第24話君に出会ったあの日
コックピットを包む激しい警告音と、機体を大きく揺らす爆発の衝撃。それが、上空数千メートルから続いていた私の地獄の始まりだった。
「クソッ、エンジンがやられた……!」
操縦桿はまるで冷たい鉄の塊のように重くなり、私の言うことを一切聞かなくなっていた。火を吹く機体の中で、私は死の恐怖に震えながら脱出レバーを引いた。
パラシュートが開き、夏の生ぬるい風が私の身体を叩く。眼下には、赤黒い炎に包まれた焦土と、私が墜落していく未知の険しい山林が迫っていた。
――凄まじい衝撃。
木々の枝を激しく叩き割りながら、私は地面の泥の中に叩きつけられた。その瞬間、右足に経験したことのないような激痛が走り、私は悲鳴をあげることすらできずに悶絶した。骨が折れている。立ち上がることすらできない。
だが、痛みに怯む時間はなかった。すぐに遠くから、犬の吠え声と軍靴の足音が近づいてくるのが聞こえたからだ。
「敵のパイロットが落ちたぞ! あっちの斜面だ、探せ!」
日本の憲兵たちだ。見つかれば、一突きで殺されるか、惨い拷問が待っている。
私は死に物狂いだった。激痛で意識が飛びそうになる右足を無理やり引きずりながら、生い茂る草木を這うようにして進んだ。衣服は茨でズタズタに裂け、脇腹からも鋭い木の枝が刺さって血が流れ出る。
背後から迫る犬の鳴き声が、すぐ近くまで迫っていた。
私は残った力を振り絞り、自分が着ていた飛行服の上着を、人間の形に見せかけて深い谷底へと投げ落とした。
「おい! 谷底に何か落ちたぞ!」
「あそこだ! 銃を撃て!」
ドン、ドン、と激しい銃声が山に響き、やがて憲兵たちは「谷に落ちて死んだな」と満足したように去っていった。
なんとか最初の追手を巻くことはできた。けれど、ここからが本当の地獄だった。
それからの数日間、私は折れた足を木の枝で不器用にくくりつけ、憲兵たちの執拗な捜索の目を盗んで、山の奥へ奥へと這い進むしかなかった。少しでも物音を立てれば、すぐに村の男たちや軍用犬が押し寄せてくる。生きた心地のしない、張り詰めた時間が続いた。
食べるものは何もなかった。飢えと失血で視界がかすむ中、私は偶然、岩肌から冷たい湧き水が染み出している小さな川を見つけた。
「あ……あぁ……」
泥まみれの顔を水につけ、貪るようにして喉を潤す。食べ物は、山に生えている正体も分からない苦い木の実を齧って、どうにか胃袋の痛みを誤魔化し続けた。夜が来るたびに、冷たい夜露が私の体温を奪い、寒さと孤独で頭がおかしくなりそうだった。
それでも、私は諦めなかった。故郷で私の帰りを待っている、まだ十四歳の小さな妹、エミリーの顔が頭から離れなかったからだ。
(まだ死ねない。エミリーを残して、こんな異国の山奥で死ぬわけにはいかないんだ……)
憲兵たちの捜索の手を奇跡的に潜り抜け、飢えと痛みに耐えながら山の中を彷徨い歩いて、丸1週間。衣服は完全にボロボロになり、肉体の限界を迎えた私は、人気の無い静かな山道の草むらへ、ついに力尽きて突っ伏した。
もう、指一本動かす力も残っていない。意識が遠のく暗闇の中で、私はただ、誰の目にも触れないまま自分の命が消えていくのを待っているだけだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回はロバートの視点から描いてみました。
評価とブックマークおねがいします。
次回もお楽しみに。




