第12話「お誘い」
それからさらに数日の間、私はお昼の短い休憩時間を使って、裏山の秘密の洞窟へと通い続けた。
日を追うごとに、私たちの間を流れていたあのぎごちない気まずさは、薄れていった。
そのことに安心しながらも、自分の中にあるよく分からない気持ちに戸惑いを隠せなかった。
「陽子、見てくれ。もうこれくらいなら、杖がなくても立てるようになったんだ」
ある日、洞窟に入ると、ロバートが嬉しそうに立ち上がってみせた。
まだ少し足を引きずってはいるけれど、私が毎日巻き直した包帯の下で、彼の傷口は驚くほどの速さで塞がりつつあった。
やっぱり、治療をして、ケガをした人が元気になっていくのは嬉しい。助けてよかった。
それからさらに数日の間、私はお昼の短い休憩時間を使って、裏山の秘密の洞窟へと通い続けた。
日を追うごとに、私たちの間を流れていたあのぎごちない気まずさは、薄れていった。
そのことに安心しながらも、自分の中にあるよく分からない気持ちに戸惑いを隠せなかった。
「陽子、みてくれ、もう杖なしでも歩けるんだ。」
見ると、ぎごちなく、足を引きずりながら歩いているものの、もう、杖なしでも十分歩けるようになっていた。
「良かったぁ~、ロバート! 本当に良くなってきたんだ」
「ああ、ユーのおかげさ。いつも美味しい芋を持ってきてくれるからね。ありがと。」
ロバートは茶目っ気たっぷりに笑って、私の手から手ぬぐいを受け取った。その笑顔を見るたびに、私の胸の奥が、またザワザワと騒ぎ出す。これは本当に何なのだろうか。
最初は、家族を奪った「敵」と同類だと思っていたはずなのに。気がつけば私は、お昼休みが近づくたびに、診療所の古い柱時計を何度も盗み見てしまうようになっていた。
彼が美味しそうに芋を食べる姿を見るのが、少しだけ楽しみになっている自分が信じられないと同時に必死に毎日否定する。
その日の処置も無事に終わり、私が「それじゃあ、また明日」と立ち上がろうとしたときのことだ。
いつもなら「気をつけて」と送り出してくれるはずのロバートが、少し躊躇うようにして私を呼び止めた。
「陽子。……少し、私の話を聞いてくれないか」
「え? はい、どうしました?」
どうしたのだろうか。そう思って驚いて振り返ると、ロバートは真剣な、でもどこか子供が秘密基地に誘うような瞳で私を見上げていた。
洞窟の入り口から差し込む日の光が、私たちを照らしてくれている。
「この洞窟の裏手にある川の近くはね、夜になると、空がとても綺麗なんだ。祖父が言っていた通り、日本の夏の星空は素晴らしいって、私も自分の目で確かめたんだよ。空の上から見る星も綺麗だったけれど、私は、地面に足をつけて、この美しい国で星を見たんだ、とてもきれいで…」
「星空、ですか……」
今の日本は、夜になると遮光カーテンをきつく閉め、電灯の光を外に漏らしてはいけない決まりになっている。空襲から身を守るための、あたりまえの日常だ。本当の夜空をゆっくり見上げるなんて、今の私には想像もつかないことだった。
「だから……ユーと一緒に、見たいんだ。いや、見てほしいんだ。二人で静かに空を見上げる時間がほしい。きっと2人で見た方がより美しくなると思うんだ。」
ロバートの掠れた、でもどこか切実な言葉を聞いた瞬間、私の心臓が、トクン、とこれまでで一番大きく跳ね上がった。早く収まれと思う。 夜の山に一人で向かう恐怖よりも、先生に内緒で診療所を抜け出す罪悪感よりも、ただ、彼のその言葉が胸に突き刺さった。こんなの耐えられる気がしない。 あわてて断る理由を考える。
「でも、夜は本当に危ないですし、先生に見つかったら……」
「無理はしなくていい。分かっているよ。だけど、もしユーが来てくれたら、私はとても嬉しい」
ロバートは優しく微笑み、そっと私の袖から手を離した。そして、私の目を真っ直ぐに見つめながら、静かにこう言った。
「陽子。今夜、来れるかい?」
見ていただきありがとうございます。
陽子はお誘いを受けるのでしょうか?
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次回もお楽しみに。




