クソ姉貴
ぐすぐすとコンビニの前で泣いている女性……間違いなく姉だ。泣いている姉の周りには見えない結界があるように誰も近づかない。まぁそりゃそうだ、面倒だし、気まずいし、誰だって関わりたくはない。かく言う俺も身内とはいえ関わりたくはない。こういう時の姉はたまに見るが、だいたい原因はろくでもないし、男関係なのは間違いない。そういえば彼氏の話をして、よく惚気ていたような。ほとんど聞いてなかったから印象にも残ってないし、どんな人でどういう関係なのかすら知らない。ここはさっさと帰って、愚痴られる前に部屋に引きこもるのが正解だ。コンビニでお菓子でも買いたかったが、見つかる前にそそくさと帰ろうとすると――
「あれ、誠司くんじゃん。美優、大好きな弟君いるよ」
ふと見ると、姉の友達の麻衣さんがコンビニからでてきているところだった。姉は顔をばっとあげて、こちらに突撃してくる。
「ぐへっ!!」
姉はダイエットのためにと筋トレをしているのでそこそこガタイが良く、体当たりされるとタイプ相性関係なくかなりダメージが入る。
「聞いてよぉ誠司!彼氏が体育館裏でほかの女の子とキスしててぇ!浮気されたのぉ!!問い詰めたら『重い』って言われてぇ!」
周りの人の目などお構いなく、自分のドロドロな恋愛事情を赤裸々に話す姉。これが嫌だったから逃げたのに、くそ。
麻衣さんを見ると、舌をだし「ごめんね」とジェスチャーをしている。絶対俺に押し付けたかっただけだろ。麻衣さんは姉の中学からの友達で、時々家に遊びに来ることがある。気まずいので家に遊びに来るときはよくどこかへ逃げているため、あまり話したことはなくお互い顔見知り程度の認識だ。麻衣さんはギャルぽい見た目とは裏腹にかなり優秀らしく、トップクラスの成績らしい。
「あーわかったから!離れてくれ恥ずかしいから!」
姉を無理やりどかそうとするが力が強い。こいつどこでこんな力を……じゃなくて、鬱陶しいし恥ずかしいからさっさと離れてくれマジで。
「ほら、美優、弟君困ってるよ」
と、麻衣さんが簡単に引き離してくれた。助けた感出してますけど、そもそもあなたが俺に話しかけなければ、俺は平和に帰れたんですけどね。
「うぅ、ぐす」
少し落ち着いたのか大人しくなる姉。これが俺の姉かとため息が出そうになる。
「そうか、大変でしたね。ではこれで」
「ちょっと!話聞いてよ!私の韓国ドラマ並みの大作恋愛劇場聞いてよ!!」
「何が韓国ドラマだよ!どうせ主婦しか見てない再放送のドロッドロなつまんねぇ昼ドラ程度だろ!」
「あぁっ!言ったな!私の恋愛はどうせ寝取られる恋愛しかできないって言ったなぁ!」
「そこまで言ってねぇよ!」
くだらない三流コントに周りがドン引いている中、クスクス笑う麻衣さん。
「まぁまぁお二人さん。アイス買ったから食べましょ。はいこれ美優のね」
と、アイスキャンディーを姉に渡す。
「うぅ、ありがとう…」
「はい、これ弟くんの」
と、同じアイスキャンディーを向ける。
「これ麻衣さんの分なんじゃ」
「本当はね。でも巻き込んじゃったし、謝罪も兼ねてね」
ウインクして渡される。まぁ施しには基本的にもらうようにする。タダでもらえるものほど素晴らしいものはない。
「で、姉さんがクズ男にまた捕まってしまったのはわかったけど、無事に別れられたの?」
この姉はなぜか知らないがクズ男を引っ掛ける。見た目だけで選んでいるのか、それともそういう星のもとに生まれたのか、その両方なのかわからんが恋愛にはとことんついていない。姉は下を向きながら、
「……そりゃあもう別れたわよ。ちょっとビンタして、馬乗りでタコ殴りにはしちゃったけど、それ以外はなにもなかったよ」
……タコ殴りにちょっともクソもないだろう。のほほんとしているようでクソ怖いなうちの姉。
「あれはすごかったなぁ。浮気相手逃げてたし、いやぁあれは恋愛ドラマというより格闘映画みたいだったよ」
と笑いながら話す麻衣さん。自業自得とはいえその元彼氏さん、すげぇ報復くらったな。
「ま、彼氏なんてまたできるよ。美優可愛いし、明日にでも作ろうと思えばつくれるでしょ」
「まぁ確かに男なんて簡単に惚れさせることはできるけど……」
なんだこのクソ姉貴、また浮気されて泣いてしまえ。
遅くなってすみません。気長に待ってもらうと嬉しいです。




