6歳2月(10)
6歳2月(10)
「さあ改めて、ボンス・シスナイスの町を探検よ! いってきまーす。」
「リルカ1人じゃダメ! おタマちゃんと一緒に行きなさい!」
お母様の命令で、おタマさんと一緒に交易拠点を出る。
おタマさんは可愛らしいフリルがたくさんついたメイド服を着て、顔を布でグルグル巻きにしている。その両腕には丸いお盆のようなものが1つずつくっ付いている。
「おタマさん、暑くないの? それにお盆なんて何に使うの?」
「白い肌は目立つから仕方なかと。腕のこれはお盆にも使えるけん、本当は小盾たい。盾の裏には短剣やランタンや便利道具がたくさん詰め込まれているキノト様特製の“ランタンシールド”という武器で、ほら、見るたい!」
おタマさんは盾の一つを外して道端の樽の上に置き、もう一つの盾の裏から短剣を取り出して樽の上に置いた盾の上で構える。
「ほら、包丁とまな板の代わりにもなってどこでも調理できる、便利ものたい。」
なんか盾と短剣の使い方が私のイメージと違うけど、まあいいや。
おタマさんは布でぐるぐる巻きに隠された顔なのに“ドヤァ”といった雰囲気が伝わるくらい胸を張っている。今回のメイド服はコルセットの上にフリルで飾られたシャツの胸が乗る形で強調されている。
少しふくよかでどこを触っても柔らかいおタマさんの胸が、薄いシャツ越しに突き出されているのを見て思わず抱きつきたくなる。でもここは大通りの真ん中で人通りも多いから我慢するわ。
そんなことより、まずは市場にいかなきゃ。
旅の醍醐味は市場にあり! いざ突撃!
市場はテテやセナより小さいものの、海が目の前なので海産物の屋台が多い。
その中でひときわ目を惹くのがこれ、ヤシガニ!
ヤドカリの一種なんだけど、ヤシの実を食べているからヤシガニ。
なんと私の両手の掌を広げたよりも大きいサイズ。40cmはありそう。
足を広げたら私のククリよりも大きいから1m以上になりそうだ。
それを海水で茹でる。真っ赤になったヤシガニが
「おばちゃん! そのヤシガニ1匹ちょうだい!」
「あいよ! ここで食べていくかい? 解体してやるよ。」
私たちが頷くとニコニコ顔の屋台のおばちゃんは大きな包丁でヤシガニの足やハサミを切り落とし、殻を割って肉の部分を食べやすくしたものが山盛りになった皿をこちらに差し出してくる。
その白い身を手掴みで口に運ぶ。
海水は偉大だ。
ほのかな塩味が淡白な白身魚のような旨味を最大限に引き出す。
ホクホクとした肉厚の身からジューシーに溢れ出るエキスが堪らない。
「ほら、こいつをつけて食べるのが極上だよ!」
大喜びで殻に喰らい尽く私とおタマさんを見ていた屋台のおばちゃんが、
ニヤリと笑って差し出してくれたのは、ヤシガニの本体を半分に割ったもの。
その中には黄色の濃厚なソースがなみなみと入っていた。
「こ、これはカニ味噌たい!」
興奮したおタマさんが吠える。
カニ味噌というけど、ヤシガニの脳みそではない。肝臓とか膵臓に当たる部分の内臓らしい。
つまりカニのフォアグラだ。それを殻の内側についている白い塊と全部合わせて混ぜる。
そうしてできたのがこの黄色のソースだ。
ヤシガニの淡白な白い身をカニ味噌ソースに浸し、パクっと口へ運ぶ。
強烈に濃厚なコクと甘みが襲ってくる。そして噛む度にほのかな塩味と旨味を凝縮したようなカニの身のエキスが混ざり合う。至福。頭の中の全てが幸福な味に支配される時間。
なんでヤシガニさんはこんなに美味しく生まれてきちゃったのだろう。
あれだ、100点満点と100点満点の味が混ざり合って150億光年点よ!
ビッグバンクラスね。宇宙の味だわ。
私とおタマさんは無言になって夢中でヤシガニを食べ尽くす。
お腹いっぱいになって屋台の傍にあるベンチで一休み。
恍惚の吐息を漏らしながら、とろんと上気した目で幸福な味を反芻しているおタマさんが妙に色っぽい。こんな顔を他の人には見せられないよ。顔を布でグルグル巻きにしておいて良かったね。
おタマさんは思い出したようにレシピを書きはじめた。
ヤシガニの運び方などを屋台のおばちゃんに聞いてる。
王国の料理人としてはこれはぜひ使いたい食材だろうけど、
新鮮な状態で王都まで運ぶのが大変そうだね。
お腹も落ち着いて暇になった私は何か面白そうなものが無いか見回す。
あっちの広場では舞台の上にセクシーなお姉さんが立っているみたい。
また旅芸人かな。
「おタマさん、まだレシピ書いてるの? 先に行ってるよ!」
「あとちょっとやけん、リルカちゃん待つたい!」
「すぐそこだから大丈夫。追いかけてきてね!」
おタマさんの返事を待たず、広場に駆け出す。
舞台の周りには荒々しい男性たちが歓声を上げている。
舞台じゃ様々な肌の色をしたお姉さんたちがセクシーな衣装で立っており、脇の階段から新たに1人ずつ舞台へ上がって立つたびに観客は大盛り上がり。
場が温まっているわね。
お、あそこの舞台の脇にお姉さんたちが並んでいるわ。
よーし、私も舞台で覚えたての踊りを披露しちゃおうかな。
舞台の脇に並ぶお姉さんたちの後ろに並んでいると、舞台に上がる順番が回ってきた。
「おおぅ? お前みたいなガキは、うちにいたっけな?」
ターバン巻いて髭もじゃ、厳めしい顔のアラブ商人が私に聞いてくる。
「おっちゃん! 次は私が舞台の上で、剣の舞をしてもいい?」
「剣なんか持って無粋な恰好してやがる、と思ったら踊り用か、さっさと舞台の上でアピールしてこい!」
舞台の上にあがると、今までお姉さんたちが立っただけで大歓声だったのに、私を見て静まり返っている。あれーさっきまで大盛り上がりだったのに、やりにくいなあ。セクシーな衣装じゃないからかな。先にリュートで場を盛り上げようか。
「踊るのでしょう? そのリュート、私にお貸しなさい。」
舞台の後ろに並ぶお姉さんの1人から、黒くスラリとした手が差し出された。
その年頃は、テテの町のお喋りジョイスより少し大人びている。12歳くらいだろうか。
「余計な事をするんじゃねえ!」
「リュートを弾けた方が私の価値が上がりますわ。」
お姉さんはアラブ商人の怒鳴り声を無視して私からリュートを受け取ると、小気味よいリズムの曲を鳴らし始める。このお姉さん、リュートが上手だわ!
私はククリを抜いて舞い始める。
踊りながら足で舞台を踏み鳴らす。観客の何人かが手拍子を始めた。
ククリと私、2人で1つの生き物。
身体を振れば、ククリもそれに引っ張られて振られる。
大きく流れるような動き、ククリの動きたい方向へ邪魔しないように。
リュートのテンポが速くなっていく。
ここで回転、小さくなって速く、大きくなってククリを振り抜く、そしてまた小さく。
夢中になってククリの声を聞く。
“こう動きたい”、“こっちの向きになりたい”、ククリを持つ手から伝わってくる声。
なんだ、最初から教えてくれてたんじゃないククリ、一緒に踊ろう。
リュートは更に激しく鳴り響き、ついにクライマックスを迎える。
ククリと私、私とククリの声が混ざりあう。ひとつになる。
リュートが最後の音を奏でると共に決めのポーズ!
集中していて聞こえてなかった歓声が戻ってきた。
観客もみんな踊って手を叩いて大興奮だわ! おひねりも沢山飛んできた。
私の剣の舞、大成功ね!
「いやー、おめえら奴隷として売り払うよりも旅芸人として稼いだ方が儲かりそうだな!」
アラブ商人が満面の笑みでおひねりを拾い集める。あれ? 奴隷?
私が、奴隷ですって!?




