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6歳2月(12)

6歳2月(12)


「お母様いいの? 私は“助けてくれたお姉さんを救いたい”って言ったけど、全部の奴隷を買う事になっちゃって。」


「良いのよ。今の王国は人手不足だから、いくらでも仕事があるわ。食料も余っているから数千人増えても全く問題ないわ。むしろ好都合よ。リルカを助けてくれたのはどの方?」


「このお姉さんよ! 助けてくれた恩返しに、あなたを救いに来たわ!」


私は舞台に這い上がって、リュートを弾いてくれたお姉さんの手を取る。

突然大きく変わっていく運命に驚いた様子で、私とお母様の顏を交互に見る。


「リルカを助けてくれてありがとうね。あなたも、後ろにいる子たちも全員、ムウェネムタパ王国の王族で、将軍である私が買い取ったわ。王族に所属する奴隷は飢えることが無いし、結婚して子供を育てることもできる。さらには自分で自分を買い戻して奴隷から解放されることもできるわ。どうか悲観しないでね。」


「将軍様、わたくしの名はンサカ。マラヴィ帝国の一地方を任されていたチェワ族の部族長の1人、勇敢なるモトの娘ですわ。ヤオ族の奴隷狩りに部落を襲われ、奴隷になってしまいましたが、この後ろには我が一族の女性たちがたくさんおります。皆を救ってくださって、本当にありがとうございます。」


正しく貴族らしい作法で礼を表して感謝を述べるンサカ。

その身のこなしは優雅で、例え布切れしか身に着けていない状態でも高貴にみえる。


「こちらこそ私を助けてくれてありがとう。ンサカっていうのね。奴隷狩りに襲われるなんて大変だったのね。でも今回のことは気にしなくていいわ。お母様はこの国で一番のお金持ちだから、数千人の奴隷を買うなんて簡単なことよ。お小遣い感覚でパパッと払っちゃうんだから!」


胸を張ってお母様自慢をする私へ、冷や水を浴びせるようにお母様の声が降りかかる。


「リルカ、何言っているの? そんなお金なんて持って無いわよ。」


「えー? お母様、今さっき買うって言ったじゃない。」


「ちゃんと買うわよ。でもそんな大金を旅で持ち歩くわけないでしょ?」


「まあ、それは分かるけど……。どうするの? 王都までお金を取りに行くの? それとも早馬を飛ばして持って来てもらうの?」


「王都からだと時間がかかるから、その辺でちょこっと稼いでしまいましょう。リルカも一緒に来なさい。おタマちゃんとおスミちゃんも私と一緒ね。レンジャー部隊のみんなは、この町の奴隷を全て確保して保護しておいてね。」


「「「レンジャー!」」」


「え、ちょこっと稼ぐってレベルの金額じゃないよね。しかも女性4人で、お母様は何をどうする気なの?」


「まあ、その辺は移動しながらリルカにも説明してあげる。馬があれば1週間もかからずに帰ってこれるだろうから、急いで準備しなさい。」


「なんだかよく分からないけど、すぐに準備するわ。」


お母様に背を向けて、舞台の上で立ち尽くすンサカたちに向き直る。


「というわけで、待っててねンサカ。みんなを買うためのお金を稼いでくるからね。大丈夫。お母様を信じて待ってて。嘘ついたことなんて無いんだから!」


「まって! どうかわたくしも連れて行ってくださいまし。皆を守れなかったわたくし自身はこのまま奴隷でも仕方ありません。でも一族の女性たちはできるだけ早く解放してあげたいのですわ。そのためならこの命も惜しくありませんわ。」


ツインテールにしている髪はクルクルにカールしていて可愛らしく、勝気な目をした黒い肌の美少女が必死の剣幕で迫ってくる。

部族長の娘というのは、こんなにも誇り高いのだろうか。奴隷にされようとも一族を救おうと躊躇なく命を賭ける。自分の身を守ろうとか助かろうとか一切考えている様子がない。リルカ探検隊のお兄ちゃんたちと年齢が変わらないはずなのに、この覚悟はどこからくるのだろうか。ここまでいさぎよい態度をされると格好良いと思ってしまう。

いやンサカは姿からして格好良いのだ。スラリと伸びた手も足も美しい。僅かな布きれで隠された胸もお尻も今からまさに膨らもうと主張しており、このまま5年もすれば誰もが振り返るような美女になることは間違いないだろう。

そんな恰好良い女性のンサカが、凛々しい立ち振る舞いで、勇敢で潔い台詞を放つ。

rふぇ


そんな事を考えながら迫るンサカをじっくりと見ていると、ンサカの視線が私の後ろに移った。

私が振り返るとお母様が優しく微笑んでいる。


「分かったわ。リルカ、ンサカさんの準備も一緒にしてあげなさい。馬はリルカの後ろに乗るといいわ。」


「ありがとうございます! 足手纏あしでまといにならないように頑張りますわ!」


ンサカの笑顔はどこまでも気高く美しく見えた。


女5人だけでお金稼ぎね!

楽しそう♪

でも“ちょこっと”かしら??


◆◆◆


昔、ムウェネムタパ王国では奴隷を一人買うのに、安いと一般人が2ヶ月生きていくのに必要な程度のお金で買えたらしい。

私が想像していたよりもずっと安い。

奴隷が安いのには理由がある。食料供給が不安定な地域では口減らしの意味があるのだ。つまり奴隷を買うお金よりも、買った後の衣食住を全て面倒みるお金の方がかかるから、安く売ってしまうのだ。


ところがムウェネムタパ王国は、お母様の奇跡的で白魔術のような政策によって農業改革に成功してしまう。農作物が自分たちで食べる分以上に余るほど収穫できて、奴隷に食べさせるご飯にも困らない。むしろたくさん奴隷を雇って、農作物を作れば作るほど儲かる。皆が奴隷を欲しがれば、奴隷の価格が跳ね上がる。


さらにお母様は奴隷狩りを厳しく取り締まったり、飢えるほど貧困な地域に農業指導して、子供を奴隷として売らなくても生きていけるようにした。こうして国内では不法奴隷や貧困奴隷が減り、新しい奴隷といえば犯罪奴隷や戦争奴隷ばかりとなった。全体として新しく奴隷になる数が大きく減ったのだ。

だから奴隷が欲しくても買えない。奴隷の価格は上がる一方だ。


最後に、お母様は国内の奴隷を外国へ売る事に対して重い罰則を定めた。

ムウェネムタパ王国の奴隷は仕入れ価格が高いから儲からない。さらに奴隷の密貿易は見つかれば処刑される。儲からないのにリスクだけ高いからまったく割に合わない。

こうしてこの国は奴隷の輸出が激減した。

ここまでは商人の自然な流れを見事にコントロールできていたのだ。

さすがお母様だわ!


しかし、1つの問題解決は新たな問題を生む。

ムウェネムタパ王国が改善されても、他国は昔のままだった。

当然の如く商人たちは考えた。

ムウェネムタパ王国では奴隷が高く売れるのだから、他国から奴隷を連れてきてムウェネムタパ王国で売れば大儲けだ。さらに他国の奴隷だからここでポルトガル商人に売っても罰せられない。買う人がいくらでもいるウハウハ状態だぞ、と。


他国ではまだ奴隷狩りが横行し、食料の足らない貧困地域はどんどん子供を売っている。つまり奴隷が安いのだ。そこで奴隷を仕入れた商人がどんどんムウェネムタパ王国に入ってくる。そこで昔よりもさらに大勢の奴隷が売り買いされていく。結果として国境の町は巨大な奴隷市場のようになってしまっているそうだ。


その代表的な街がこのボンス・シスナイス。

元々漁業と農業で細々と暮らしていた地に、ヴァスコダ・ガマが上陸したお蔭で貿易が始まり、町になった。しかし儲かる貿易品はツェンベレ川を船で上って、セナやテテまで行った方が集まる。後にそちらにも拠点が作られてからはボンス・シスナイスは単なる補給港になりかけていた。しかしそこに目を付けたのが奴隷商人たちだった。食料が豊富で交通の便が良いここに大きな商館を作って奴隷を集めて売る拠点としたのだ。

町の外は長閑のどかな農村の風景なのに、町の中心部だけ急に大きな建物が立ち並ぶ違和感はそのせいだ。


そんなわけで、この町にはとてもたくさんの奴隷が集められている。

お母様はそれをすべて買い取ると言った。

数千人というから数は正確に分からないけど、仮に5千人いるとしよう。

さらに平均価格が一般人の6ヶ月分の生活費だとしたら、

一般人の2500年分の年収にあたる金額が必要だ。


それをたった女性5人だけで、しかも1週間でちょこっと稼ぐ。

本当にそんなことができるのだろうか。フマが聞いたらありえないと首を振るに違いない。

でも私がンサカに宣言した通り、お母様が嘘を言ったことなどないのだ。

しかしまあ、あまり理不尽な目に遭わないように祈るばかりね。


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