6歳1月(21)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(21)
アディルを見送っていると、お母様が現れた。
そして私とジョイスの前に、簀巻きになって目隠しと猿轡をされた人間と思わしき物体を3つ転がして、こう言った。
「リルカの好きにして良いわよ。この裏切者。」
「むごー! むごごー!」
「や! ラムズィじゃない? 誰か目隠しと猿轡を外してあげて!」
目隠しと猿轡を外して出てきた顔は、いつもの飄々(ひょうひょう)とした顔ではなく、しょんぼりと憔悴しきった顔のラムズィ。
「リルカちゃん、助かったよー。なんなのこの人たち、抵抗どころか認識すらできないまま簀巻きにされていたよー。」
「ムウェネムタパ王国の近衛軍の中でも最精鋭、レンジャー部隊の皆様よ。死ななかっただけ儲けものね。」
「やばいよー。そこそこ自信あったのに護衛含めて完全に赤ん坊扱いだよー。もう暴力とか自信ないよー。商売だけで生きるよー。」
「うん、それもいいかもね。長生きできると思うわ。お母様、この3人は私の仲間よ。解放してあげて。」
「いいの? リルカのお小遣いを全部巻き上げて、さっきも裏切って途中で逃げたわよね?」
「返すよー! リルカちゃんのお小遣い全部お返しするよー。あの十字架もあげるよー。返さなくていいよー。十字架もお小遣いも全部くれてやるよー。クズ羽毛も掴まされるし、今回は大損だよー。ちきしょーう。
あとさっき逃げたのは裏切ってないよねー? 一旦逃げたけど、宿屋に戻って仲間を連れてこようとしてたんだよー。裏切ってないよー。リルカちゃん、証明してよー。」
ラムズィが今までに見たことないほど必死だわ。
「大丈夫、ラムズィは裏切ってないわ。ちゃんと私の退路を作ろうと命を賭けて戦ってくれたわ。私がいうこときかずに逃げなかっただけ。ちゃんとリルカ探検隊のみんなも分かっている。
それにラムズィとは約束があるの。いつか一緒に町を作るの。人種も宗教も関係なく、誰もが必要とされて大切にされるみんなの居場所になる町を。だから仲間なのよ。」
「ふーん。リルカがそういうなら。」
お母様は護衛の脇に転がっていた曲刀を持ち上げると、まるで細い枝でも持っているかのようにピュンピュンと目にも止まらぬ速さで振るい、簀巻きになっている3人の拘束を切り裂いていく。
お母様、そこは面倒でも手で外してあげようよ。
ほら、拘束が解けた3人がお互いに抱き合って震えあがっているじゃない。
「ラムズィって言ったわね。」
「は、はいー!」
「私や近衛軍が味方でいるのと、敵に回るのと、どっちが得だと思う?」
「ひー! 味方の方が得ですー! 断然お得ですー!」
「リルカを裏切ったら、地獄の果てまで追い詰めて、その魂に無限の苦しみを未来永劫に与えるからね。」
「はひー! 死んでもリルカちゃんを裏切らないですー!」
「よし。良い町を作りなさいよ。」
「ありがとうございますー!」
ラムズィがついに敬語になったわ。なるほど。ラムズィが賢くて打算的であればあるほど、今ので裏切る可能性が無くなったわね。今後も仲間として信用できるわ。しかしなんというか、格の違いというか、もうお母様は魔法使いみたいなものよね。史上最強の白魔術師って本当なんだろうな。
「あ、ラムズィがたまり場にしてる宿屋、ちょっと情報を聞きに入ったら半壊しちゃったけど、ごめんなさいね。直しておいてね。」
「ひー!」
そしてお母様が傍若無人過ぎて、さすがにラムズィが可哀想だわ。
「さあ、後は私の香辛料を回収して解決ね。」
「あのー、将軍、お取込み中、申し訳ないだす。わてがロレンソから香辛料を買い取ったお金は返してもらいたいと思うだすが、いかがだす?」
「あら、フマ。あなたがロレンソから香辛料を買い取った時点で、そのお金はロレンソのものよ。返してっていうのは筋違いね。
考えてもみなさいよ。香辛料が私の探しているものだって知ってたらフマは買わずに私へ連絡したでしょ? その時点で解決していた問題なのにこんなトラブルになったのはフマが欲を出したせいよ。
商品の出所を確認するのは商売の鉄則でしょ。それを怠ったフマが悪いわ。
それに、そのお金の出所を聞いても良いの? 補給部隊の仕事を利用して作ったお金なら業務上横領という犯罪ね。捨てるはずのものだったとか色々言い訳してみる? 借金10倍にするわよ?」
「いやいやいや、無かっただす! そんなお金は存在してないだす!」
「よろしい。」
「ふひぃぃ。酷いだす。わての努力が水の泡だす。」
フマは頑張ったし、大活躍だったんだけど、お母様の完封勝利だわ。私じゃフォローの入れようがない。ごめんなさいね。
「待ってくれ。」
ジョゼが小さな子供たちに支えられて現れた。孤児院の子供たちなのだろう。
「ジョゼ! 大怪我だったんだから、寝てなきゃダメじゃない。」
「ジョゼお父さん! 酷い怪我よ!」
ジョイスが立ち上がって子供たちと一緒にジョゼを支える。
「ジョイスは神の教えに背くことをした。だからこのお金は使うことができない。元の持ち主にお返しする。」
「ほんとだすか!?」
フマが飛び上がって喜色満面の笑みで興奮のポーズをとっている。さっき泣いてた顔はどこいったのよ。
「ええー? 孤児院の立て直しが~。今晩のご飯が~。せめて牛肉を買うお金だけ残そうよ~。」
逆にジョイスは天国から地獄に突き落とされた亡者のように目はハの字、口はへの字になって崩れ落ち、子供たちに支えられている。神様、どうかこの反省しない友人に死なない程度の罰を当ててください。
「そしてマリア、君はそんなジョイスを救ってくれた。神の教えに背いても私の大切な家族だ。それを命を賭けて救ってくれたのだ。御礼といっては失礼だが、神の祝福を受け取ってくれないか。私が身につけているこのロザリオだ。君に洗礼名を授け、祝福を与えた男、我が友ゴンザロ・シルベイラから譲られたものだ。」
「ジョゼの友達の形見じゃない! そんな大事なもの受け取れないわ。」
「どうか受け取ってくれ。ゴンザロが最後に祝福した君こそ、このロザリオを持つに相応しい。きっとマリアの手に渡るまで、私が預かる運命だったのだろう。これこそが神の御意志だ。」
「話し中、すまない。貴方はゴンザロ・シルベイラの友人なのだろうか。」
お母様が真面目な顔で、話に割り込んできた。
「私はテテの町の教会で助祭をしているジョゼと申します。ゴンザロはメスチーソである私を神の教えに導いてくれ、対等に扱ってくれました。私の師であり、私の親友でした。」
「そうか、6年前、ゴンザロを守りきれなかったのは私だ。申し訳なかった。しかし私も彼とは友人だった。彼の言葉に助けられ、彼の教えに救われたのだ。彼は私の心の中に生き続けている。そして娘の心の中にも。」
「……。ありがとうございます。私もまた貴方の娘マリアに救われました。だからこのゴンザロの心であるロザリオをどうか、受け取って欲しいのです。」
ジョゼは一歩も引かない決意の籠った真摯な瞳で、私の心の奥底まで見据えて離さない。
お母様の顏を見ると、静かに目を瞑って頷いた。
受け取りなさいということだろう。
「ジョゼが使うロザリオが無くなっちゃうじゃない。せめてお金を払うわ。」
「キリスト教では神の祝福を与えたものは、お金で取引してはいけないのだ。これは私からマリアへのプレゼントだ。どうかそのまま受け取って欲しい。」
「じゃ、じゃあ、そこのお金を改めて教会と孤児院に寄付するわ! その寄付を受け入れて貰えるならそのロザリオを受け取るわ。」
「リルカ! なーに言ってるだすか!? それはわてのお金だすよ!」
「フマあにじゃ! どうやって羽毛を調達したのかお母様に説明してみなさいよ!」
「へー。羽毛ねえ。リルカの串焼き屋の副産物ねえ。」
「ふひぃぃ! そんな羽毛は存在しなかっただす。そこのお金も存在しないだす。酷いだす。誰も助けてくれないだす。神は死んだだす。」
フマは膝を抱えるように丸くなり、泣きながら転がっていってしまった。全部は可哀想だったかな。
「このお金は存在しないお金らしいわ。私が貰うわけにはいかない。教会と孤児院のために役立てて欲しいの。」
「……。分かった。寄付を受け入れよう。貴方たちに神の御加護があらんことを。ありがとう。マリア。」
「ひゃっほーい! さっすがリルカちゃん! ほらほらみんなリルカちゃんにお礼を言いなさい。今日は牛肉よ! あいた! いったーい。」
今度はジョゼが飛び上がって喜色満面の笑みで興奮のポーズをとって、ジョゼに拳骨を喰らっている。キリスト教だって叱るときには拳骨を使っているじゃない。しかしジョイスは死にそうな目に遭ったのに全然めげて無いわね。
「ねえ、お母様、交易拠点でロレンソとジョイスを勉強させて欲しいの。交易拠点に学校が必要だわ。」
「うーん。どうして?」
「メスチーソはお仕事がないっていうけど、黒人とポルトガル人の橋渡しをするのに最適な人材だわ。だってこの国のことも、ポルトガルのことも大好きなんだもの。交易拠点で交易や文化を勉強してもらって互いの理解を助けるための仕事をするの。もちろん、そこで勉強できるのはメスチーソだけじゃなくて他の部族だってアラブ人だって誰でも。将来は私と一緒に町も作ってもらうわ!」
「そう……。ジョゼさん、新しい学校で先生もしていただけますか? もちろん、教会の手が空いた時で構いません。貴方が引き受けてくれるならリルカのいう学校を作りましょう。」
「マリアが導くのなら、それも神の御意志なのでしょう。分かりました。私でよろしければ。」
「やった! ジョゼ、お母様、ありがとう!」
「リルカちゃん、いいの? 本当に勉強させてもらえるの? 本当に仕事をさせてもらえるの?」
「ジョイス、勝手に決めてごめんね。新しい町を作るための勉強よ。それにメスチーソのジョイスたちしかできない仕事なの。人と人を繋げて、みんなを仲良くさせるお仕事。嫌だった?」
「ううん。とっても嬉しい! ただ私たちがお仕事して稼げるようになるまで屋台の手伝いができないから、この子たちが食べていけるのかちょっと不安だけど。」
「そこの残った孤児たちは、『王家御用達 リルカ姫の串焼き屋さん』の支店をやるだすよ! やり方もみっちり教えるし、仕入れルートも資金もこちらで用意するだす。大きくなって学校に通えるようになるまで、市場に屋台を出してしっかり稼ぐだすよ!」
丸まって転がり去ったはずのフマが突然現れたかと思うと、海老反りに爪先立ちしてドヤァって言いそうな表情をしながら孤児たちを指差した。
「ありがとう! この子たちのお仕事まで用意してくれるなんて! これで孤児院にも継続的な収入ができるわ。」
「さすがだわ、フマあにじゃ。転んでもタダでは起きないわね。」
「当たり前だす! 100回中99回失敗でも1回成功すれば全部取り返してお釣りがくるだす。商売なんてそんなものだす。くよくよしている時間がもったいないだすよ!」
「フマー。良い事いうねー。今回は大損こいたけど、次の商売じゃ負けないからなー! あ、リルカちゃんとの約束で、テテの町に来たら必ず最初に僕に会いにくることになっているからよろしくねー。」
「なんだす! そんな約束知らないだすよ! ラムズィを出し抜いて商売できなくなるだす!」
「ごめんなさいフマあにじゃ。フマあにじゃを助けるために約束したの。ラムズィは助っ人までして助けてくれたんだから、感謝しないとダメよ。」
「借りなんて作りたくないだす!」
「そんな冷たいこといわずにさー。一緒に儲けようよー。」
ラムズィが怪しい笑みを取り戻してフマをからかう。
良かった。仲良くやれそうね。
「作戦終了! 撤収! リルカ帰るわよ!」
お母様の号令でパンツたちは連行され、みんなも道々で分かれて帰っていく。
とんでもなく長い長い一日だったわ。
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




