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6歳1月(22)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(22)


次の日、最初のお仕事はポルトガル商人との交渉。

今回は相手の商人3人組と共に、商人ギルドのギルド長とその部下も同席している。

こちらはパンツボスが犯人として縛られた状態で転がされ、ジョゼが証人として同席している。


「香辛料は私が取り返してきたわ。犯人はそこの女。証人は教会のジョゼ助祭。確認しなさい。」


「神に誓って、彼女の言葉が私の見た事実と同じであったと証言しましょう。」


「ギルド長、香辛料の中身は確かに商人たちの申告と同じです。」


「さあ、貴方たちは私が香辛料を盗んだと疑ったわね。そして香辛料さえ戻ってくるならなんでもすると言った。この無礼、どう落とし前つけてくださるのかしら?」


完全にお母様が主導権を握っていて、ずっとお母様のターンだわ。

ポルトガル商人3人組には予想外の展開だったのだろう、脂汗をかいて険しい顔で下を向いている。


「まあ、もともとそんなに厳しいことを言うつもりはないわ。香辛料の代金だって、最初の取り決め通り用意してあるわ。」


ここで助け船を出して甘やかすのはお母様の罠。

また商人ギルド長に好印象を与えて味方に引き込む目的もある。

ここまでは昨晩のうちに詰めたシミュレーション通り。

補給部隊の担当官たちにフマも参加して徹夜で議論し、資料を作成していた。


ここで相手は3通りの選択肢がある。

1.恐縮して下手に出るか、

2.調子に乗って甘えてくるか、

3.こちらを舐めて墓穴を掘るかだ。

後者の2つにはデカいしっぺ返しが待っている。どれを選ぶかはこの商人たちの力量次第。


「慈悲と温情に感謝いたします。この度の謝罪と御礼は代金を割引するか、何か別の商品をお付けするか、何らかの形を提示したいと思います。何にせよ一度相談しなければなりません。この案件は一晩、持ち帰らせていただけませんでしょうか。」


3人組の中でも一番年寄の商人が丁寧に頭を下げてきた。しかもこの雰囲気で決めると一方的に不利な条件になりかねないのを見越して、冷静に考えるための時間を空けるという商人側にとっての最善の選択。この商人は相応の修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。手強いけど頼りになるということだわ。


「なるほど、しかし商人なら時間の価値を知っているだろう。時間を置くということは、それだけこちらの怒りも膨らむというもの。そちらが最大限まで譲歩するための計算をする時間だと考えて良いのだな。」


そこにお母様の追い打ちが入る。

時間を置いた分の割引も加味しろという念押し。

すべて事前のシミュレーション通りだ。

しかし“計算をする時間”と言っているのは暗に“君たちの利益も残してやる”といっているのであって、無理難題を吹っかけているわけではない。この辺はギルド長も頷いているから常識の範囲内なのだろう。


「いやいや、むしろ我々の被害を弁償してもらえませんかね。この香辛料のせいで大損害なのですよ。」


「やめろ!」


「いいや、我慢できませんね。今回の件で調査やギルドなど様々なところに金がかかって大損害です。それも経費として支払ってもらえませんかね。」


年寄り商人に止められながらも、一番若手でひょろりとした細い体格の商人が、怒りに我を忘れたように捲し立てる。


「ほう、保管すらできなかった貴方たちの責任を無視して、損害分の経費を請求するというのだな。ギルド長。今回のトラブルに関して、貴方が合理的だと認定する金額に限って、損害を請求できるということでどうかな?」


「双方がそれで合意するのであれば、私が認定しましょう。」


若手商人はニヤリと笑って滔々(とうとう)と損害分を言い連ねる。

ずいぶん吹っかけた金額を言っていたが、ギルド長が適正な金額に訂正していく。


「では、こちらの損害額ね。持って来て。」


お母様の指示を受けて、担当官は分厚い紙の束をギルド長、ポルトガル商人たちの前にそれぞれ配る。


「なんだこれは! なんで貴様らが請求するのだ!」


「請求はお互いに決まっている。そうでなくては対等な商売とはいえない。そうだなギルド長。」


「無論です。」


当然この損害賠償請求もシミュレーションされていた。

補給部隊の担当官たちが夜を徹して作った資料には損害額とその根拠まで明確に記載されており、部下が読み上げ、ギルド長が認定するだけの作業が続く。

ジョゼの治療費や半壊したラムズィがたまり場にする宿屋の修繕費も含まれている。良かったね!


王国側の損害額は、ポルトガル商人側の3倍にも達した。その差額は香辛料の代金の20%にもなるだろう。


「そんな馬鹿な! こんな請求は無効だ!」


「金額が出揃った後で反古ほごにするとは、この商人ギルド長の認定をないがしろにするというのかね? もしそうだというなら、今後、商人として活動できると思うなよ?」


「ぐっ、こんなはずでは……。」


若手商人は甘えたことを言って、同条件のしっぺ返しを食らった。次に商売するときにはこの経験を活かせるといいね。


「では、そちらの商人が一晩考えた条件から、この金額を差し引いてお支払いするということで良いですね?」


年寄り商人は天を仰ぎ、若手商人は肩を震わせて下を向き、歯噛みをしている。

唯一、太っちょ商人がこちらを睨みつけている。


「納得できませんな。」


「ほう、まだ何か問題があると?」


「この町はそもそも王国のものだ。であればそこの盗賊もまた王国のもの。そちらの自作自演によってこちらが被害をこうむるのは納得できませんな。この国の倉庫の中に置かれた時点で、品物はすでに王国のもの。盗まれたのは王国側であり、そちらで責任を取るのが当然ではないか。」


「またとんでもない詭弁ね。取引が完了していなくても、倉庫に置かれた時点で王国のものだというのね。本当にそれでいいのね?」


「そうだ! 情報が漏れないように神経を尖らせ、我らの手の者が厳重に警備していたのに、誰も気が付かないうちに香辛料が消えたと言っている。倉庫に何か抜け道などの仕掛けがしてあるに違いないのだ。その仕掛けを使ってそこの盗賊に盗ませたのだろう。我々の警備は完璧だった。なぜ我々が責任を負わねばならんのだ!」


「ギルド長、今の彼の文言、きちんとメモしておいてね。パンツボス、どうやって手に入れたか、説明しなさい。」


「簡単なことじゃ。おぬしら、倉庫で働く者を奴隷のように扱っておったじゃろ。皆、喰うに困って痩せ細り、パンツすら買えない有り様じゃった。一声かけたら全員が喜んで協力してくれたわい。」


まさかの倉庫従業員、全員パンツ。

まあ、聞いた限りでは自業自得な話っぽいけどね。


しかし、あのセクシーお姉さんだったパンツボスが、真っ白な髪にひび割れた顔や手足、しわがれて震えた声は今にも死にそうなお婆ちゃんみたい。たった一晩で何をしたらこんなになるの?

ちなみに潜伏していたパンツたちは今のパンツボスの姿を見て次々と正気に戻っていった。もう隠れパンツの心配も無いだろう。


「どういうことだ!? 貴様は倉庫の管理だ、警備だと言って、十分な金を持って行ったではないか! なぜ従業員が飢えている! 貴様、横領したな!」


年寄り商人に問い詰められて、太っちょ商人は白い顔を真っ赤にして怒りの表情で俯いている。


『く、これだから野蛮な黒い猿どもは信用できないのだ! 本国に上申じょうしんして征服軍を派遣させ、皆殺しにしてくれる!』


追い詰められた太っちょ商人は机を蹴って立ち上がる。


『これだから野蛮な白い猿は信用できないのよ。貴方は私がポルトガル語を知らないとでも思っていたのかしら。』


お母様の言葉で、太っちょ商人は唖然とした顔で凍りついたように立ち尽くす。


「商売に負けて武力を持ち出すような恥知らずなら商人なんてやめてしまいなさい。無礼な貴方たちを武力で潰さないのは私が商売の仁義を守っているだけ。そちらが商売をやめて武力を持ち出すなら、私もなんの縛りも無く戦うわよ。」


「ぎ、ギルド長! これは王国側の武力による威圧ではないのか!」


「先に仕掛けたのはお前たちだ。武力で解決するなら商人ギルドは引き上げる。お前たちが先に仕掛けたという報告書はあげさせてもらうがな。商人の武器は、金とペンだけだ。剣とマスケットが使いたければ軍人になれ。ここがギリギリのラインだ。商売を続けるのか、武力で解決するのか決めろ。」


「貴様ぁ! 先ほどからどちらの味方なのだ! 高い金を積んでここに呼び出したのは我々だろうが!」


「商人ギルドは“公正な商取引”の味方だ。王国側が武力や屁理屈で無理を通そうとするなら、それらから商人を守るだろう。だが、武力も屁理屈も使って無理を通そうとしているのはすべてお前らではないか。ポルトガル人の誇りは無いのか恥晒しが!」


「キリスト教徒以外はすべて家畜以下の存在だ。野良ネズミ相手に商売も誇りも必要ない!」


「こちらの将軍はキリスト教徒です。わが師、ゴンザロ・シルベイラから洗礼を受けた私の兄妹です。無礼な言葉は許しませんよ。」


「ぐっ! だ、黙れ! メスチーソの半端者が! 動物と交わればポルトガル人の誇りも失うものだな!」


「いい加減にしろ! 痴れ者が!」


年寄り商人が太っちょ商人を殴り飛ばす。太っちょ商人はきりきり舞いに回転しながら倒れて気絶した。

年寄りなのに腰の入った綺麗なパンチだわ。きっと若い頃は武闘派だったのね。


「こやつは裏切り者です。もう我々の仲間でもない。あとで商人ギルドの裁きにより横領の罰を受けてもらう。」


「我々のギルドで裁かれればもう商人ではいられないな。借金を背負って奴隷扱いで本国に送り返されるだろう。イエス様の前ではみな平等だが、商売の前でも肌の色も宗教も年齢も性別も関係ない。金とペンこそがすべてであり平等だ。こいつには相応の報いを約束しよう。」


「数々の無礼、謝罪する。どうかこの馬鹿の考えが、ポルトガル人のすべてだと思わないでほしい。」


年寄り商人が神妙な面持ちで深々と頭を下げる。

誠意のみえる謝罪と態度に、ジョゼや担当官たちも頷き、互いに微笑む。


これで和解と信頼回復のための一歩を踏み出せそう。


「誠意はお金で見せてくれればいいわ。そうそう、あの倉庫に置いてあるバナナは全部、王国のものよね。押収するわ。それも条件に含めておいて頂戴。」


ええー!?

空気読もうよお母様!

しかもあのバナナを全部寄こせって酷い条件よ?

とても持って帰れないくらい大量じゃないの。ほら、年寄り商人やギルド長がせっかく微笑んだのに、しょんぼりした悲しそうな顔になっているじゃない。ジョゼや担当官たちも、“マジ?”って感じで固まっているわよ。


良い話っぽくまとまったのに、さすが空気クラッシャーのお母様は半端ないわ!


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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