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6歳2月(13)

6歳2月(13)


「これで旅の準備は完了ね!」


着替えや天幕はおタマさんおスミさんが用意してくれているから、用意する物は自分とンサカの水や食料程度。あとはンサカの乗馬の練習が必要だわ。


早速、町の外に出て、私の後ろに乗せてゆっくりと馬を歩かせる。


「リルカさん、なかなか揺れますわね。」


速歩はやあしの方がもう少し揺れがマシよ。ンサカ、しっかり私に捕まってね。」


薄着のせいでンサカの胸の感触が肩に伝わる。

ジワッと暖かくて固い反発力を持つしなやかな感じはおスミさんに似ている。

振り落とされないように私に強くしがみついたンサカのお尻が、馬の背中で突き上げられて、ン、ンン、と我慢するような声を漏らす。


「ンサカ、そのままだとお尻が割れちゃうよ。両膝で鞍を挟むように力を入れて、少しだけ腰を浮かすの。慣れてきたら馬のリズムに合わせて座ったり立ったりできるよ。」


「分かりましたわ。でもリルカさん、お尻は元から割れてますわ。」


ンサカは口を結んで馬のリズムを覚えようと目を瞑る。リュートが上手なンサカは簡単にリズムを飲み込んでいく。あっという間に慣れて、駈足かけあしのリズムまで覚えてしまう。


「リルカさん、楽しいですわ! 景色がこんなに速く変わっていくなんて初めてですわ!」


「みゃはは! ンサカ、上着がめくれあがって、おっぱい丸出しよ。可笑しいわ。」


奴隷用の服とも呼べないような上着は、申し訳程度に隠していた胸から外れて丸まり、もはやなんの役にも立たない布切れとなっていた。ンサカは上半身裸のまま、胸を隠す代わりにリルカにギュッと密着する。


「おほほ、リルカさんにしっかり抱きついていれば誰が見ても分かりませんわ。そんなことよりもっと速くできませんの?」


「よーし。じゃあ最高速の襲歩ギャロップいくわよー!」


みゃははは! おほほほ! みゃははは! おほほほ!

岩を避けて曲がる度に、窪みを飛び越える度に、2人で笑い声が溢れてくる。

2人でくっついて赤土の大地を駆け回っているだけで楽しい。

散々駆け回って、馬も私たちも遊び疲れて一休み。

ちょうどそこへお母様がやってきた。


「リルカ、乗馬がとても上手になったわね。ンサカさん、おっぱい丸出しよ。」


「いやですわ。わたくしとしたことが、お恥ずかしいところをお見せしましたわ。」


ンサカは思い出したように恥じらってめくれた上着を下げる。

しかし元々が奴隷用の布きれなので、あまり隠せていない。


「そんなンサカさんに、旅用の服を持ってきたわ。これを着てね。」


お母様が持ってきたのはバニースーツと呼ばれる服。

首には白い付け襟チョーカーにピンクのリボン。手首にも同じように白いカフスだけが可愛らしい。

身体を覆うスーツは黒い肌と対照的な真っ白で、肩を露わにしていて袖が無く、長く美しい足を際立たせるハイレグ仕様。ベストはコルセットの様にくびれを作り、すそは鳥の尾羽のように背中からお尻を隠すように長く伸びている。その尾羽の切れ目から覗くのは白いフワフワなウサギの尻尾のようなもの。

極めつけは頭にかぶるカチューシャから伸びる長い耳。フサフサとした毛は思わず触りたくなる。

これは可愛らしい女の子に、可愛らしいウサギの要素をプラスした素晴らしい一品だわ。


「って、いやいや、お母様。これのどこが旅用の服なのよ。こんなので馬に乗ったら怪我するわよ。そもそも部族長の娘に失礼でしょう?」


「ああ! 将軍様、なぜわたくしのトーテムがウサギだってお分かりでしたの? こんなに素敵な服は初めてですわ!」


「ほら、ンサカだって、嫌がって、ええっ? えええー!?」


ンサカは大喜びでバニースーツを着込んで、ぴょん、ぴょんと口で言いながらウサギを真似て飛び跳ねている。なにこれ、可愛すぎるわ。鼻血が出そう。お母様の狙いはこれだったのね。

お母様も無邪気にはしゃぐンサカの姿を見て、鼻息荒く満足したように何度も頷いている。


「よし。準備ができているなら出発するわよ。リルカ、ンサカさん、いいわね。」


「はーい!」「もちろんですわ!」


こうして“ちょこっとお金稼ぎ”が始まった。


ボンス・シスナイスの町を出て北東へ。

ムウェネムタパ王国の国境を越え、もうここはマラヴィ帝国に入っている。

身軽な装備なので行き足は速い。


「それで、お母様はどうやってお金を稼ぐつもりなの?」


「色のついた綺麗な石を拾ってきて売るのよ。」


「それって宝石じゃない。どこにあるか分からないし、簡単に拾えるものじゃないでしょ?」


「安心して、この先にある山にたくさん転がっているわ。」


「なんでお母様はそんなこと知ってるの?」


「昔になるのかな。行ったことがあるからよ。」


国内だけじゃなくて、他国の山まで行ったことがあるのね。

相変わらずなんでも知っているお母様だわ。


「ンサカはこの北の山には行った事ある?」


「わたくしが住んでいたのはもっとニアサ湖に近いところですわ。こちらには初めて来ましたわ。」


ンサカは私の後ろに乗って、流れるように変わっていく景色を珍しそうに見ている。

乗馬はもう余裕の表情だ。


「良いペースで来れたわ。これなら明日には着きそうよ。今日はここで野営しましょう。おタマちゃん、おスミちゃん、用意して。」


テキパキと天幕を張り、食事の用意をするおタマさんとおスミさん。

もちろん私やンサカもお手伝い。

そして荷物を最小限に抑えたはずなのに、やけに豪華な料理が出てくる。

さすがおタマさんとおスミさん。


「朝出かける前に町で仕入れ食材たい。今日だけは豪華な食事やけん、楽しむばい。」


「これほど海の魚がたっぷりで美味しいスープは初めてですわ! でも……こんな贅沢なものを私だけ食べられませんわ。」


ンサカは目を見開いて口に手を当て、驚いたように料理を褒める。しかし一拍置いたのちに、一族の仲間を思い出してしまったのか、悲しい顔で俯く。ウサ耳も垂れる。


「ンサカさんは大変なのに頑張っているわ。今から仲間を助けるために食べることが必要なの。悲しくてもしっかり食べなさい。」


お母様の厳しくて優しい言葉。

ンサカはお母様をしっかりと見据えてから、意を決したように頷き、食べ始める。

みんなの優しい視線がンサカに集まる。どうかンサカの心が早く癒えますように。


「リルカさん、リュートを貸してくださる?」


みんながご飯を食べ終えて落ち着いた頃、リュートを抱いて愛おしむように弾いていたンサカが語り始める。


「奴隷狩りは部落に襲いかかった♪ 真っ先に立ち向かったのは私の婚約者♪ 槍を片手に勇敢に戦う♪ しかし奴隷狩りの黒魔術の棒が火を噴いた♪ 彼は身体に穴を開けて倒れた♪ 」


ンサカは時々悲しそうに言葉を詰まらせ、涙を零しながら必死にうたを紡いだ。

それは奴隷狩りに襲われてから今までの辛い出来事だった。


ンサカは婚約者に目の前で死なれ、部族長の両親は人質にされて、ンサカとその妹1人を含む若い女性は真っ先に奴隷商人に売られた。


ンサカは奴隷にされてもなお、自分は部族長の娘だからと一族の皆を励ましてなんとか一緒に脱走できないか計画を立てていた。しかし脱走の計画がばれた。一緒に逃げようとしていた一族の娘の1人が裏切っていた。


奴隷商人は見せしめにンサカを処刑しようとした。しかしンサカの妹が身代わりになって処刑された。“今はお姉ちゃんが部族長だから、一族の誇りを守って”と言って穏やかな笑顔で死んでいった。途


中の町に着くと、奴隷の足環から解放された裏切り者は汚らしい歪んだ顔で私たちに別れを告げて、娼婦のように奴隷商人たちに絡みついて宿屋へ消えていったが、翌朝にはボロ屑のようになって殺されていた。奴隷商人たちに弄ばれたのだろう。神様が外道に相応しい最期を用意したに違いない。


それからずっとンサカは心を殺して一族の奴隷たちをまとめてきた。

すべては死んだ妹から託された部族長という誇りのため。


ンサカは歌い終わるとリュートを抱いて空を見上げた。

空は薄紫色から濃紺に変わっていく途中で、大きな星だけがいくつか瞬いていた。


「よく、頑張ってきたわね。ンサカは立派な部族長だったわ。」


お母様が声をかけるとンサカの我慢が限界を超えたように泣き始めた。

それでもまだ苦しそうに口を一文字に結んで堪えているンサカを、おタマさんとおスミさんが二人で連れ添って天幕へと入っていった。


天幕は3人がちょうど寝られる程度の小さなものがふたつ。

私とお母様の2人が寝る天幕と、ンサカ、おタマさん、おスミさん3人が寝る天幕。

私はお母様と一緒に天幕に入って寝床で横になるが眠れない。


「お母様、今日はンサカと一緒に寝てくるわ。いいでしょ。」


お母様は困ったような顔で静かに頷いて、私の頭を一撫でしてくれる。

私はお母様の寝る天幕を出て、ンサカたちの寝る天幕へこっそりと忍びこむ。


おタマさんもおスミさんもンサカも、大好きな人たちなんだ。

一緒に寝てくれるかなあ。

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