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空襲ですべてを失った少女は家族を奪ったはずの敵兵と恋に落ちる  作者: 今井華菜


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3/15

第3話「治療」

 ちっちっ、と診療所の古い柱時計が深夜の静寂を刻んでいる。

 布団の中で何度寝返りを打っても、私の頭からあの異国の兵士の姿が離れなかった。


(本当に何もしないで良いのだろうか…)

(今頃、冷たい夜雨の中で息を引き取っているかもしれない……)

(あの人にも家族はいるのかな……)

(家族は今ごろどんな思いをしているのだろう…)


 私の母や弟とあの兵士との姿が重なった瞬間、私は布団を跳ね除けて、気構えていた。

 見て見ぬふりなんて、やっぱりできない。敵だろうと何だろうと、私の目の前で失われていい命なんてない。先生も同じことを言っていた。


 息を殺し、暗闇に慣れた目で診療所の棚を探る。先生が大切にしている包帯、消毒液、そして貴重な化膿止めの軟膏。それらを大急ぎで風呂敷に詰め込んだ。泥棒のような真似をしている罪悪感で胸が痛んだが、今は躊躇している時間はなかった。


 遮光カーテンをそっと押し開き、夜の静寂へと滑り出る。

 昼間よりもずっと暗く、不気味な山道。一歩進むたびに恐怖で足がすくみそうになったが、私はただ「間に合ってくれ」と心の中で祈りながら、がむしゃらに坂を駆け上がった。


 息を切らしながら、昼間のあの茂みにたどり着く。

 月明かりを頼りにのぞき込むと、彼はまだそこにいた。私が置いた笹巻きのおにぎりは、笹だけが残っていた。


「……よかった、生きてる」


 かすかな呼吸の音を確かめ、私はその場に膝をついた。

 すぐに風呂敷を開き、震える手で彼の破れた上着をそっとめくる。脇腹の傷口は痛々しく裂け、赤黒い血がまだにじみ出ていた。

折れているであろう左足は激しく腫れている。


「少し痛みますよ……我慢してください」


 届かないかもしれない言葉をかけながら、私は必死に手を動かした。

 傷口を布できれいに拭い、貴重な軟膏をたっぷりと塗る。それから、彼の重い身体を少しだけ浮かせながら、先生に教わった通りに包帯をきつく、丁寧に巻き直していった。

 触れた彼の肌は、驚くほど冷たかった。でも、確かに生きている人間の温もりがそこにはあった。


 すべての処置を終えた頃には、東の空がうっすらと白み始めていた。

 男の呼吸は、さっきよりもほんの少しだけ深く、穏やかになっているように見えた。


「私はもう行かなければなりません。どうか、生きて……」


 それだけ言い残し、私は空になった医療箱を抱えて、朝靄の中を診療所へと急いで引き返した。


読んでいただきありがとうございます。

助けてくれて良かったー。

引き続きお願いします。

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