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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第一章 ノースピークの戦い
7/50

7 壁

「で、これはどうやって出るんですかね……」


 戦闘が終わり、勝利の喜びに浸りたいところだったが俺は新たな問題に直面していた。


 ボスの死体は消失し、床にどす黒い巨大な血だまりだけが残っている。銀色の部屋のあちこちは崩れ落ち、瓦礫の山が先ほどの戦いの名残を残していた。


 部屋の中央。小さな祭壇があった場所には階段が現れ、隠された部屋への口を開いていた。あの暗闇の先に報酬部屋がある。俺達が勝利した証。


 しかし、その宝物庫を目前にしても俺達は、いや、俺だけは足止めを食らっていた。


「だめだ、全然動けない」


 壁にハマった体は戦闘が終わってもそのままだった。何をやっても抜けない。この状況を何とかしなくては、あの宝物庫に足を踏み入れることは不可能だ。


 はじめはあーだこーだと壁から抜け出る方法を好き勝手に提案していたみんなも早々に諦め、今では俺の前に並び記念写真をとっていた。


「フジ真ん中な!おれは小さいから前ね」


「もうちょっとそっち寄ってよ。あ、八丁さん見切れてますよー」


「フジくんいいなあ~。こうやって見ると面白いよね。わたしも壁にハマりたくなってきたな~」


「あ、僕ちょっと着替えるから待ってて、えーとさっき拾ったやつを……」


 八丁さんは俺の横に無言で並び、ピースサインをして写真撮影を待っている。


 こいつら……。


 俺は一人悪戦苦闘していたが、どうやっても壁から抜け出せそうになかった。戦闘中は夢中で気付かなかったが、腰から下が完全に固定され、僅かに動く上半身を前後に揺すっても壁から生えているかのように顔が飛び出るだけだ。


 もがく俺を尻目に、写真撮影が終わったみんなは飽きてきたのか雑談を始めていた。ミレイがベルさんに尋ねる。


「そういえばさっきベルちゃんさ、どうしてボスがフジの右から来るってわかったの?」


「え~と、わたしいっつも敵の動きカクカクしてるからなんとなくそうかなって。わたし大体、勘で戦ってるんだよね〜」


「恐ろしいこと言うね君……。ま、でも今回の勝利の功労賞はベルちゃんてことで。残念賞はまっさきに死んだガブな!」


「なんだと!あんたもあんま変わらんだろうが!」


「……みんな頑張った」


 いやいや、功労賞も残念賞も両方俺だ。何言ってるんだこの人達は。おーいおーい、とみんなに呼び掛ける俺の声を書き消すように、その時エリア内アナウンスが流れた。


──あと3分でこのエリアは封鎖されます。次のエリアへ移動して下さい。繰り返します。あと3分で──



 特殊エリアでの滞在時間は決まっているため、このままだと俺だけ強制的にパーティーを外されて城の外まで飛ばされるだろう。つまり時間切れ。この先の宝物庫にある討伐報酬を受けとり損なうことになる。


 「フジよ、残念ながらここでお別れだ。お前のことは忘れない……」


 ガブが言葉とは裏腹に笑いを堪えながら言った。


 ちくしょう。その様子に悔しさが増した俺はこれまで以上にめちゃくちゃにもがいた。ちくしょう、ちくしょう、なんだってこんなことになるんだ。せっかく勝ったのにこの仕打ちはあり得ない。そもそも、普通にやってても問題なく勝ててたはずだ。負けたら先に進めないのは当然だが、勝っても先に進めないとはなんだ。理不尽にも程がある。この世界に神様はいないのか。


 常々、俺達のギルドは運が無いと思っていた。しかし実のところそれは俺だけなのでは、という考えが頭をよぎる。そんな残酷な事実を受け止めたくない。諦めなければ何とかなるとさっきの戦いで学んだはずだ。不運を力づくで乗り越えろ俺。


 まるで駄々をこねる子供のように暴れる姿を見てさすがに哀れに思ったのか、ガブが俺の目の前に立った。


「仕方ねーなー。引いてだめなら押してみな、ってな。あれ?逆か」


 そう言ってガブは飛び上がり、俺の顔面に思い切り体当たりをした。衝撃が走り、視界が揺れる。小さいとはいえ無防備の状態にガブの体当たりは正直効いた。


「おい、お前あとで覚えてろよ、ってあれ?」


 ほんのわずかだが、今の衝撃で体が少し後ろに動いた気がする。ヌルヌルっとした不思議な感覚があった。もしかしたら動ける角度があるのかも知れない。これをこうして。んでこのままこう。こっちに体重を掛けたまま、体をこっちに捻る!お、動くぞ。動くがしかし、あら?あらら?


 俺の体はズブズブとさらに壁の中へ沈んでいく。


 「ちょ、フジ!」


 ガブが咄嗟に手を伸ばす。


 が、俺の腕はその小さな手を掴むこと無く空を切る。


 驚いたガブの表情。それが見えたのを最後に、俺の視界は真っ暗になった。一瞬後に背中に衝撃が走り、自分が倒れ込んだことに気付く。


 不思議な地面の感触。


 どうなった?俺?


 すぐに起き上がり、状況を把握しようとしたが何も見えない。壁の向こうから声が聞こえ、俺は我に帰る。


「おい、ちょっとフジ!」


「き、消えた!」


「あれ?フジくんどこいったの〜」


「ちょ、フジうける」


 どうやら自由に動けるようになったのはいいが、壁の向こう側に通り抜けてしまったらしい。これでは元も子もない。


 戻らなければ。何も見えない視界のなかでは手のひらの感覚だけが頼りだ。真っ暗な視界の中で壁にペタペタと手を這わせ隙間を探したが、何も見つからなかった。


 俺は助けを求め、壁の向こうに訴えかける。


 「ここ、真っ暗で何も見えなくて……どうしたらいいですかね?」


 「君とことんついてないなあ、ってちょっと待って…………ごめん!もう先へ進まなきゃ!いいかい?無理しないで帰還して!変に歩き回ると危ないから!僕らはギルドハウスに戻るからそこで落ち合おう。いいかい、そんじゃさばら!」


 早口でまくし立てるレドさんの声色から察するに、いよいよ時間切れだ。俺の巻き添えで報酬部屋への道が閉ざされてしまっては元も子もない。仕方ない。


 「じゃあなー、フジ」


 「フジくん、ばいばい~」


 「……気をつけて……」


 「じゃ、おつかれさまでしたー」


 無慈悲なミレイの声を最後に気配が途絶える。数秒後、チリンチリンと俺が強制的にパーティー離脱したことを告げる通知音が悲しく鳴った。


 辺りに本当の沈黙が降りる。


 見えない壁に手を着きながら振り返る。辺りを見回しても、そこにはただ真っ黒な空間がどこまでも広がっているだけだ。


 インベントリから松明を取り出してみたが、その炎は何も照らさない。ただ、暗黒の空間にぼうっと浮かび上がるだけだ。俺は察した。これは暗闇じゃない。無の空間。何も無い、いわゆる「NULL」を意味する暗黒だ。


 何も聞こえない。


 何も見えない。


 その黒い景色を見ていると、何処か別の場所に吸い込まれてしまいそうな気がして、少しだけ背筋が寒くなった。


 仕方ない。もう帰ろう。俺は帰還のコマンドを使おうとメニューを開く。が、目に飛び込んできたのは見慣れた表示とはまったく別のものだった。



 t29まか■)$%-&@-++<かま─%─@■へまk4



 そこには意味不明な文字の組み合わせが羅列されていた。


 何度画面を押しても反応は無い。メニューの放つ青い光が、ただ暗闇の中に浮かぶ。


 え、これ、どうやって戻ればいいの……?


 途方に暮れて立ち尽くす俺の目の前には、無の暗黒空間が静かに、どこまでも広がっていた。



 報酬部屋にて


 レド「うおおお、こ、これは、『遺訓の羊子紙』。めっちゃ欲しかったやつだ!」

 

 ガブ「うおっしゃ!『天使のロザリオ』✕2、『銀細工のこけし』、その他諸々お宝ザクザクなんですけど!」


 ベル「わたしは装備!『聖ヘルガの霊装』だって〜。これはいいやつなのかな?」


 ミレイ「え、それすごいやつだよ!ほらSランクって書いてるし!ベルちゃんおめでとう!」


 ベル「うれし〜!ミレイちゃんは何か出た?」


 ミレイ「あ、わたしはね、えーと、ちょっと後で見せるかな……?でもいいの出たよ!」


 レド「うお!八丁も『鬼の下穿』ってなに?あ、パンツ?みんなすごいアイテムでてる!ラッキー!…………てかさ、僕は常々思っていたんだ。僕らのギルドには運が無いってね。」


 ベル「そうだね~」


 レド「しかし今思う……実は運が無いのは僕たちじゃなくてフジく……」


 八丁「……それ以上は言っちゃいけない……」


 一同「………………」

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