6歳1月(30)
6歳1月(28)~(30)の3話分がひとまとまりのお話しです。
6歳1月(30)
「一同の者、面をあげなさい。」
白砂利の上で膝をついて頭を下げていた男女が顔を上げる。
「今回の訴えは全財産を使って嫁を手に入れたルードから。大切にしていた嫁のルナコが、ある日突然1頭の牛を持って帰ってきた。浮気したか身体を売ったに違いない。離婚する場合は全財産を返してほしいということで相違ないわね?」
「へい、オラはある日、ルナコを見て頭が爆発しただ。こんな美しい人が世界にいるなんてと神様に泣いて感謝しただ。どうにかして嫁さんにしたいと思っただ。その時、オラは100頭もの牛を持っていただ。普通なら一生食うには困らないだ。でもそれをすべてルナコの親に差し出して、ついにルナコを嫁さんとして買うことができただ。
結婚してからオラは貧乏になって、毎日畑で働き、他人の牛の世話をして乳を絞り、朝早くから遅くまで頑張っただ。それでもオラは幸せだっただ。家にルナコが居るだけで心臓が飛び出るほど踊り、ルナコが笑ってくれたら頭で肉が焼けるほど熱くなっただ。オラはルナコを愛していただ。」
「すごいわね。本当に愛していたのね。それがどうしてこんな訴えに?」
「先日、ルナコの義父さんが様子を見に来ると言ってきただ。貧乏でルナコに苦労をかけているのを知られたくなかったオラは、世話になっている人にお願いして牛肉と乳を借りただ。しかし家に戻るとルナコが1頭の牛を手に入れていただ。オラの知らないところでルナコが何をしたのか知りたいだ。浮気とか身体を売ったのなら……オラは離婚するだ。ルナコを幸せにできないオラにはもう一緒にいる資格がないだ。」
「悲しい決意ね。ルナコさん、申し開きはある?」
「私は浮気もしていないし、身体も売っていません。どうしてもルードが信じてくれないのです。
私のお父さんも、ルードも本当に愚かな人。お父さんは3000頭も牛を持っているのに、たかが100頭の牛で私を売ったわ。私にたった牛100頭の価値しかないというのよ。
ルードも牛5頭や10頭で買えるお嫁さんはたくさんいたのに、財産の全てを出してまで私を買うなんて。せめて半分でも残していれば苦労して生活することなかったのに。そして私のお父さんが来るからと高い利子を払って牛肉や乳を借りてくるだなんて。これを愚かだといわずになんといえばいいの?
私は女に生まれたからには売買される覚悟はあったわ。それでも高く買われるために美しく磨き上げて努力してきたの。それなのになぜお父様はこんなに安く売ったの? なぜルードはこんなに苦労しなきゃいけないの? みんな愚かよ。愚か者だらけだわ! うっうう……。」
「ちょっと待ちなさい。」
私は天幕に頭を突っ込み、泣き言をいう。
『どうしようお父様、愛が重たいわ。』
『分かる! 分かるぞルード! 俺もお母さんに同じことをしたんだ。あれ? でも最近似たような話を聞いたような気がするな。』
『ええ!? お父様はお母様を全財産使って買ったの?』
『そうだぞ。その時、王子だった俺の全財産が牛1万頭はあった。その全部をマニカ王に差し出して、お母さんを嫁にくれとお願いしたんだ。』
『わぉ! やるわねお父様。』
『愛だよ、愛! きっとルナコのお父さんもルードの愛を見込んで、ルナコが幸せになれると思って嫁に出したんだ。高い安いの問題じゃないんだ。』
その時、お母様が勢いよく立ち上がってルナコに近づく。
「愚か者はあなたよ。ルナコ。」
ルナコは美しい顔に涙の雫を残したまま、驚いたように顔を上げる。
「牛100頭で買われたあなたは、ルードがそれ以上の牛を持てる男に育てないといけないわ。それができなければ、あなたはいつまでもたった牛100頭の価値の女よ。ルードが牛1000頭を持てる男に育てれば、あなたの価値もまた牛1000頭になるの。そうでなくて?」
「あ、あぁ。そのとおりだわ。将軍様、私は目が覚めました。女は美しさだけが価値じゃないのですね。」
「当たり前よ。ルナコ、忘れないで。女に値段をつける男どもはみんな愚かだけど、そんな価値観に縛られる女はもっと愚かよ! あなたはせっかく美しいのだから、もっと頭を使ってそんな価値観をぶち壊しなさい!」
「はい! 美しい将軍様に言われて本当に勇気が出ました。私、やってやりますわ!」
ルナコとお母様は、絆を確かめるように見つめ合い、何度も頷く。まるで周りに花が咲き乱れているかのように華やかだわ。
『ねえ、お父様はいま牛を何頭持っているの?』
『数えきれないよ。昔、10万頭までは数えた。いまはもっとだ。』
『お母様の価値、半端ないわね。』
『いまのうちに言っておくが、リルカはどこかの男が牛10万頭持ってきても絶対渡さないからな!』
『みゃはは。ありがとう、お父様。でもお母様のお父さんもきっと同じことを思っていたわよ。』
複雑な顔をするお父様。
そこへほったらかしになったルードの戸惑った声が届いた。
「あの~。オラの訴えはどうなっただ? 結局、ルナコが連れてきた牛1頭はどうやって手に入れただ?」
「ルードには何度言っても分かってもらえないのです。これは町中で私をナンパしてきた男が、私の悩みをお話ししたらポンとくれた牛です。私は浮気もしてないし、身体も売ってないのです。」
「そんな馬鹿な話、信じられないだ。どこの世界に牛1頭なんて高価なものを何もせずにポンとくれる男がいるだ。ルナコがその男と浮気をしたか、身体を売ったに違いないだ!」
「本当よ。どうして信じてくれないの? その男はフラフラとスケベそうな顔で声を掛けてきたけど、私の悩みを聞いて涙を流しながら牛をくれたわ。とってもイイ人よ。」
「嘘だ! そんなにイイ人なら、そいつと一緒になればいいだ。オラは……オラは身を引くだ……。くうっ。うぐ、うぐぐ~。」
ルードは泣き伏せてしまうし、ルナコさんの話は確かに信じられない。どうしたら良いのだろう。
私が悩んでいると、お母様が口を開く。
「ルナコ、その男の名前は聞いてないの?」
「将軍様、申し訳ございません。その男は名乗りませんでした。しかし知り合いらしき女性がその男に話しかけてきた時、“遊び人のネコさん”と言っておりました。でもきっと偽名だから身元は分からないでしょう。」
「え? え? もしやルナコはこの可愛いネコの置物に見覚えがあるの?」
私は思わずネコの置物をルナコにつきつける。
「それは! ネコさんが持っていた可愛いネコの置物! まさか!?」
お母様が恐ろしい顔でゆらりと立ち上がり、白い天幕の中へと入っていく。
「ちょっと、お父さん、話し合いましょうか。」
「ぎゃー!」
天幕のあちこちが破け、椅子とかが飛んでくる。
私はルードとルナコに向かって大きな声で宣言する。
「その方らが手に入れた牛は確かに神様からの贈り物であったわ! ルードよ、ルナコの不貞の心配はなくなった。二人仲良く幸せな人生を送りなさい。これにて、一件落着!」
「「ははーっ! ありがとうございます!」」
ルードとルナコを手を取り合って仲良くお白洲を出ていく。きっとあの2人は大丈夫ね。
「ぎゃー! 誤解だあ! 真実を証明する裁判を要求するぅ!」
天幕の中からは悲痛な叫びが聞こえてくる。お父様とお母様の裁判って誰が裁けるのかしら。
誰がやるにしても、裁判はとても大変なお仕事ね。
しかしお父様は3000人もハーレムを持っているのに、まだナンパするのね。
本当に男どもはみんなスケベだわ。
気をつけなきゃ!
===================
お母様のお取り寄せ万歳!:バナナ
バナナには料理用バナナと生食用バナナがあり、食用果実として非常に重要で、東アフリカや中央アフリカでは主食として小規模ながら広く栽培が行われている。
花を料理に使う地域もあり、葉は皿代わりにしたり、包んで蒸すための材料にしたりするほか、屋根の材料などとしても利用される。バナナの“木”と言われるが本当は草であり、正確には果物ではなく野菜となる。
原産地は熱帯アジア、マレーシアなど。バナナの栽培の歴史はパプアニューギニアから始まったと考えられているがその歴史は1万年以上あり、紀元前にはすでにマレー系民族の移住によりインド洋全域、マダガスカルやアフリカ大陸東岸で栽培されている。
東アフリカではタンザニアやウガンダが代表的な生産地となっており、ウガンダでは調理用バナナをバナナの葉に包んで蒸したマトケが主食である。ウガンダでは「食べ物」と「バナナ」を示す言葉が同じマトケであり、日本語で「ごはん」と「米飯」が同じであることと似ている。
ムウェネムタパ王国では、ハンナがテテの町で手に入れた大量のバナナの後、定期的にバナナを輸入することになり、主にタンザニア周辺からのバナナ輸入によって食料事情がさらに大きく改善することとなった。
ちなみにバナナの皮は食べられないので利用はできない。そのため、皮を踏んだ人が滑って転ぶギャグは古今東西、世界中で通じる。
次から6歳2月に進みます。
2月からはリルカ初めての大きな旅へ。
お楽しみに!




