表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/43

第25話:公爵家暗殺計画(という名のサボタージュ)


「ヴェルデ公爵家を、我々の『拠点(巣)』にするのです」


マリエルの静かな声が、安宿の淀んだ空気を切り裂いた。

一瞬、時間が止まる。いや、私の思考が凍り付いた。


じ、実家?

あの、私を勘当し、「娼婦にでもなるがいい」と吐き捨てた、あの家を?


「……む、無理よ。私、勘当されてるし……」


絞り出した声は、自分でも驚くほど情けなく震えていた。

だが、心の奥底で分かっている。ここで「NO」と口にしたら、何が起きるか。

獣道での、あの膝枕。拒否権ごと唇を塞いだ、理不尽なキス。私の意志を蹂躙し、「幸福」を強制的に叩き込んでくる、あの百合的侵食ごほうび


(ダメだ…! 下手に拒否すれば、あの強制『ご褒美(という名の精神攻撃)』が待っている!)

(この理不尽極まるクソ案件、受諾以外の選択肢が、ない!)


私は、引き攣りそうになる頬の筋肉を意志の力で押さえつけ、完璧な「女優(社畜)」の仮面を貼り付けた。

(恐怖で)ワナワナと震える拳を、さも「歓喜」に打ち震えているかのように握りしめる。マリエルに向き直る顔には、最大限の賛辞を浮かべた。


「さ、さすが……さすがね、マリエル!!」


声が必要以上に上ずる。


「素晴らしいわ! 拠点ですって! あの私を追い出した連中に、これ以上ない復讐ができるじゃない! ……それで、具体的にはどうやって?」


(どうせ穴だらけのザル計画のはず。非現実的な部分を理詰めで突いて、『いやー、マリエル様、それはリスクが高すぎますねー』というていで、穏便に『先送り』に持ち込む! これぞ社畜流、プロジェクト炎上回避術よ!)


だが、マリエルは、窓の外の夜景に視線を注いだまま、まるで「今夜の献立」でも決めるかのように、淡々と、恐ろしいほど平坦に口を開いた。


「簡単です」


(ニコリ)


「邪魔な方を、消すだけですから」


「………え?」


「貴女が『ヴェルデ公爵家』を合法的に継承するためには、障害が三つあります。」


当主であるヴァルカン


ミランダ


現・後継者であるリオン


「この三名を、然るべき順序で『事故』や『病』で排除すれば、他に継承権を持つ血族は、勘当されたとはいえ『唯一の娘』である貴女しか残りません」


(…………)


血の気が引いていくのが分かった。室温が数度下がったような錯覚。


(こいつ、本気だ)


背筋を、氷の指がなぞり上げる。

ガチの暗殺。それも三人も。私に、実の父と母と弟を殺せ、と。

ダメだ。このサイコパスは、私の小手先の「先送り」提案など、真正面から叩き潰すタイプだ。


ならば——!


私は、ワナワナと震える身体(の演技)を、今度は「復讐の激情」という設定に切り替えて、さらに強めた。わざとらしく、甲高い高笑いを夜の部屋に響かせる。


「ア、アハハ…! アハハハハ! 最高じゃない!!」

「そうよ! 私もずっと思ってたの! お父様も、お母様も、あの憎たらしい弟も、全員殺したいってね!(満面の笑み)(大嘘)」


「先送り」がダメなら、「妨害サボタージュ」するしかない。


私は「やる気」をアピールするため、復讐に燃える狂気の令嬢を演じきり、部屋を意味もなくグルグルと歩き回ってみせた。


((超高速思考)どうする!? どうやってこの暗殺計画を『失敗』させる!? しかも『不可抗力』で! 私のせいじゃなく、『予期せぬ邪魔が入った』という形にしないと…!)

(マリエルは十中八九、私を監視するはず。その目の前で、どうやって「手を抜く」?)


(……『邪魔』。そうだ、『邪魔』が最初からいる場所に、こちらから乗り込めばいいんだ!)


脳裏に、前世(佐藤葵)の、日曜の朝の記憶が鮮烈に蘇る。

埃っぽいブラウン管の向こう側。悪の怪人は、なぜかいつもヒーローの妹が通う学校や、ヒーローがデートしている遊園地を律儀に襲う。

なぜか?

決まっている。そこでヒーローに「妨害」されるためだ。


(——これだ!!)


私の脳内で、完璧な遅延工作サボタージュ計画が策定された。


暗殺対象のリオンは、あの王立貴族学園に通っている(エリートだから)。


あの魔法少女たちも、あの学園を拠点にしている(と思う?)。


つまり、リオンの登下校中を、学園の限りなく近くで襲撃する。


もし魔法少女が(弟の護衛か、ただの生徒として)近くにいれば、必ず助けに出てくるはず!

魔法少女(複数) VS 怪人(私)の構図に持ち込めば、マリエル(監視役)が傍にいても「惜しかったけれど、邪魔が入ったから撤退する!」という、完璧な『言いサボタージュ』が成立する!


完璧だ。私、天才かもしれない。


私はバッとマリエルに向き直った。その目は(邪悪な企みで)ギラギラと輝いている。


「マリエル! 決めたわ! まずはリオンからやりましょう!」

「あいつが一番手薄だし、何より私を侮辱した、あいつの顔を真っ先に絶望させるのが、最高の『復讐』よ!」


そして、私は「業務」としての提案を、自信満々に叩きつけた。


「でも、やるなら確実に行きたい。あいつの登下校のルート、馬車の時間、護衛の数と実力…それを完璧に把握する必要があるわ」

「二、三日、私に『偵察』の時間をちょうだい。最高の舞台(暗殺現場)を用意してあげる」


マリエルは、私の(予想外の)「やる気」と「計画性」に、一瞬、不思議そうに目をまたたかせた。

が、すぐに納得し、あの慈愛に満ちた(狂信者の)微笑みに戻る。


【マリエルの内心】

「(ふふ…やはり『ご褒美キス』が効いたようですね。貴女は、私のために働くのが一番幸せなのです)」


「ええ、いいでしょう。貴女の気が済むよう、万全を期してください。…期待していますよ、バッタちゃん」


【私(葵)の内心】

「(よっしゃ食いついたァァァ!! まずは『合法的なサボり(偵察期間)』三日ゲット! この間に次の遅延工作を練り直すぞ!!)」


私は仮面の下で、この理不尽な世界に来て初めての、ささやかすぎる「勝利」の味を噛み締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ