第14話君と見た星空
「さあ、こちらへ。足元が暗いから、気をつけて」
ロバートはまだ少しぎこちない足取りながらも、私の手を優しく引き、洞窟の裏手へと案内してくれた。
その間の私の鼓動はずっと激しく脈打ってまま。手汗をかいてることがバレませんようにと思いながら後をついていく。生い茂る木々を抜けた先には、小さな川のせせらぎが聞こえる、開けた岩場があった。
見上げた瞬間、思わず息を呑んだ。
「……きれい……」
遮光カーテンの向こうに隠されていた本当の夜空には、降るほどの星が散りばめられていた。天の川が白く帯を敷き、大小さまざまな光が、まるで呼吸をするように瞬いている。
「すごい…こんなのが見れるなんて…」
「本当に、素晴らしいね。……私の故郷の田舎の夜空と、とてもよく似ているんだ」
ロバートは岩の上に腰掛け、夜空を見上げながら愛おしそうに目を細めた。
私も隣に腰を下ろす。
昼間よりもずっと近くに感じる彼の体温、そして暗闇の中でかすかに匂う、男の人の汗と草木の匂い。 ドクン、と胸の奥がまた不自然に跳ね上がる。私はその落ち着さから逃れるように、ぎゅっと自分の膝を抱きしめた。
「ロバートの故郷も、こんなに星が見えるんですね。」
「ああ。私の家は街から少し離れていたからね。夏になると、妹のエミリーと裏庭の芝生に寝転がって、よくこうして星を数えたものさ。……あの国の人たちも、この国の人たちも、夜になれば同じ星空を見上げているのに。どうして昼間は、あんなに殺し合わなければいけないんだろうね」
彼の低い声が、夜の静寂に優しく溶けていく。
(ほんとうに…早く終わればいいのに。こんな無意味なことなんて。)
私は夜空の一角できらめく、特に大きな星の集まりを見つめた。なんとも言えない気持ちになる。
「……あの星たちの中に、お父さんやお母さん、拓也たちがいるのかもしれませんね」
「陽子の、家族……」
「はい。拓也は暗いところが嫌いな寂しがり屋だったから。でも、あんなにたくさんの星に囲まれているなら、きっと寂しくないですよね。私も、あそこから見守ってくれてると思うと安心します。」
ぽつりと言った私の言葉に、ロバートは何も言わず、ただ私の横顔をじっと見つめていた。やがて、彼はそっと自分の大きな手を、岩の上についていた私の小さな手の上に重ねた。
ハッとしてまた心臓が跳ねたけれど、不思議と手を引くことはできなかった。彼の大きな手のひらは、とても温かくて、私の胸の奥の孤独を静かに溶かしていった。赤面している顔をみられないよう、そっぽ向ける。
「陽子の大切な人たちは、きっとそこから、優しい手を見守っているよ」
私たちはそれ以上言葉を交わさず、ただ繋いだ手のぬくもりを感じながら、満天の星空を眺め続けた。
国も、立場も、すべてを忘れて、私たちはただの男の子と女の子として、ここにいた。
この静かで、優しい時間が、ずっと続けばいいのにと、心のどこかで願っていた。でも、現実はそう簡単にはいかない。
だから、気づかなかったのだ。
私たちのすぐ背後、生い茂る木々の暗闇の奥から、こちらをじっと見つめる、鋭く冷酷な「誰か」の視線が存在していることに。
「この星空をロバートと見れてよかったです。」
私はそのまま胸打つ鼓動を抱えながら呑気に診療所へと戻っていった。
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