表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空襲ですべてを失った少女は家族を奪ったはずの敵兵と恋に落ちる  作者: にんじんさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/37

第13話「意味のわからない鼓動」

「陽子ちゃん、最近よく裏山へ行くねぇ。何か良いものでも見つかるのかい?」


 お昼の休憩が終わる頃、薬瓶の整理をしていた私に、近所のおばさんが何気なく声をかけてきた。

(やばいやばい。誤魔化さないと。)

冷や汗を垂らしながらも、なんとか答える。


「え……あ、はい。先生に頼まれた薬草を、少し探しに行っているんです。ほら、最近は薬が本当に手に入りにくくなっていますから」

「ああ、なるほどねぇ。こんな時代だもの、先生もやりくりが大変だ。でも、あんまり奥まで行っちゃ駄目だよ。この前山狩りがあったばかりだし、何が潜んでいるか分からないからね」

「はい、気をつけます。」


 おばさんはそれ以上疑うこともなく、笑顔で診療所を出て行った。

(ふぅ…よかった。)

 なんとか誤魔化せたけれど、心臓がうるさい。村の人たちに怪しまれ始めている。これ以上、山へ通うのは本当に危険かもしれない。



 ――それなのに。

 私の頭の中は、夕方にロバートから言われた、あの言葉が頭から離れなかった。


『陽子。今夜、来れるかい?』


 貧相な夕食を終え、夜の九時を過ぎた頃。診療所の遮光カーテンはきっちりと閉められ、外の電灯の光を漏らさない暗闇の時間が訪れた。先生は奥の部屋ですっかり眠りについているはずだ。

 私は布団の中で、じっと柱時計の音を聞いていた。


(行っちゃ駄目。夜中に抜け出すなんて、もし見つかったら非国民として捕まってしまう)

(でも……彼は待っている。あの薄暗い洞窟の奥で、一人で)

(ほんとうにどうしよう…)


 胸の奥が、昼間走ったときよりもずっと激しく、ドクドクと音を立てている。それが、見つかるかもしれない恐怖のせいなのか、それとも別の「何か」のせいなのか、今の私には分からなかった。ただ、彼に会いたい、彼と一緒にあの星空を見てみたいという、理屈ではない強い衝動が私を突き動かしていた。


 私は意を決して布団から這い出ると、音を立てないように木綿の衣服に着替えた。

 先生の寝息を確かめながら、勝手口の戸を、ミリ単位で慎重に押し開ける。


 ギギ……と、かすかな軋み音が夜の静寂に響き、私は思わず息を止めた。先生が起きる気配はない。私は滑り込むようにして、診療所の外へと抜け出した。


 外は、完全な暗闇だった。

 どの家も遮光カーテンを閉め切っているため、街灯ひとつない。夏の夜気は、昼間の熱を残したまま、蒸し暑く、私の肌にまとわりつく。

(急がないと)

 私は懐中電灯の光を最小限に絞り、足元だけを照らしながら、昼間よりも何倍も不気味に見える裏山の斜面を登り始めた。


 風が木々を揺らすたびに、何かが追いかけてくるような気がして、何度も後ろを振り返る。草むらで虫が鳴く声さえ、誰かの囁き声に聞こえて足がすくみそうになった。


 それでも、私は歩みを止めなかった。胸の奥のドキドキが、暗闇の恐怖を必死にかき消してくれる。


 ようやく、生い茂る蔦に覆われたあの秘密の洞窟の入り口へとたどり着いた。

 息を整え、震える手で蔦をかき分ける。


「ロバート……」


 小さな声で呟きながら、暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。

 すると、暗闇の中から、カサリと衣服が擦れる音がして、あの懐かしい大きな影がゆっくりと立ち上がるのが見えた。いつもは木漏れ日だったのに、今は月の光が彼を照らしている。

私はその瞬間、心臓が今までで一番大きく振動した気がした。


「陽子……本当に、来てくれたんだね」


 


読んでいただきありがとうございます!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ