表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/128

6歳2月(11)

6歳2月(11)


「早くお逃げなさい。」


先ほどまでリュートを弾いていたお姉さんが私の脇まで来てリュートを差し出している。


「久々にリュートが弾けて良かったですわ。返しますわね。あなたは奴隷じゃないんでしょう? ここは奴隷のオークションですわ。」


リュートを受け取りながら、お姉さんや後ろに並ぶみんなを改めて見るとセクシーすぎる服装に目を奪われていて、足枷が嵌っていることに気が付いていなかった。奴隷は必ず首輪をつけていると思い込んでいたわ。奴隷のオークションだから舞台に立つだけで男たちが盛り上がっていたのね。

恥ずかしくなって舞台から飛び降りようとすると後ろから襟首を掴まれて持ち上げられた。


「おっとぉ。逃がさねえぜ。お前がどこの誰だろうと、もううちの奴隷だぁ。大きくなるまでは毎日踊って客を盛り上げてもらうぜ。うひひひ。」


「やだやだ! お母様と一緒に旅をするんだから、離してよ!」


両足が浮いてしまっているため、上手く反撃ができない。かといってククリを抜けば大けがをさせてしまう。咄嗟にポケットから小刀を出してアラブ商人の手首を浅く傷つける。


「ふぎゃ!」


私は急に落されて舞台に這いつくばる。いてて。逃げなきゃ。


「このガキ、ぶっ殺してやる!」


そこへアラブ商人の蹴りが飛んできてギリギリ床を転がってかわす。

私の顏の目の前で容赦ない蹴りが空を切る。


「踏み潰してやるからそこを動くんじゃねえ!」


血走った眼のアラブ商人は大股で迫ってくる。

私は膝立ちになり、いよいよククリを抜こうと手をかける。

でもこの程度のトラブルで足を斬り飛ばすのは可哀想よね。大怪我をさせずに行動不能にするにはどうすれば良いかな?ククリの峰打みねうちですねを叩くか。いや、手加減しても骨が折れちゃうわね。もっと簡単に気絶させる方法はないかしら。

色々な考えが巡り、迷って手が止まっている間にもアラブ商人は迫る。

その大きな足で私を踏み潰そうと目の前に踏み込んでくる。


その時、


「リルカちゃんに触るんじゃなかと!」


おタマさんが舞台に駆け上がってきて小盾の裏からゴム紐をグイッと伸ばす。

スリングショットだわ。そんな隠し武器が付いてるのね。なんだか恰好良い。

振り返るアラブ商人の股間に、赤い弾が突き刺さる。

あれはヤシガニのハサミの爪だ。


「うぴょぉひぇあはぁふ!」


アラブ商人は厳つい顔を情けなく歪めて股間を押さえ、不思議な声で叫んだ後、倒れて舞台から転がり落ちた。


それと同時に、おタマさんの顔を隠す布がハラリと落ちる。

あー、おタマさん、慌てて来たから頭の布が解けてしまっているわ。


「「「うおおおおぉぉぉおお!」」」


おタマさんの顔を見て、男たちが雄叫びを上げる。

黒くサラサラな髪、白い肌、優しく儚い可愛い系女子が、強面なアラブ商人をしばいて舞台から叩き落とす。なんというできすぎた見世物だろう。

刺激に飢えた男たちの心を鷲掴わしづかみするのも頷ける。


「ばっ! どーし……。」


歓声にうろたえてオロオロしているおタマさんがまた可愛らしくて、歓声が大きくなる。

ていうか、私の踊りよりも歓声が大きいかも。

くっ、悔しくなんて無いんだから!


私は慌てて布を拾い上げ、おタマさんの手を引き舞台を飛び下りて広場から全力で離れる。

息が切れるまで走って、建物の影に隠れて一息つく。

あー、怖かった。うっかり奴隷として売り飛ばされるところだったわ。


「はぁはぁ、えっと、リルカちゃん、いけんよ!」


息を弾ませたまま、おタマさんが涙目になって頬を膨らませて叱ってくる。

うん、可愛い。私でもキュンとなるわ。


「ごめんねおタマさん、もう置いていかないから許して。でもあの奴隷のお姉さんたちはどうなるの?」


「オークションで買われてどこかで労働たいね。」


「そっかあ。私を助けてくれたリュートの上手なお姉さん、恩返ししたいのになあ。」


おタマさんの頭に布を巻き直して、目立たない様に交易拠点フェイラに戻る。

そこでお母様に報告すると、どうやらこの町は奴隷交易が中心で成り立っているらしい。売る者も買う者も奴隷が目当てで集まってくる。しかしこの辺りで犯罪奴隷や戦争奴隷がたくさん発生している報告はないから、私が見た奴隷たちは、奴隷狩りされたか、他国から売られて来たはず、と教えてくれた。

私を助けてくれた奴隷のお姉さんだけでも救いたいと伝えると、少し考えて一緒に広場へ来てくれることになった。


お母様の号令一下、あっという間に軍装を整えた近衛軍兵士が100名ほど整列して出発を待つ。

ギンシャリに乗ったお母様を先頭に広場へと向かう道では、人が見事に端に寄り道を空ける。

広場に到着すると同じく舞台に群がっていた男性が慌てたように大きく割れて道を作る。


テテの町のアラブ商人であるラムズィだって知っていた。

この町にいる皆が同じように知っていて、かつ、恐れていても全く不思議はない。

屈強な黒い兵士を率いて、白く美しく目立つ馬に乗り、颯爽と進む美女が誰なのか。

群衆が割れて広場にできた道の中央を堂々と進む姿は、見る者に威圧感を振りまいており、そのまま舞台の前まで馬を乗りつけるお母様。


私が町で噂を聞く限り、お母様はこの国の守護者にして、理不尽わがままの象徴である。

お母様が悪者や黒魔術師を退治する噂とセットで、お母様の理不尽で酷い目に遭った者の噂を同時に聞くのが常だ。

この刺激の少ない王国で、お母様の噂話は最高のネタなのだ。だから誰でも知っている。

しかし噂で聞く分には楽しくても、目の前に現れたら自分にどんな理不尽が降りかかるか想像してしまう。恐ろしいに決まっているわ。


舞台の上では先ほどのアラブ商人が、奴隷を一人一人オークションで売っているところだったようだ。

その頭には舞台から落ちた際に作ったであろうたんこぶが膨らんでいる。

そしてたんこぶのせいなのか、短槍を持って自分を囲む兵士たちを見たからなのか、顔を青くしてお母様にへりくだる。


「しょ、将軍様、こんなちんけな奴隷商人に何の用ですかい? 俺は悪い事してませんぜ。こいつらは全部北の国で買った奴隷たちでさぁ。この王国内で奴隷狩りなんて一切できるわけがないですぜ!」


「分かっている。うちの娘が世話になったようだから挨拶にきたのだ。」


お母様はまるで何かそこらに転がるつまらない石ころでも見るように表情を消して冷たく言い放つ。

アラブ商人は緊張のあまり脂汗を流して、何を言っているのか理解ができないといった顔でお母様を見つめていたが、ふと目線を外した先に私を見つけて目を見開く。


「げぇ! さっきのガキ! いや、あの、そちらのお姫様が将軍様の娘さんですかい?」


「そうだ。うちのリルカが世話になった。」


「ひっ! し、知らなかったんでさぁ。勘弁して下せえ。何もしてませんぜ。」


「私を奴隷にしようとしたわね。そして踏み潰そうとしたわ。」


それを聞いた兵士たちが一斉にアラブ商人の首元へと短槍を突きつける。

鈍く光る鉄の矛先ほこさきがぶつかり合って彼の喉元へ冷たい音を響かせる。


「おお、許してくれ。もうダメか。インシャアッラー。私の命はここまでか。」


髭もじゃで強面な顔をくしゃくしゃに崩して、泣きながら跪いて許しを請うアラブ商人。

そこに表情を消していたお母様が急にニッコリと笑って話しかける。明らかに商売用の笑顔だ。恐ろしさと寒気しか感じない。


「今回は別に命も取らないし、罰も与えないから安心しなさい。そんなことよりひとつお願いがあるのだけど。あなたが持っている奴隷も含めて、今この町で売られている奴隷を全て私が買うわ。奴隷商人を集めてくださる?」


「は? へぇ? はあ!?」


泣いていた強面なアラブ商人は呆けた顔になる。


「恐れながら、この町に奴隷が何千人いるかご存知で? すべて将軍様がお買いになるんですかい? 全て無料で差し出せということですかい?」


言葉を口に出しながら、その意味を徐々に認識していくように、

アラブ商人の呆けていた顔が、先ほどまでとはまた違った絶望の顏に変わっていく。


「そうよ。数千人しかいないのでしょう? 私が全部買うわ。でも無料で差し出せとは言わない。ちゃんとあなたたちが買った値段の上に、利益も乗せて良いわ。でもまとめて買うから安くしなさい。さあ、仲間のところへ行って話をまとめてきなさい。それまではここにいる奴隷は私が預かるわ。」


兵士に引っ立てられるように連れられていくアラブ商人を見送る。

その顔は混乱極まった焦燥した表情だ。

いつでもムスッと怒ってそうな強面なのに、なんと表情豊かにコロコロと顔が変わることだろう。商人というものは顔芸が達者なのかもしれない。


今回のお母様の要求は思ったより理不尽でもないんだから、しっかり頑張りなさいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ