6歳1月(25)
6歳1月(24)~(27)の4話分がひとまとまりのお話しです。
本日の9時、12時、15時、18時に各1話ずつ更新予定です。
6歳1月(25)
こっそり宿舎に忍び込もうと裏手に回ると、そこには立派な小屋ができていた。
「おいらの筋トレで切った木材が余ったから小屋を作ったぜ。そこの“深淵の闇夜駆ける流星”のために使ってもいいぜ。」
「オニカあんちゃん! ありがとう! 大好き! ところで深淵の闇夜駆ける流星ってなに?」
「おいらは細々とした面倒はみれないから、こんなことしかできないって。深淵の闇夜駆ける流星はそいつの名前だぜ。」
そこへフマがやってきて、首輪とリード紐を見せる。
「今日は工房で油を大量に作っていただす。油が余ったので、その辺に余っていた革を滑して首輪とリード紐を作っただすよ。その“ゴールド”のために使っていいだすよ。」
「フマあにじゃ! さすがだわ! 大好き! ところでゴールドってなに?」
「わては時間も金もないから面倒みれないだす。でも仕事のついでならいいだすよ。ゴールドはその子の名前だす。」
さらにアディルがやってきて、器や木箱を持ってきた。
「余り物を貰ってきたぞ。ご飯を与えるための器とトイレのための木箱に使えそうだ。デデが抱いている“デカ耳”のために使ってもいいぞ。」
「アディルにいさん! 信じていたわ! 大好き! ところでデカ耳ってなに?」
「副隊長だからな、余り物をもってくるくらいなら迷惑じゃないぞ。デカ耳はそのチビの名前だ。」
最後にやってきたカイサは、狩った鳥を持ってきた。
「弓の練習で狩った鳥である。捌いて肉にするのである。余ったらその“リカオ”にくれてやるのである。」
「カイサあにき! やっぱり頼れるぅ! 大好き! ところでリカオってなに?」
「当然である。自分はリルカと違って大人だから、興味が無くてもやることはやるのである。リカオはそれの名である。」
「ちょっとちょっと、待ってみんな! 勝手に名前を決めないでよ! この子は“モフ子”って呼んでいるんだから!」
リルカ探検隊に突如、険悪な空気が流れる。
「モフ子とかリルカの欲望丸出しでセンス無いだす! ゴールドは縁起の良い名前だすよ!」
「ゴールドなんて下品である。リカオンのリカオ、これで十分である。」
「リカオなんてダサいぜ! 深淵の闇夜駆ける流星! これこそふさわしい名前だって!」
「深淵の闇夜駆ける流星とか長すぎだ! 見た目の通りデカ耳が分かりやすいぞ!」
喧々諤々(けんけんがくがく)と名前を主張し合う。
「このままじゃ決まらないぞ! 実際に子供リカオンに向かって名前を呼んでみて、返事をした名前に決めるんだ! 恨みっこなしだぞ!」
アディルの一声で、みんなの目がデデに集まる。
子供リカオンを抱っこしているデデは我関せずといった感じで、なでなでモフモフしている。可愛い。
「がぅ♪」
しかし、どの名前を呼んでも子供リカオンは喜んで返事をしてしまう。
当分はそれぞれ好きな名前で呼ぶことで解散となった。
「モフ子が可愛くて一番よね。」
「がぅ♪」
モフ子は尻尾を振り振り、鼻をすり寄せてくる。超可愛い。
いけない! もう日が暮れてしまう。夕ご飯の時間に間に合わない。
慌てておうちに帰るとお母様が仁王立ち。
「リルカ。あなたペット拾ってきたでしょ?」
「な、な、なんのこと? お母様、何も飼ってないよ?」
「ごめんね、リルカちゃん、晩御飯の鶏肉が減ったのを見つかったと。」
「おタマさ~ん!」
「リルカ! 嘘つくんじゃありません! 何拾ってきたの?」
「こ、子供のリカオンよ。モフ子っていうの。すごく可愛いの。」
「残念ね、捨ててきなさい。今なら野性に戻れるわ。」
「いや! お願い捨てないで!」
「リカオンは犬というより狼の一種なの。子供の頃から馴らしていても完璧はないわ。とても繊細でストレスが溜まったらある時突然、飼い主にだって牙をむくときがあるのよ。それに一番怖いのは狂犬病。狂犬病に罹ったリカオンに噛まれたら、どんなに治療しても助からないの。死ぬしかないのよ。」
「モフ子は私を噛んだりしないもん! すごく優しくて賢い子で、なんでも命令を聞いてくれるんだから! それにモフ子は病気になんかなってないわ! お母様、お願い許して! 」
「ダメ! リルカはまだ力も知識も足りないわ。リカオンはすぐに大きくなって、リルカの手に負えなくなる。リルカが死なないためなのよ。」
「お願いよ! 何でもするから! いい子にするから! モフ子を捨てないで!」
「絶対にダメ! リルカが1人で生きていく力が無いうちは諦めなさい!」
「うわーん! おがあざばのばが~! もうわだじはモフ子どぶだりでいぎでいぐ~!」
私は無我夢中で家を飛び出した。
後ろで何か声がしていたけど、もう知らない。
夜の帳が降りる中、町の門を飛び出して、目を瞑っても歩けるほど慣れた道を駆け抜ける。
辿り着いたのは幼年兵宿舎、その裏側の小屋。
オニカが建てた小屋は犬小屋というよりは家に近い大きさがある。張り切り過ぎだわ。
中に入るとモフ子が出迎えてくれる。
「ごめんね、モフ子、お母様に馬鹿って言っちゃった。もうおうちには戻れないわ。一緒に生きていこうね。」
モフ子は涙で濡れた頬を舐めてくれて、鼻を擦り付けてくる。優しい子だ。
草を集めた寝床にごろり。モフ子を抱いて寝る。
地面は冷たくて痛いけど、モフ子は温かくて気持ち良い。
お腹の虫がぐ~っと鳴く。
お腹空いたなあ。夜ご飯食べられなかったなあ。明日からご飯どうしよう。
モフモフ、モフモフ。
温いなあ。モフ子は。
モフモフモフ。
モフモフ。
モフ。
…。
…。
…。
遠くで声がする。
夢かな。
「見つけ……」
「毛布を……」
「警備を……」
「朝ご飯を……」
…。
…。
…。
モフ子が鼻をすり付けてくる。
みゃはは。くすぐったいよ、モフ子。
目を覚ますとモフ子の小屋の中。
小屋の外は僅かに明るくなっている。夜明けだわ。
隙間風が冷たく頬を撫でる。
モフ子を抱っこして、毛布を被っているから寒くないけど。
……毛布なんてあったっけ?
美味しそうなご飯の匂い。
お腹が空きすぎて幻覚かしら。
「リルカちゃん、ご飯の用意ができたばい。」
おタマさんが小屋の入り口から顔を出す。
「おタマさん!」
「よかよか、早く食べるっちゃん。早朝の訓練が始まると。」
小屋の前には敷き布が広がっていて、大きなお弁当が並ぶ。
まるでピクニックのような大ご馳走。
まて!
モフ子の前にカイサが獲ってきた鳥の肉を器にいれて置く。
私をつぶらな瞳で見つめながらご飯への期待に興奮気味のモフ子。
よし! いただきます!
モフ子と競うようにご飯を食べる。
お腹いっぱい! ご馳走さま!
「リルカちゃん、急に家出しちゃダメたい。ハンナ様が心配しとっと。いまハイエナの大きな群れが暴れまわっとるけん、外は危険たい。」
「お母様に馬鹿って言っちゃったし、もうおうちには戻れないよ。モフ子とふたりで生きていくわ。」
口に出すと急に寂しくなって涙が溢れてくる。お母様にも会いたい。
「大丈夫たい。ハンナ様は怒っとらんよ。でもその子はなんとかしないといけんね。」
「ほんと!? でもモフ子は絶対に捨てないわ! どうしたらいいの? 一緒に考えて!」
「うーん、ハンナ様はリルカちゃんの安全のために反対してるたい。だけんリルカちゃんが安全だと証明することが必要じゃなかと? あとは、危険性よりも遙かに有益さが上回れば、考え直すかもしれんたい。」
「“安全”と“役に立つ”ってことね。ありがとうおタマさん。頑張ってお母様を説得するわ! いってきまーす。」
「今晩は、ちゃんとおうちに帰りなっせ!」
モフ子を抱っこしたまま早朝の訓練へ。
訓練中のモフ子は、デデの横で頑張って一緒に運動。可愛い。
訓練が終わると学校の授業へ。
授業中のモフ子は、デデに抱っこされて一緒に授業を聞いている。可愛い
授業が終わると、いつもの丘で、リルカ探検隊の緊急会議を招集。
絶対にモフ子をお母様に認めてもらうわ!
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