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6歳1月(28)

6歳1月(28)~(30)の3話分がひとまとまりのお話しです。

6歳1月(28)


私はいまお父様の肩を揉んでいる。

テテの町で使うお小遣いのために、勢いで約束した肩もみをすっかり忘れていたのだ。

お父様は私のつたない肩もみでも、気持ち良さそうにため息をつく。


「お父様、ずいぶん疲れているのね。」


「ああ、明日は大切な裁判があるからな。ちょっと働き過ぎた。お、そこそこ。もうちょい強く。」


食卓ではお母様が机に肘をついてレーズンを摘まんでいる。この間のテテの町で仕入れたらしい。お料理やお菓子に使っても美味しいけど、そのまま食べると手が止まらないやつ。


「お父さんはこの国の王様だから、どうしても決着がつかない裁判は最後にお父さんに回ってくるのよ。いうならば、最高裁判所ね。リルカ、せっかくだからお手伝いしてきなさいよ。何事も勉強よ。」


「最高裁判所! なんだか恰好良いわ。私も行っていいでしょ?」


「おいおい、お母さんはこないのか?」


「私は用事があるから遅れて行くわ。リルカ、私が行くまでよろしくね。」


「まかせて! 悪い人は私がビシバシ裁いてやるわ!」


困った顔のお父様の返事を待たずに、私が最高裁判所をお手伝いすることに決定した。

お父様の職場見学、楽しみだわ。


◆◆◆


お父様は、この国の王様であり、神様と同格ということになっている。

だから一般人には顔も見せないし、声も聞かせない。


そのため一段高くなった舞台の上に白い天幕を四方に張り、その中にお父様が隠れている。

そして訴えた人と訴えられた人は舞台の下に広がる白砂利に布を敷いて座る。


これがお母様のアイデアで作られた最高裁判所。

“お白洲しらす”っていうんだって。

白砂利は神聖さと公正さの証しよ。


「一同の者、おもてをあげなさい。」


白砂利の上で膝をついて頭を下げていた人たちが顔を上げる。

今日、お父様の声を伝える役はこの私。


「今回の訴えは母親の面倒をみていたズーバとその仲間たちから。大切にしていた母親が、ナカの所有する牛たちに轢かれて亡くなったということで相違ないわね?」


「はい、私は物心ついたときから足の悪い母の面倒をみてきました。この仲間たちもずっと助けてくれていたんです。しかしある日の夕方、金持ちのナカが所有する牛の大群が村を通り、その後に残されたのは母の亡骸。悔しくて悲しくてたまりませんでした。しかもナカはそれ認めず、金の力で長老から忘れろと圧力を加えてくるのです。」


「なんて、酷い事を! ナカ、申し開きはある?」


「ワシの牛が通った後に、その母親の亡骸が見つかったのは事実じゃ。しかしその場所は牛飼いな見張りをしている村の中ではなく、村から離れた牛専用の道。そんなところにいるなんて自殺としか思えない! 長老に聞いたところじゃ、その母親はもう何日も生きられないほど悪い状態じゃと聞いた。自殺なら、ワシは一切悪くない!」


「母の遺骸はボロボロでした。きっと村の中で牛にひっかけられて引きずられたのでしょう。優しかった母がとても見れない姿に。ううっ……。長老は私の必死の介護で元気を取り戻していく母を知っていたはず。それなのに!」


ズーバの周りにいる仲間たちが、母親が元気になっていたとか、ズーバが可哀想だとか一斉に言い立てる。


「許せないわね! ちょっと待ちなさい。この国の最高裁判を司る、ムウェネムタパ王の沙汰さたを聞くわ。」


私は白い天幕に頭を入れ、お父様に尋ねる。


『ねえお父様、あの金持ちのナカってやつ許せない! ナカのお金も牛も全部取り上げて、ズーバにあげちゃっていいよね?』


『リルカ、ちょっとまて。良く考えろ。足の悪い母親が、どうやって牛に轢かれるところまで歩いたんだ?』


『それは……。這っていけば……。でも村の中は牛飼いが見張っているのか。あれ?』


『いいかリルカ、今から俺の言う台詞を正確に伝えるんだ。』


◆◆◆


「ズーバとその仲間よ。ムウェネムタパ王はこの世のすべてを知っているわ。貴様らは家で亡くなった母親の遺骸を、金持ちのナカが使う牛専用の道に置き、牛に轢かれたと見せかけることで賠償金をナカから奪おうとした。真実はこうではなかったの?」


滅相めっそうもございません! 王様、まったくの濡れ衣でございます。」


「その方らの悪巧わるだくみ、確かに聞いたものが居るわ。遊び人のネコさんという者が……。」


遊び人のネコさん? 誰の事?


「おお、そのネコさんとやらが恐らくこの事件の真犯人です! 如何いかにも怪しげな遊び人でして、可愛いネコの置物をもっておりました。きっとそいつが母を殺害したに違い有りません!」


「まあまあ、随分と言ってくれるじゃないの。おめめを取り出してようく見なさい! ズーバが見たって言う可愛いネコの置物は、これのことね!」


お父様からこっそりと渡されたものをみんなに見せつける!

こ、これは。私がテテの町で買ってきた、ジョイス作のネコの置物。

遊び人のネコさんは、お父様のことだったのね!


ズーバたちは黒い顔を真っ青にして驚いている。

よっぽどネコの置物が可愛かったんだわ。


「大切な母親が亡くなったというのに、その亡骸を粗末にした上に、母親を利用しての詐欺という悪行あくぎょう。きっと母親の魂は泣いているわ。」


「すみませんっ! ずっと母の面倒をみて貧しい生活だったのです。母が亡くなる前に遺言として言ったのが今回の計画でした。でも! ボロボロになった母の亡骸を見て、悲しくて悲しくて……。大事にすれば良かった! 亡骸も大切に埋めてあげれば良かった! うっうっううう~……。」


「ショナ人は例え死んでも、その魂はあなたと共にいるわ。しっかり償って、戻って来たら仲間と一緒に頑張りなさい。」


「あ、ありがとうございますっ!」


「これにて、一件落着! 次を連れてきなさい。」


私は白い天幕に頭を入れて、お父様に突っ込みをいれる。


『お父様! あれは私のテテ土産じゃない! 遊び人のネコさんってなによ? あ、名前がネゴモだから、ネゴさんで、ネコさん? ってお父様が直接捜査するなんて、暇なの?』


『いや、お母さんがこのやり方が一番恰好良いっていうから。ほら、次の裁判が始まるぞ。』


◆◆◆


次に入ってきたのはショナ人たちとポルトガル人たち。


「一同の者、おもてをあげなさい。」


白砂利の上で膝をついて頭を下げていた人たちが顔を上げる。


「今回の訴えはショナ人である商人クンヤとその仲間の職人たちから。

発注を受けて作った木彫りのトーテムを、ポルトガル人である商人カルルシュが職人を殺害して、奪い取ったということで相違ないか?」


「へい。我らの仲間の職人がそこのポルトガル人から注文を受けて木彫りのトーテムを作っておりやした。しかしその職人は殺され、工房にあったトーテムはすべて盗まれやした。ショナ人ならお分かりでしょう!? ショナ人に神聖なるトーテムを盗む奴なんておりやせん。このポルトガル人がやったことに間違いありやせん!」


「そうね、ショナ人にトーテムを盗む奴がいるとは思えないけど……。カルルシュ、申し開きはある?」


「こいつら滅茶苦茶いいやがる! だいたいトーテムを発注したのは2年も前の口約束だ。半年で作れなかったら買い取らないと伝えていたのに、今になって難癖つけてきやがる。しかも何も俺がやったという証拠は無いんだぞ!?」


「職人は神が降りてくるまで作れないのは当たり前でやす! 半年で作れる時もあれば、2年で作れない時もあるなんて当然! それに唯一にして動かぬ証拠がありやす! 我らの霊媒師が宣託を下しやした! そこなるけがらわしいポルトガル人が犯人であると! 神様は常に見ておりやす!」


「期限までに作らなかったら商売じゃねえよ! それにお前らの霊媒師も神も知らねえよ! なんでそれが証拠になるんだ!」


「あー。ちょっと待ってなさい。この国の最高裁判を司る、ムウェネムタパ王の沙汰を聞くわ。」」


なんだか訴えているショナ人の方が無茶苦茶なことを言ってるように聞こえるわ。


どうしよう?

6歳1月(28)~(30)の3話分がひとまとまりのお話しです。

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