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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第一章 ノースピークの戦い
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8 壁の中、夢の中

 壁に右手をつけたままひたすらに歩く。


 昔何かの小説で読んだことがあるが、洞窟などで道に迷った時はこうして片手を壁につけたまま進めばいずれ出口に辿り着くらしい。


 そもそも出口があれば──の話だが。


 見渡す限りのまっ暗闇の中を俺は数十分歩き続けていたが、歩けども進めども何もない。どれだけ目を凝らしても暗黒の空間が無限に広がっているだけだ。


 そもそも四方が真っ暗では前に進めているのか、同じところで足踏みしているだけなのかさえ、わからなかった。唯一の頼りは見えない壁に触れる右手の感触だけだが、これもあてにはならない。確かに何かに触れてはいるが何の摩擦もなく、ツルツルとしていながら冷たくも暖かくもない。不思議な感触だった。矛盾した言い方だけど俺はきっと「何も無いところを触っている」のだろう。


 まさしくここは、世界の裏側。無の世界だ。


 自分たちがこれまで見ていた風景が、いくら現実と遜色のないリアルなものでも、所詮はハリボテの作り物だという実感が沸いた。大地も、空も、広大なダンジョンも、薄皮を剥がすように世界をめくってみれば画面の外は奥行きの無いただの黒い空間だ。ここはさしずめ、世界の舞台裏、ということだろう。


 その暗闇を歩き続けること数十分。


 再ログインを何度か試みたが、接続し直しても目の前にあるのは変わらない暗黒空間だった。メニューも回復の兆しはない。途方に暮れた俺は指輪に向かい声をかけ続けた。


「おーい……もしもーし……誰かー……」


 『円環の指輪』。離れた場所にいるギルドメンバーとのチャットを容易にするアイテム。要は通信手段だ。円環とは輪のことだから意味が重複しているが、とにかくすごく輪を形作る、ということだろう。ギルドメンバーの証と言ってもいい。はじめはお揃いの指輪なんてこっ恥ずかしかったが、今ではこれがないと不便で仕方がない。


 いつもは指輪に向かって話かければ誰かしらが返事をしてくれるが、何度話かけても何故か反応はない。俺の言葉はどこにも辿り着くことなく、滑稽に宙を舞い暗闇に吸い込まれた。


 あんな人たちでも、頼るものの無いこの状況下では恋しく感じられる。みんな今頃ギルドハウスに戻っている頃だろう。誰か一人ぐらいは戻ってこない俺の事を心配してくれてたらいいな……という考えが頭をよぎったが、あの人たちにそれを期待するだけ無駄だと思い直し、意味の無い想像をするのはやめた。


 このまま歩き続けても何処にも辿り着かないし、何も無い。どん詰まりだ。


 真っ暗な風景を眺め続けているせいか、いよいよ眠気が襲う。


 もう明日でいい。明日、ゲーム外から連絡して運営になんとかしてもらおう。


 瞼が自然に落ちる。


 そもそも今何時だ?時計を見るのも恐ろしい。


 これ、復旧できなかったらどうなるのかな?そんな不安をぼんやりと感じながら、俺の意識は周りの暗黒よりももっと深い闇の中へ落ちていった。



  ◇



 おそらく数十秒。


 俺が夢を見ていたのはたったそれだけの時間のはずだ。すぐに頭の中から消えてしまう、どうということの無い短い夢。


 夢の中で俺は、ノースピークの城の外にいた。さきほどと同じように朽ち果てた女神像が、憂いを称えた表情で俺を見下ろしている。


 ただ一つ違うのは女神像が石では無く、生身の姿でそこに立っていると言うことだ。


 この世界を作ったとされる創造の女神。さぞかし美しいであろうその姿は俺の貧相な想像力を越えているのか、ぼんやりとモヤがかかったようにはっきりしない。


 女神は俺に向かって言った。その声は頭の中に直接響く。


『繋がった』


 どこへ?


『・?。のもとへ』


 何?


『永劫の、!■mー、き・。?の』


 いよいよ女神の言葉はバグっているのかノイズだらけで聞き取れない。


 ふと気が付くと傍らにミレイが倒れていた。ふとももが露になっているが、スカートの中は見えそうで見えない。


 見渡せばミレイだけじゃなく、レドさんも、ガブもベルさんも、そして八丁さんも倒れていた。その体の上に雪が積もっていく。さきほどの光景と違うのはその雪がまるで不吉な何かを告げるように、真っ黒な色をしている事だ。


 ここはノースピークじゃない……?


 戸惑いの中、辺りはどんどん黒い雪に覆われ、あっという間に一面が闇に包まれた。もう誰の姿も見えない。


 深い静寂の中、俺の傍らを何かが走り抜ける。小さな動物のような足音をたてるそれは、闇の中に光の筋を描く。目を覆うほどに眩しい三本の光。輝きをまといながら、その三匹の獣は女神を囲み、寄り添うように集まった。金色の毛並みをしたオオカミだ。


 三匹のオオカミたちはじっと俺を見ていた。

 まるで何かを見定めるように。


 その視線に耐えられず、俺は瞳を逸らす。


 気付けばギルドメンバーたちが起き上がって俺を見ていた。あ、みんな無事だったんだな、よかったよかった。


 ボッーと立ち尽くしている俺に向かって、レドさんが指揮者のように手を振り上げる。せーの、の掛け声で全員が一斉に口を開いた。


 「寝てんじゃねーぞ!フジ!」



 ◇



 体がビクッと痙攣し、目を覚ます。


 今のが夢だと気付いた時には、その記憶はすでに曖昧な輪郭だけを残し、頭の中から遠ざかっていた。


 いかん、ちゃんと布団で寝なければ…。


 ヘッドギアを外そうと手をかけたが、先程自らの手でベッドにコーヒーを撒き散らした事を思い出しその手を止めた。


 部屋の惨状を見るのもためらわれ、俺はヘッドギアを脱ぐのをやめて、そのまま再び目を閉じる。


 いっそこのまま寝てしまえ。どうせ暗闇、寝るにはいい環境だ。さっきの夢はもう忘れた。なんだか変な夢だったような気もするが、覚えていない。眠い。なんだか綺麗な人が出てきた気もする。あと三匹の動物も。あれ?どんな夢だっけ?


 そうして俺は、再び目を閉じた。


 おやすみなさい──




 ……


 








 ……










 ……












 ……














 ……












 ……
















 ……


















 ……
















  


 ……
















 ……












 いや、なんだか眩しい。


 寝られない。


 瞼にうっすらとした光を感じ、恐る恐る目を開ける。


 最初に感じたのは身体を包む空気だった。これまでの無の空間とは明らかに違う。緑の匂い。冷たく澄んだ風の感触。


 暗闇に慣れた視線がゆっくりと結ばれていく。目の前に広がっていたのは、これまでの暗黒空間とは打って変わった神秘的な光景だった。


 赤褐色のレンガのような石が敷き詰められたその場所は、小さな庭園のように見えた。色とりどりの花が咲き、そのどれもが静かに、月明かりをうけてまるで時間が止まっているかのように佇んでいた。


 目の前には組み上げられた石が小さな門を形作り、石畳の上に薄い影を作っている。空に浮かぶ月のような小さな光源が、その庭園に立ち尽くす俺をそっと照らしていた。


 意識が今、現実にあるのか、ゲームの中にあるのか、もしくはいまだに夢を見ているのか。その境目が曖昧で、俺は時間も忘れてしばらくその場に佇んでいた。


 いつの間にこんな所に辿り着いたのだろう。もしかしたら俺は眠りながらも歩き続けていたのだろうか。不思議な気持ちがして辺りを見回したが、俺が入ってきたと思われる入口らしきものも見当たらない。どこからか吹く風が、足元のレンガの隙間から突き出た草を揺らした。


 いや、よくわからないが、こんなところでボーッとしている場合じゃない。もしかすると何処かに街へ戻る出口が有るかもしれない。探さねば。


 「おじゃましまーす……」


 誰かいるとも思っていなかったが、まあ礼儀作法である。一人言を呟き俺はその朽ち果てた門を恐る恐るくぐり抜けた。



ギルドハウスにて


ミレイ「はっ……」


ベル「どうしたの?」


ミレイ「今、誰かがわたしのスカートの中を覗こうとしてた気がする……」


ベル「なにそれ〜、フジくんだったりして」


ミレイ「なんでフジが……。そいえばフジ戻ってこないね」


レド「眠い眠い言ってたし、どっかで寝落ちでもしてんじゃないのー。今日はもう戻ってこないかもね。ミレイちゃん寂しいねえ」


ミレイ「え!?は!?なんでわたしが寂しいんですか!?説明して下さいよちょっと!」


レド「え、そ、そんな剣幕で怒らなくても。ごめんごめん、なんかすいませんでした」


ミレイ「適当なこと言わないで下さいマジで。ぶん殴りますよホントに」


レド「い、いや、申し訳ございませんでした……」


八丁「……青春だなあ……」


 一方そのころフジは夢の中でミレイのスカートの中を覗こうと悪戦苦闘していた……。

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