第4話「生きる意味」
お昼の短い休憩時間。私は診療所の台所から、こっそりと芋のふかしたものを懐に忍ばせ、足早に裏山へと向かった。
寝不足の身体は重かったけれど、あの異国の兵士がどうなったか、気になって仕方がなかったのだ。
朝と同じ茂みに近づき、息を殺してのぞき込む。
「あっ……」
思わず声が出そうになった。彼は上体を起こし、うつむいたまま、私が夕べ巻いた包帯をじっと見つめていたのだ。
ガサリ、と私が枯れ葉を踏んだ音に反応し、男の身体が強張る。彼は鋭い視線をこちらに向け、警戒するように身構えた。しかし、立ち上がろうとした瞬間に脇腹と足が激しく痛んだのか、「くっ……」と短いうめき声を漏らしてその場に崩れ落ちた。
「無理をしないでください! 足の傷が深いんです」
私は慌てて駆け寄り、彼の前に両手を広げて敵意がないことを示した。
男は荒い息を吐きながら、紺碧の瞳でじっと私を値踏みするように見つめている。やがて、私の手にある
医療箱と、彼の足元に転がっている昨夜の笹巻きに視線を落とし、ふっと身体の力を抜いた。
「……ユーが、手当てを?」
掠れた、低い声だった。たどたどしいけれど、それは確かな日本語だった。
「はい。夕べ、ここで倒れているのを見つけて……。私は高橋陽子。近くの診療所で手伝いをしている者です」
「ヨウコ……。私は、ロバート。この国の言葉で言うなら、飛行士だ」
ロバートと名乗った彼は、数日前の空襲で上空を飛んでいた際、撃墜され、戦闘機からパラシュートで脱出したのだという。足の骨が折れており、山を降りることもできず、ここで死を待つだけだったらしい。
「なぜ、敵である私を助けた? ユーの家族を奪ったのは、私たちの仲間だ」
ロバートの言葉に、私の胸がズキリと痛んだ。彼の言う通りだ。私の家も、両親も、弟も、彼の国の爆撃で失われた。
私はうつむき、自分の手のひらを見つめた。
「わかりません。でも……私の目の前で、これ以上、命が消えていくのを見たくなかったんです。敵だからとか、味方だからとか、そんなこと、苦しんでいる人には関係ないって、先生に教わったから」
ぽつり、ぽつりと胸の内を明かす私を、ロバートは静かに見つめていた。やがて、彼は寂しそうに微笑んだ。
「ユーは優しいな。私にも、故郷にユーと同じくらいの妹がいる。……ありがとう、ヨウコ」
初めてかけられた「ありがとう」の言葉に、胸の奥の冷たい塊が、ほんの少しだけ溶けていくような気がした。
ロバートの足の怪我は、歩けるようになるまで少なくとも数週間はかかる。
「怪我が治るまで、しばらくここで様子を見ます。だから、見つからないように隠れていてください」
私は懐からまだ温かい芋を取り出し、彼の手に握らせた。
戦争が終わる見込みのないこの時代に、私はとんでもない秘密を抱えてしまった。それでも、目の前のロバートの命を守り抜くこと。それが今の私の、新しい、生きる意味になろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
これからどうなるのでしょうか、
引き続きお願いします。




