6歳2月(3)
6歳2月(3)
「明日からしばらく行ってきます!」
いつもの丘の上、リルカ探検隊のお兄ちゃんたちにご挨拶。
「お土産は金儲けのネタになるものか、美味しいものを頼むだす。」
金かご飯しか興味の無いフマが一番に返事する。
「リルカの御守が減ると、ずいぶん楽になりそうである。」
基本的に失礼なカイサが興味なさげに言い捨てる。
「せっかくの探検だってのに、おいらたちも一緒に行けないのが残念だぜ。」
両手をおへその前で組み、大胸筋をぴくぴくさせながらオニカがアピールする。
デカい、デカいわ! 胸の中にウサギさん飼っているんじゃないの?
人懐っこく舌を出して尻尾を振るソフィアを抱っこしながらデデがニコニコ頷く。ダブル可愛い。
「仕方ない、俺たちは仕事があるし、幼年兵を卒業するまでは正式な護衛にもなれないんだ。今回は諦めよう。リルカ、無事に帰ってくるんだぞ。」
真面目なアディルだけがまともな見送りの言葉をくれる。
「ソフィアだけは連れて行きたかったんだけど、お母様がソフィアの訓練が終わるまでダメっていうのよ。モフモフ成分が足りないわ。」
デデからソフィアを受け取って撫でまわす。
モフモフ、モフモフ、2か月分のモフモフ成分を補給しなきゃ。
「私が居ない間は、アディルにいさんがリルカ探検隊の隊長代理よ。よろしく頼むわね。」
「リルカが居なければ特にやることないぞ。」
「そんなことないわ。毎日特訓よ! お兄ちゃんたちみんな、戻ってきた私に負けない様に、もっと強くなっておいてよね。」
「どういうことだ? これから2か月程度、俺たちは訓練を受け続けて、リルカは旅で訓練はお休みだぞ?」
「私は旅の最中は毎日、お母様と1対1の特訓をすることになったの。」
「「「「あー……。」」」」
「よし、わてはパンツ作って売っとくだす!」
「なんでパンツなのよ?」
「新しい商売の知識とお金を溜めておくのがわての特訓だす。」
仕方ないわね。フマだし。商売の方が活躍してくれそうだわ。
「がぅ♪」
抱っこしているソフィアのひと吠えに、デデもニコニコして頷く。
デデもソフィアと一緒に訓練を頑張るってことなのだろう。可愛い。
「フマあにじゃも、デデにぃにも、ソフィアもそれぞれ頑張るのよ。」
そこへ武闘派な3人が胸を張って前に進み出る。
「いうまでもなく、おいらの筋トレに抜かりはないぜ!」
「ヘロヘロ矢のリルカに負けるはずがないのである。」
「俺に勝とうなんて10年早いぞ。」
抱っこしていたソフィアを降ろし、
徐に岩の後ろから隠しておいた戦闘服を取り出す。
真・リルカ装備、装着☆
「お、おい、なんだそれは。見たことない装備だぞ。」
私はアディルの問いかけに無言で弓を取り出して矢を番え、全力で引いて空へ放つ。
矢は空気を切り裂き、地平線広がる赤い大地の彼方へ消えていく。
「がう♪」
あ、“とってこい”じゃないのにソフィアが駆け出して取りに行ってしまった。
見つかるかな?
「どこまで飛んだか全く見えないだす。これはすでにカイサの矢より遠くへ飛んでいるだすね。」
楽しげなフマが舞う様な足取りで近づき、嫌らしい表情でカイサの顔を覗き込む。
続けて弓を仕舞い、ククリを抜いてオニカに柄が向くように投げて渡す。
気軽に逆手で受け取ったオニカは取り落し、裸足の足元へククリが突き立つ。
「うおぉっとあぶねえ! 鉄の塊みたいに重たいぜ! こいつをリルカが振り回すって?」
「ふひひ、アディルの大楯も一撃で叩き割られそうだすね。」
アディルもカイサもオニカも、ようやく危機を感じたのか、それとも楽しげなフマの声に苛ついているのか、顔が引きつっている。
「2か月後、楽しみにしているわ。あ、そうそう、なんかマラヴィ帝国の王子と私のお見合いがあるんだって。本当に面倒くさくて嫌になっちゃうわね。いってきます!」
「「「「はっ!?」」」」
「やっぱり混乱するわよね。大丈夫、ちゃんと帰ってくるから安心して待ってて。じゃ。」
「ちょっと待て……!」
「リルカ……!!」
お兄ちゃんたちを背にして駆け出すと、私の後ろで何やら口々に叫んでいた声が急に途絶えた。
振り返ると白いだぼだぼのローブを頭からすっぽりと被った魔法使いのような人が5人に話しかけていた。なんだか怪しいなと思いながらお家に帰る。
旅の準備も最終チェック。おタマさんとおスミさんは大忙し。
いよいよ明日からマラヴィ帝国へ探検よ!
◆◆◆
「次、6時に敵、てっ!」
ここはテテへの移動途中。借りた馬に1人で乗って川沿いの渓谷を進む。
お母様の指示で足場の悪い道で馬を進めながら真後ろを向いて素早く弓を引き、ゆっくり戻す。矢は番えていないので筋トレと馬上のバランス感覚を養うための訓練だ。
「もっと膝に力を入れなさい! 振り落されるわよ!」
もう腕も膝も生まれたての子牛の様にプルプルに震えている。
素肌を出さない様に布でグルグル巻きになった私とお母様、それにおタマさんとおスミさんの4人は馬に乗っている。それぞれに護衛のレンジャー隊員が虫取り網をもって蚊やハエを追い払う。
その後ろには100頭近い馬が荷物を積んで続く。総勢200名ほどの旅団だ。
私の弓を引く力が尽きて、馬にしがみつくのがやっとになったころ、ようやくテテの町が見えてきた。
◆◆◆
1か月ぶりのテテの町。自由時間は1日だけ。大急ぎで回らないと。
「リルカ、護衛は?」
「必要ないわ! 治安維持部隊のパンツたちもいるし市場の人たちもみんな顔見知りだもの。」
町の入口で馬から飛び降りて人混みを縫うように走り出す。まずは約束通りラムズィのところへ。
「ラムズィ、来たわよ。」
「おやー、早いお帰りだねー。リルカちゃーん。」
相変わらずへらへらした顔と気の抜けた口調だ。
宿屋は立て直している最中。周りにテントを張って泊まっているようだ。
「東に向かう途中なの。明日には出るわ。」
「それは忙しいねー。今からちょっと時間あるかーい? ちょうど旅芸人の一座が公演してるんだー。」
「楽しそう! いくいく!」
市場の中央にある広場ではすでに観客が詰めかけている。
ラムズィと一緒に近寄ると道が開き、最前列の特等席に案内される。
ラムズィ、便利なやつだわ。
舞台ではすでに演劇のようなものが始まっている。
リュートや笛や太鼓の楽団が奏でる悲劇的な音楽に合わせて、
無理矢理パンツを頭に被された女性が頭を抱えるようにして倒れ込む。
「私がパンツに♪ パンツが私になる~♪ いやっいやっ助けて~♪」
「おのれパンツボス~♪ 決して許しはしない~♪」
防具の役割を放棄したような穴だらけの金属片を鎧と呼んで良いのか分からないが、
金色に光る豪奢な鎧を身に着けた女性がその身体に不釣り合いなほど大きな剣を目の前の女性に向ける。
「小娘め~貴様もすぐにパンツを被せてやる~♪」
剣を向けられた女性は穿いているパンツも被っているパンツも、共に隠す意図などまったくないヒラヒラした扇情的な赤い布を身体に纏い、上下のパンツ丸出しのまま両手を広げると、同じく赤い布を纏った上下にパンツ丸出しの女性たちが武器を持って一斉に舞台へと現れた。
歓声が沸き上がる。音楽は変わり、勇ましい音が流れ出す。
「ラムズィ? なんとなく観たことある気がするんだけどこれ。」
「僕が作った演目だよー。“パンツと黒姫無双”ってタイトルさー。今からクライマックスだよー。」
まったく本当に抜け目ない男だわ。私たちをモデルにした演劇で観客は大入り。大儲けね。私にモデル代を支払うべきじゃないかしら。
舞台の上のお姉さんたちに目を移すと、白人ほどじゃないけど私たちよりもずっと白い褐色の肌。アラブの血なのだろう。豪華な装飾とセクシーな衣装を纏った細く美しいお姉さんの肌は、艶めかしく輝いて息を飲む。
「ここから剣の舞だよー。楽しみだー。」
「剣の舞? 剣が踊るの? お姉さんが踊るんじゃないの?」
私の質問を待たず、楽団は一旦テンポを下げてゆったりとした曲を流し始める。
お姉さんは大きく流れるように舞台上を動き、艶めかしく剣を愛でる。
美しさを通り越した何かに、鳥肌が立つような身震いが起こる。目が奪われる。心が騒ぐ。
楽団は次第にテンポを上げていく。
お姉さんの細い腕ではとても振り回せないはずの剣がスピードを増して縦横無尽に振り抜かれる。
お姉さんは何度もクルクルと回転し、一緒に剣も出たり引っ込んだり踊る。
敵役の女性がなぎ倒されるように次々とやられていく。
まるで人が2人いるかのように、剣と人が一緒に踊っている。
血が滾る。身体が爆発しそうに腰が浮く。
背中にぶら下げていたリュートを背中から取り出す。
「あー! リルカちゃーん?」
ラムズィの止める声も無視して、リュートを掻き鳴らしながら舞台に躍り出る。
剣の間合いに入らない様に気を付けながら、近くでお姉さんの踊りを見ながら私も踊る。
観客も堪らず一緒に飛び跳ねて踊り出す。手を打ち鳴らす。
息も付かせぬようなハイテンポのリズム。
もうずっと踊っていたい!
そんな気持ちを読んでいたかのように最高潮に盛り上がった曲が終わる。
観客の大歓声を受けて、弾けるような笑顔のお姉さんと一緒にご挨拶。
たくさんのおひねりが飛んできた。
これだ、この踊りだわ!




