりと刀を上段に引き上げ、顔の右側でトンボの構えをとる。

空へと掲げられた刀身はお母様の言葉通り、一撫でで首でも胴でも切断できるという説得力をもって夕日の紅を反射している。


その迫力に当てられたように怯えた男がマスケット銃を腰溜めに構える。

お母様は私たちから射線を外すように、じりじりと斜め前方に距離を詰めていく。


「もったいねえけど、死ねやー!」


精神的に追い詰められたのは男の方だ。我慢しきれなくなった男は目を瞑るようにして引き金を絞る。

衝撃波のような爆発音がして男が後ろにひっくり返る。

弾丸はきっと遙か上の方、空の彼方へ飛んで行った。

マスケット銃は一度撃ったら再装填に時間がかかる。

今がチャンスだわ!


しかしそれを待ち構えていたように、音と同時にタマ姉ちゃんとスミ姉ちゃんが跳ね起きて飛び出す。お母様はすでに斬りかかっている。しまった、出遅れたわ。

私も跳ね起きようとするとンサカ姉ちゃんが私の身体に抱きついて離れない。


「リルカ、リルカ、守るからね! 絶対に死なせないからね!」


目を瞑って叫んでいるンサカ姉ちゃんを落ち着かせる前に、20人ほどの男たちは全て打ち倒されていた。お母様たち、早過ぎでしょ。


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