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6歳2月(2)

6歳2月(2)


旅の準備期間。


私は新しい武器が嬉しくて毎日訓練。

キノコ爺が作ってくれた私専用の戦闘服には腰や両肩に頑丈なベルトが付属しており、背中に弓や矢筒、腰の後ろにはククリの鞘が配置されていつでも手に取れる。ついでに私のリュートも背中にぶら下げられるようにしてもらった。これ1つで全て装備完了。お手軽だわ。

また戦闘服には様々な大きさのポーチやポケットがあり、お役立ちグッズを収納している。

初めての自分専用の武具はすごく可愛い。毎日寝る前に磨いちゃうんだから。でも戦闘服を着たまま寝ようとしたらさすがにお母様に怒られたわ。


弓はなんとか70%くらい引けるようになったけど、連続して何度も射るのはまだ難しい。

ククリは重くて振り回すと軽い身体が振られてバランスを崩してしまう。


このままじゃ防御が上達しないということで、お母様から最小の動きで受け流す剣の型を習う。

重心移動と足捌きが大切で、敵の攻撃を受け止めるのではなく、水の様に風の様に受け流すのが理想らしい。まずは徹底的に防御を覚えるというのが条件だから頑張るけど、このままじゃ攻撃ができるようになるのは何年後になるか。困ったなあ。


こうして出発の日まで新しい武器の訓練に明け暮れる毎日。


おうちに戻るとおタマさんとおスミさんが忙しなく旅行中の服や調味料を梱包している。

全部で2か月ほどの旅になるらしいから準備も大変。

ときおり補給部隊の連絡員が来て報告書を置いていく。

馬や物資の手配に道中の野営地や宿の選定など、補給部隊も大忙し。


そこへお母様が大きな袋をもってやってきた。


「旅には新しい服が必要だわ!リルカには戦闘服だったけど、あなたたちにも旅用の新しい服よ!」


忙しく動き回るおタマさんとおスミさんを呼びつけて服を取り出す。


「おタマちゃんにはレースのフリルがさらに可愛いふわふわなメイド服。おスミちゃんにはボーイッシュでパンツルックが素敵な執事服よ。」


完全に趣味の着せ替えを楽しんでいるようなお母様は、普段見ないほど興奮した顔で着替えを催促している。おタマさんは喜んで今のシンプルなメイド服から早速着替える。

お母様はそれをみておタマさんの頭の後ろでお団子になっていた長く黒い髪を解き、ツインテールに結び直す。出来上がったおタマさんの姿は御伽話に出てきた魔法少女のように華やかで可愛らしいメイドさんそのもの。


「この服はひらひらふわふわしよるばってんけど、軽くて動きやすいばい。」


おタマさんもお母様も満足そうに笑う。

そしていつの間にか着替えたおスミさんはスラリとした体形に執事服が似合っており、黒髪のショートカットも相まって男装の麗人のようになっている。特にうなじがとても綺麗。


「とても良い。動きやすい。」


鼻息荒く興奮したお母様は二人を抱き寄せてぐりぐりと頬ずりする。


「二人とも本当に可愛いわね!」


ニコニコしているおタマさんとすまし顔のおスミさん。

そこに私も飛び込んで一緒に抱きつく。


「お母様もおタマさんもおスミさんも可愛い!大好き!」


ぐりぐりと3人をまとめて頬ずりする。

変わらずニコニコしているおタマさんとすまし顔のおスミさん。


私の気が済むまでぐりぐりと頬ずりした。

ずっとずっとこうしていたい。

この4人で旅なんて夢みたい。


◆◆◆


「いただきまーす!」


出発前にお父様とお食事会。


「あぁ。心配だ心配だ。パクパク。リルカが心配だ。むぐむぐ。おタマもおスミも頼んだぞ。」


お父様は口いっぱいにご飯を頬張りながら眉をハの字にして言葉を繰り返す。

食べるのか心配するのかどちらかにしてほしい。


旅行期間中はおタマさんとおスミさんが居ないため、お父様はこのご馳走を食べられない。

今日はお父様の好物である“チキンかれぇ”。私もだし巻卵を焼いたわ。

ちなみにカレーというのはインドで煮込み料理全般を指す言葉なので、

煮込んだら何でもカレーって呼んでも間違いじゃないみたい。

でもお母様が創作したこの“チキンかれぇ”はまったく違う。カレーであってカレーじゃない。

ビーフシチューよりも粘性が高く、ほくほく甘く煮られたざく切り根菜がゴロゴロ入り、濃厚な鶏だしと香辛料たっぷりな味わいに、別鍋を使い油でゆっくりと煮込まれた鶏もも肉が一枚丸ごと入っている。肉はスプーンでつつくだけでほぐれてしまうほどの柔らかさだ。

一度スプーンを口に運んだらもう止まらない。いつの間にかお皿が空になり、何度もお代わりしてしまう。

お母様の理想としてはライス、白いご飯にカレーをかけたいらしいが、トウモロコシ粉を炊いたシマでも十二分に美味しい。


「なあ、お母さん。マラヴィ帝国との外交案件は農業改革だろ? リルカは連れて行かなくてもいいんじゃないか?」


「目的は色々あるけど、ついでにリルカのお見合いがあるのよ。」


ご飯を頬張ったまま目を見開いて時が止まるお父様。その顏が見る見るうちに青くなっていく。

大変! ご飯が喉に詰まっている。

水を飲ませて背中を叩いて、どうにかこちらの世界へ呼び戻す。

涙目になっているのが咳込んだせいなのかお見合いと聞いたせいなのか分からないが、悲壮な顔でお父様が叫ぶ。


「ど、どういうことだ! リルカのお見合いなんて聞いてないぞ!」


「大きな声を出さないで。今言ったわ。リルカを王子の嫁に欲しいって申し込みが来ているのよ。」


「帝国の腹黒ジジイからか! 俺は絶対に許さないぞ!」


「お母様、本気? まだ早いわよ。」


「この国じゃ6歳で許婚いいなずけを決めるのが当たり前らしいからリルカも早くはないわ。それに各国の王子様と会っておくだけでも無駄じゃないしね。」


「まてまて、あの腹黒ジジイは周りの人間を駒としか思ってないんだ。しかも女性を憎んで蔑んでる。そんなところにリルカはやらーん!」


「お母様、マラヴィ帝国では女性の地位が低いの?」


「マラヴィ帝国は女権社会よ。女性が家を継いでいくの。」


「女権社会って?」


「この国はリルカのお父さんが一族の長で、全財産と全権力を持っていて、お父さんの男の子供の誰かがその跡を継ぐよね?これが男権社会。女権社会はその逆。例えるならお母さんが全財産と全権力を持っていて、跡を継ぐのは女の子供であるリルカになる感じね。」


「すごいじゃない。女性の方が偉いのね。でも王様は男性なの?」


「一族の長は女性だけど、政治の長は男性なの。分かれているのよ。そして女性に振り回された王様は女性のことが嫌いみたい。だからかしらね、国内の女性から選ばずに新しい血筋の女性を求めるってことは、今までのしがらみから離れた新たな王族を作りたいって意図なんでしょうね。」


「うわ、万が一にも私が結婚したら、とんでもなく面倒なことになりそう。」


「リルカが王妃になったら新しい王族の長はリルカってことになるけど、今までの一族との大抗争は避けられないわね。」


「ほらみろ! 俺は絶対に反対だ。あんな腹黒ジジイの息子なんてきっと碌なもんじゃない。リルカのことなんて守れやしない。リルカを連れて行くのはゆるさーん!」


「私はお見合いも結婚も興味ないわ。でも……。」


「大丈夫。私もリルカのお見合いなんてお断り前提だと考えているわ。ただ断るにしても直接顔を合わせて断らないとね。リルカの顔を売っておく目的もあるし、せっかくの旅だもの一緒に行きたいわよね?」


お母様は茶目っ気たっぷりの笑顔でウインクしてくる。そうそう、旅に行きたいだけなのよ!


「無視するなよ。俺はリルカを連れて行くのは絶対反対って言って・・・」ドン!


「リルカちゃんと一緒に各地の美味しい物を食べ歩くの楽しそうたい。お見合いなんて断れば良か。」


お父様の言葉へ被せるように、ニコニコ顔のおタマさんが、チキンかれぇを山のように盛り付けたお代わりの皿を、普段は出さない音を立ててお父様の前に置く。


「そうよ、断っていいのよね。お母様とおタマさんとおスミさんと一緒の旅なんて最高の機会を逃すわけにはいかないわ。」


「だから無視するなって。俺は許さな・・・」ドン!


「リルカ姫が“お断り”と言えば良いだけ。問題ない。」


お父様の言葉を遮るように、澄ました顔のおスミさんが、私の焼いただし巻玉子が乗った皿を、普段は出さない音を立ててお父様の前に置く。


「じゃあ、私とリルカとおタマちゃんとおスミちゃんで、女性だけの旅を楽しもう!」


「「「はーい♪」」」


「俺を仲間外れにしやがって! うわーん!」


お父様が泣きながら家を飛び出ていってしまった。

いじめ過ぎだと思う。

うちって本当は女権社会なのではないだろうか。


あっ! しまったお父様に言い忘れたことがあった。


「まってー! お父様!」


お父様を追いかけて呼び止める。

家の外で泣いていたお父様が嬉しそうな顔で振り返る。


「リ、リルカ。分かってくれたか。」


「お土産買ってくるからお小遣い頂戴!」


「ぐっ。ぐふぅ。」


お父様は懐からお金を取り出して私に握らせると、そのまま泣いて走り去ってしまった。

玄関からその様子を覗いていた3人が口を開く。


「トドメはリルカちゃんたい。」


「リルカ姫、鬼畜。」


「リルカはお父さんにごめんなさいしないとね。」


この3人に言われるのはせないわ!



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