第28話:遅れてきた仲間(と無意識の善行)
「来た!」
思考の端で、待ち望んでいた舞台装置の登場を感知する。
これで完璧だ。マリエルへの報告も「いやー、あと一歩だったんですけど、仲間(魔法少女)が来ちゃってー」で万事解決——。
私の思考がコンマ五秒、安易な勝利に酔った、その時。
(……ん? 威力が、おかしい)
肌を焼く熱波。外骨格を震わせる大気の咆哮。
それは、算出していた「威嚇」のパラメータを無慈悲に逸脱していた。遊びではない、本物の破壊の予兆。
着弾点は馬車、中央。
(ヤバイ、この援軍、馬車ごと吹っ飛ばす気だ!!)
私のバッタボディ(外骨格)なら、この程度の爆発の余波は耐えられる。
だが、目の前にいる二人は?
弟はただのエリート少年。
魔法少女Aは、変身前のただの美少女。
二人とも、生身!。
(死ぬ!)
その二文字が、理性を焼き切った。
それは前世(佐藤 葵)の残滓。後輩の無茶な残業を「ダメ!」と止めるのと同じ、嫌な予感に満ちた焦燥。理屈ではない。利害でもない。ただ、間に合わない、という絶望だけが脊髄を走った。
「——っ!」
思考よりも早く、バッタの脚が地を蹴る。
エステルの細い腕を掴み、力任せに抱き寄せる。彼女の驚愕の息遣いが、硬い胸部装甲に触れた。リオンが吹き飛ばされるであろう軌道へ、自分の身体を強引に割り込ませる。
——刹那、世界が白く染まった。
轟音。
鼓膜を突き破る爆発音とともに、馬車の側面がまるで紙細工のように炎に飲み込まれ、四散する。
抱きしめた身体の微かな震えが、外骨格越しに伝わる。
ガガガガガッ!!
背中が盾となった弟の位置を確かめる余裕はない。凄まじい熱量と運動エネルギーが、背中の装甲を叩きつける。焼けた木片と歪んだ金属が、無数の凶器となって降り注いだ。
(いっ…た! いや痛くはないけど! 鬱陶しい!!)
内心の悪態は、もちろんこの惨状を引き起こした「仲間」へ向かう。
(この脳筋魔法少女め…! 攻撃が大雑把すぎるんだよ!! もうちょっとこう、手心というか、ホウレンソウというか…!)
やがて衝撃が収まる。
腕の中の温もりが、戸惑いがちに身じろぎした。エステルの瞳が、何が起きたのか理解できず、ただ目の前の異形を映している。
「(……え? 抱え…られてる? この、怪人に?)」
彼女の混乱が、痛いほど伝わってきた。
その視線が私の背後、無傷で呆然と立ち尽くすリオンを捉え、さらに深い迷宮へと迷い込む。
(庇われた…? 私と、リオン様が? …い、いや、そんなはずは…! 爆発の衝撃で、偶然ぶつかって、そう見えただけだ…!)
うん、それでいい。そう結論づけてくれ。
私自身、この反射的な行動の動機を説明できないのだから。
その時、破壊された馬車の残骸の外、近くの建物の屋上から、甲高い怒声が夜気を切り裂いた。
「この馬鹿!!」
魔法少女Cが、魔法少女Bの脳天に容赦ない制裁を加える影が見える。
「グオぉぉおお!」
「『馬車ごと』やったら、人質まで死ぬでしょうが! 」
屋根の上で、クラリッサは、頭を押さえる仲間を放置し、即座にこちらへ跳躍する。
その目には、私への純粋な警戒と敵意が宿っていた。
だが、彼女は、無傷で仁王立ちする私と、私によって(結果的に)守られた二人を見て、一瞬、思考のすべてを停止させた。
(よし。役者が揃った)
これで、私の「お仕事」は完璧だ。
魔法少女が三人も揃ったのだ。「邪魔が入って撤退」という、これ以上ない完璧な「言い訳」が成立した。
私は、わざとらしくエステルを(やや乱暴に)突き放し、馬車の残骸の上に仁王立ちする。
そして、悪役の作法に則り、月を背負い、高らかに笑ってやった。
「フハハハハハ! ええい、遅れてきた仲間か! どうやら今回は邪魔が入ったようだな!」
クラリッサと、遅れて合流したイグニスが、ぎょっとして私を睨みつける。
「だが、次はこうはいかんぞ、秩序の使いども! それに…」
と、わざとらしく弟を一瞥する。
「リオン・ヴェルデ! お前の首も、いずれ貰い受ける!」
これ以上ない「捨てゼリフ」を夜空に放ち、私はバッタの脚力を解放。
夜空高く、五階建ての建物を一気に飛び越える跳躍で、その場から撤退した。
(あー、疲れた! 帰って寝よう。マリエルへの報告(言い訳)のシミュレーションもしなきゃ…)
そんな、あまりにも俗なことを考えながら。




