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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第一章 ノースピークの戦い
9/50

9 夜の庭園

 石畳を踏む足音がうるさいほどに響く。


 ガシャガシャとなる鎧の金属音が申し訳なく感じられるほどに、辺りは静かだった。


 時折何処かから流れる風が、そっと草木を揺らす他は何の気配も無い。空はガラスのような透明な壁で仕切られ、その向こうには星空が広がっている。


 夜の庭園をゆっくりと歩く。


 まるで時間から取り残されたような場所だ。庭園を形作る組み上げられた石壁は風化しボロボロと崩れている。草花は自然に伸びるままにその石壁の残骸に絡み付いていた。古代の遺跡といってもいい。とても美しい場所なだけに、どこか寂しい気持ちがした。


 あちこちにはいくつも石像のようなオブジェが建てられていたが、そのどれもが無惨に崩れ果てていた。残った形から想像するにそれぞれ動物を型どっているようにも見えるが、破損が激しく元の形を特定することはできない。台座にも何か文字が刻まれていたが、判別するのは難しかった。


「レ……プテ……いや、読めないな」


 俺の独り言は静寂に消える。


 どれだけの時間が経てば、これほどまでに朽ちるのだろうか。その表面を軽く撫でるとボロボロと崩れ、風化した石の欠片が風に舞った。


 一体この場所は何なのか。


 回廊の名残りに沿って歩きながら、俺は記憶の中を探っていた。少なくともこれまでゲーム内でこんな場所は見たことがないし、話にも聞いたことはない。もしや未実装のエリアに迷い混んでしまったのではないかという考えが頭をよぎった。もしそうなら、運営に後で怒られたりするのかな……?


 不安な気持ちが胸に湧き、立ち止まって辺りを見渡す。音もなく揺れる草木だけが、朽ちた回廊に影を作っていた。


 かつてはここに誰かがいて、そしていなくなった。その気配が、時間の空白が、夜の暗さを際立たせている。


 俺は胸を締め付ける寂しさから逃れるように、少しだけ早足で歩みを進めた。



 ◇


 その道の終わりは、拍子抜けするほど呆気なく訪れた。


 細い水路をまたぐ小さなアーチ型の橋を渡ると、どんどんと茂みが濃くなる。道を塞ぐ木々の隙間を抜けると、予期しなかった眩しさに目がくらんだ。


 庭園の中心部と思われるその場所には水路の源と思われる小さな泉があった。水面がまるで鏡のように月明かりを反射し揺らめいている。そのきらめきが無ければ、存在しないのではと思われるほどに透き通った水面だ。


 どうやら道はここで行き止まりのようだった。泉の先はより深い木々に遮られ、それ以上進めそうにない。出口があるのではないかという俺の期待はその時点で、空気の抜けた風船のようにヘナヘナと萎んだ。


 力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。


 何か見落としがあったかもしれない。仕方ない、もう一度来た道を戻るか……と振り返った時、


 ──心臓がひとつ、大きな音を立てて鳴った。


 人影。


 泉のほとり、誰かが立っている。


 真っ白な肌。月明かりに透き通るような銀色の髪。いつの間に現れたのか、一人の少女がまるで人形のように佇んでいた。


 俺は驚きで心臓が飛び出しそうになるのを堪え、月明かりに目を凝らす。


 丸みを帯びたブカブカのローブ。額に着けた物々しいサークレットがその幼い顔とは不釣り合いに、闇に浮かび上がるように輝いている。


 (子供?)


 人形かと感じた印象はあながち間違いでもない。その姿は驚くほどに精巧だが、プレイヤーである俺達冒険者とは何かが明らかに違う。焦点の定まらないどこかぼんやりとした瞳。間違いない、NPCだ。


 相手は黙して動かない。


 俺も黙して動けない。


 その沈黙に耐えきれず、俺は喉から言葉を絞り出した。


「こ、こんばんは……」


 無言。水の流れる音だけが答える。NPCは人工知能により思考しているが、役割に沿った決められたパターンで会話を返し行動しているだけだ。あいさつを返されなくとも何ら不思議なことはない。


 何か情報はないかと、NPCをターゲットし詳細を見るが『ニア』という名前以外は何の情報も記されていなかった。


 『ニア』


 少し考えた後、俺は何とか目の前のニアから反応を引き出そうと、思い付く限りの質問を投げ掛けた。ここはどこですか?何かのクエストですか?出口はありませんか?いつからここにいるんですか?お母さんかお父さんはいますか?そのどれもが滑稽なほどに無視され沈黙を際立たせる。NPCの少女ニアはただ空虚な視線で俺を見つめていた。


 所在の無い時間が流れる。


 このまま答えの無い問答を続けても仕方ない。やはり出口を探しに戻るか……。


 子供に無視され続ける情けなさに堪えられなくなった俺は、踵を返しその場を去ろうと思った。が、その時視界の端に何か動くものをみとめ、立ち止まった。


 泉?


 長く吹く風が、水面を撫でるように流れる。微かなゆらめきがやがてさざ波に変わり、水面全体がまるで意思を持っているかのように動く。その揺らめきの向こうに一瞬、何かが見えた気がした。上空からの視点。巨大な人工物。これってまさか……


 ワープゾーン……?


 今の風景には見覚えがある。荒涼とした大地にそびえる、四方を壁に囲まれた城壁都市。間違いない、俺達が帰還する場所、世界の中心、城塞都市カリアの遠景だ。


 ここに入るしかない。俺は泉に飛び込もうと、はやる気持ちで身を乗り出す。


 やっと帰れる……よし、行くぞ、飛び込むぞ、さん、にい、いち……と、心の中でカウントダウンをするが、なかなか足を踏み出せない。元々ビビリで泳ぎが苦手、というのもあるが、踏ん切りがつかない原因はもう一つあった。


 背後のニアが気になり、チラリと振り返る。


 これまでと変わらずポツンとその場に立ち、こちらをじっと見据えている。


 このままお別れするのも可哀想な気もするけど……って俺何考えてるんだ。これはゲーム。相手はNPC。馬鹿馬鹿しい。


 そんな気持ちになったのはここで感じた寂しさのせいかも知れない。朽ちた廃墟。夜の庭園。一体どれだけ長い間、この場所に一人でいるのだろうか。


「じゃあ、行きます、ありがとうございました」


 ニアは変わらぬ視線で俺を見つめている。何か気の効いた言葉が出れば良いのだが。口下手な俺が喉から絞り出したのは何の味気もない言葉だった。


「頑張ってね……」


 何を頑張るのか。俺は馬鹿か。俺が頑張れ。そう思いながら、俺はその視線を振り払うような気持ちで、泉の中へ飛び込んだ。



ギルドハウスにて−−


寝ていたガブがむくりと起き上がる。


レド「お、酔っぱらいが起きたぞ。おはよーさん」


ガブ「むにゃむにゃ……フジは?」


レド「いや、まだ戻って来ないけど。今日は戻ってこないかもねー……って、ガブちゃん泣いてんの!?なんで!?」


ガブ「フジー!どこいったんだよお、俺寂しいよお、フジのあほー!せっかくフジと勝利の喜びを分かち合いたかったのによお!フジー!はやく帰ってこーい!むにゃむにゃ……」


レド「あ、また寝た。フジくん人気者だなあ。ねえミレイちゃん」


ミレイ「は?何がですか?」


レド「何でもないです……」

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