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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第一章 ノースピークの戦い
4/50

4 開戦

 数百年前のノースピーク城主は、北方の民を餓えと寒さ、そして魔物から守るために禁忌である悪魔との契約を行った。悪魔の保護を得る代償は領主自身の魂の束縛と、永遠に続く悪魔への従属。つまり領主は自分を生け贄に捧げることで民を守ろうとしたのである。


 悪魔との盟約は永年に渡って守られ、北方の民は束の間の安寧な暮らしを謳歌した。死んだ土地は蘇り、雪の下から新緑の作物が育つ。魔物はその姿を何処かへ隠し、北の土地は、雪と岩壁に囲まれた美しく荘厳な姿を取り戻したのである。


 神の御業とまで言われた奇跡は実のところ悪魔の呪縛だが、そこに住むものにとってはどちらでも構わない。不死に近い命を手に入れた領主は北方の民から長年に渡って讃えられた。


 しかし徐々に蝕んでいく悪魔の呪いは、領主自身の魂を汚していく。暴力と血の誘惑。領主が人間として正気を保つためには多くの民の血を必要としたのである。


 夜毎の生贄の儀式。


 拷問と快楽のミサ。


 城の地下から漏れ出た苦痛の叫びが、風に乗りノースピークの谷間に絶え間なく響く。


 とどのつまりは万事が上手くいくことなんてない。幸福量保存の法則なんて誰が言ったか知らないが、幸福も悲劇も同じ分しか世界には存在しない。振り子のように、それが交互に顔を出すだけだ。


 やがて暴力と破壊に狂う領主を恐れ、民も家臣も土地を逃げるように去った。歴史の最後に領主は、子孫たちと城に残った全ての従者を生きたまま食らい、終いには自らが悪魔と成り果てどこかへ消えたらしい。


 この廃城はいわば過去の苦しみ、永遠の呪いだけが残された巨大な墓場とも言える。地下道の最深部には城主が最後に姿を消したと言われる部屋への扉が、その歴史を封じるようにひっそりと佇んでいるのである──


「へー、じゃあ私たちが戦ってたのはその偉い人の成れの果てってこと?なんだか可哀想だね~」


 ベルさんが扉の前でのんきな声を上げた。


 やっと着いた……。普通に進めば三十分で着く道のりをなんで一時間半も掛かってるの……。


 道中、延々とベルさんにストーリーを説明していたレドさんが得意気に言う。


「そういうこと。素晴らしい語り口だったでしょ!てか何度も戦ってたのに知らなかったのね……。だからほら、あのマッチョ野郎も可哀想なやつだからさー、そろそろ引導を渡してやろうってわけよ。そう思うとやる気も出るでしょ?え、出ない?むしろ何か悪い気がする?いやいや、優しさと哀れみは違うとか言うでしょ。彼の魂を解放してあげることが結果として彼自身を救うことになるんだなあ。え、なんで?って?いやさ、話聞いてた?ほら、ついでに言うと極点への結界を解くにはここを攻略しないといけないわけだしさ、ウィンウィンの関係ってやつですよ。いいね?わかった?え、よくわからないけどせっかく来たからやる?お、おう、なんか腑に落ちないけどまあいいや!はい、ということでフジくん、開けてくれたまえ」 


 はいはい。レドさんに促され俺は巨大な扉に手を掛けた。何となくこういう力仕事は俺の役割らしい。鉄の冷たい感触、扉が軋む不吉な音。もう何度聞いただろう。今日こそ、次こそ、生きてこの扉を出る。


 深く息を吸って力を込めると扉はさらに開き、部屋の中から白く、埃にまみれた光が射した。


 部屋は一面の銀色。床はまるで鏡のように磨かれそれ自体が光を放っているかのように眩しい。空気に舞う幾多の塵が閉鎖されていた故の時間の空白を感じさせた。


 そのガランとした部屋の中央部に、まるで誰からも忘れられたように小さな祭壇がひとつ置かれている。さっきのレドさんの話に出てきた、悪魔崇拝の儀式の名残だろう。


「あの、すいませーん、ボク死にそうなんですけどー……」


 ガブが俺の後ろで真紫の顔をして言った。毒のおかげでHPは限りなくゼロに近い。これからボスと戦おうと言うのに瀕死である。


「毒消しくらい持ってるでしょ。自分で治せばー」


 ミレイが呆れた様子で言う。


「自分で毒食らって自分で治すのってなんか悲しくない?人に治してもらいたいんだよお、ほら、お酒をついでもらいたい的なのと一緒だよ」


「なにそれ、意味わかんない。なんかセクハラっぽくてキモい」


「なんでもキモいとか言うなよー、地味に傷つくんだからなそれ。てかそもそも毒消し持ってないし」


「じゃあ準備を怠ったガブちゃんが悪いでしょ。落ちてるもの食べたら駄目ってうちの犬でも知ってるよ」


「お、ミレイ犬飼ってんの?」


「うん、実家で最近飼いはじめて。白くてモフモフでさー、可愛いいんだよねー。なんだっけ、サブイボ、みたいな」


「それサモエドだろ……。ほんとに飼ってんの……?」


「いや、だって」


「そこ!関係ないお喋りしてるんじゃねー!来るよ!バフ撒きます!」


 レドさんが腰に着けたギアから次々と小瓶を取り出し地面に叩きつけた。中から色とりどりの煙が沸き上がるとパーティーメンバーにステータスアップの効果が付与された。レドさんは錬金術師。味方の強化に特化し、攻撃も防御もおまけに回復もそこそこできる中間職、要は何でも屋である。


「ほれ!ついでだ!」


 レドさんが別の小瓶をガブに投げると毒が浄化され、体を癒やす光が体を包んだ。


「お、さんきゅー。何だかんだ言って優しいおじさんに涙が出そうだよ」


「君、あとで100ゴールドな!」


「なんでだよ!」


「医療がタダで受けられると思うなよ!ここはデンマークじゃねえんだ!って来るぞおおおお!戦闘用意!」


 レドさんの号令と同時、祭壇の上の空間が何の前触れもなく湾曲した。


 ──来る。


 部屋全体が震える。その歪みは裂け目に変わり、やがて空間を無理矢理にこじ開けようとするように、中から鱗に覆われた巨大な手が現れた。


 八丁さんが飛ぶ。空中で抜かれた九十八結が銀色の床の光を反射して輝く。空間の裂け目から現れた腕を目掛けて振り下ろすその刀の一撃。


 それが開戦の合図だった。


 ガブが側面に回り込みながら弓矢を次々と放ち、レドさんがそれに続く。八丁さんの斬撃は止まらず、跳ねるように飛び回りながら、その巨大な悪魔の腕を斬りつける。 


 腕に続き頭が空間から覗く。鳥と牛の間の子のような顔。巨大な赤い瞳は憎悪に燃えるように見開かれ、ノースピークが滅んでも消えない怒りと苦しみに今も身悶えているかのようだ。


 数百年前に消えたとされる城主。目の前にいるのは完全に悪魔に取り込まれ、現世と魔界の狭間に魂を囚われた男の成れの果てだ。


 まだ頭全体がこちらに見えていないにも関わらず、ボスの口から突然炎が吐き出された。赤黒く、地獄の苦しみを体現したようなその炎は渦を巻き、床に降りた八丁さんを襲う。しかし、ずんぐりとした着ぐるみの姿であっても八丁さんは素早かった。華麗に飛び退き身をかわす。炎は誰もいない床を燃やし空中に拡散した。舞い散る火の粉の向こうで、さらに追いうちをかけようとボスは右手を振り回す。その拳の一撃をかわす着ぐるみの姿が見えた。


「チャンスー!」


 短刀に持ち替えたガブが敵の足に切り込む。レドさんも続けて錬金で作り上げた巨大なハンマーを振り回し攻撃に加わった。


 悪魔は空間の裂け目から這い出るように徐々に全身を現しつつあった。こちら側とあちら側。こいつが完全に現世すれば攻撃が本格化するが、その前に出来るだけ削りたい。今回は八丁さんに攻撃が集中してるが、これは逆に好都合でもある。あの人めっちゃかわすから……。


 俺は後ろで回復のために待機するミレイに声を掛けた。


「ミレイも行っていいよ。まだ余裕ありそうだから」


 そう言い終わるのが早いか、すでにミレイはボスめがけて俺の頭上を飛び越えていた。


「フジ、ありがと!」


 弧を描いて宙に舞ったミレイは空中で体を回し敵の鼻っ面に回転蹴りを決めた。ひるがえったスカートから下着が覗く。純白の生地に赤のフリル。俺は心の中で手を合わせ、その紅白のめでたい下着に勝利を祈願した。


 ミレイの職はいわゆるプリースト。パーティーのメインヒーラーであるが何故か彼女は格闘が得意だ。パーティーの回復役という責任感からかあまり表にださないが、チャンスがあれば敵を殴りたそうにしているのを俺は知っていた。


 短いスカートをひるがえしながら顔面に次々と蹴りを放つミレイを振り払うようにボスは頭をのけ反らせ口を開いた。喉の奥が赤くくすぶるのが見える。もう一度炎が来る。しかもさっきのよりも強力なやつが。


 パンツに見とれている場合ではない。

 俺は敵に狙いを定めスキルを発動させた。


 『聖騎士の鎖』


 右手から光が一直線に伸び、ボスの頭の角に巻き付いた。光は一瞬のうちに銀色の鎖を形作り俺の右腕とボスを繋く。鎖を右腕に絡ませ、俺は渾身の力を込めてそれを一気に引いた。


 体が千切れそうな感覚。重い。重いけどなんとかする。俺は続けて『アンカー』のスキルを発動させ、その場に重力の楔を打ち自らの体を固定させる。全身の筋肉に意識を集中させ、腰を落として踏ん張る。足元の床が重さで砕け、銀の石の欠片が弾け飛ぶ。


 鎖が引かれる確かな手応えがあった。ボスがその巨大な体をよろめかせて間一髪、口から吐き出された二撃目の炎はミレイ達から逸れて空中を燃やした。


「フジナイス!」


 お、普段は厳しいガブから誉められるとうれしい。が、喜んでる場合ではない。手首に巻き付けた鎖を握り、気を引き締めた。


 この鎖は俺たちの命綱だ。これで敵を拘束し、動きを封じた上で盾役である俺に攻撃を集中させる。一口にパラディンと言ってもビルドによって戦い方は多様だが、俺はこの鎖をメインに相手を拘束する戦い方が好きだ。


 体に感じる敵の重さ、鎖から伝わる皮膚の感触、俺に向けられる怒りの感情。作り物の世界の中で、まるで本当にそこに存在しているかのように相手を感じることが出来るからだ。


 次の挙動を伺う。ボスは忌々しげに頭を振って角に巻き付いた鎖を振り払おうとしていた。力比べなら望むところだ。もう一度鎖を引こうと構えたが、その時ふいに空中へ魔方陣が描かれた。


 魔法の詠唱。これはヤバい。俺はすぐさま鎖を放して盾を構えた。スキルを解除したため俺とボスを結んでいた鎖は粉々に砕け散り消える。魔方陣の角度から、放たれる攻撃の方向を読む。


 ボスの指先へ黒い影が集まり収縮した。あれは追尾型の魔法の爆撃。狙われたら身をかわすことは不可能という何とも卑怯な攻撃だ。


「レドさん下がって!」


 気付いたレドさんが飛び退き、走りよった俺はボスの前に立ちはだかる。スキルを発動して盾の硬度を上げ、魔法の直撃に備えた。次の瞬間、衝撃とともに目の前で黒い炎が爆発した。


 盾が吹き飛びそうになるが、踏ん張って耐える。全身がしびれるほどの反動と威力。


 敵の片足が裂け目から現れ、石の床が砕けるほどの重みで地面が揺れた。もうすぐ完全に姿を現す。今削ったのはHPの二割ほど。まだまだこれからだ。


「詠唱終わりました!禁呪打ちますよ~!」


 パーティーの一番後衛、ベルさんの言葉を合図に全員がボスから離れ後退した。一撃を防いだことに安堵してはいられない。俺も巻き添えを食わないよう、すかさず脇へ身を引く。


 部屋の中が冷気に包まれたように薄青く発光する。氷の結晶がそこかしこに立ち込め、荘厳とも思える美しい光景に辺りが包まれた。


 禁呪は通常の魔法とは違って味方への魔法防御が働かない。下手すれば巻き添えを食って全滅だ。打つタイミングと詠唱時間のリスクを見極めながら最大限のダメージ効率を叩き出すのが魔法使いの仕事である。


 ベルさんの背後、砲台のように空中に敷き詰められた魔方陣から無数の氷の魂が飛び出した。空間から現れるボスを押し戻そうとするように、氷の弾丸が次々に直撃する。


 部屋全体を震わす爆撃の間に、もう一度レドさんがバフを撒き整える。魔法の攻撃がおさまればすぐに攻撃再開だ。


 最後の氷塊が放たれたと同時、すぐさま八丁さんがふたたびボスに切りかかった。空中で体を回転させ、その真っ赤に燃える巨大な瞳に向かって刀を振り下ろす。


 現世と隔世の境目に置かれた右手。握った空間の狭間をまるで握りつぶしそうなほどに、悪魔は怒りを露に咆哮する。


 ここまでは戦いの序章。さて、ここからが本番だ。



レド「ガブちゃん、ほれ」


レド、ガブに手を差し出す。


ガブ「ん?なんだよ」


レド「さっきの毒消し代。はよ」


ガブ「は?戦闘中だぞアホか!」


レド「君は知らんのか?最強の技『銭投げ』であいつを倒す。はよ!はよよこせ!」


ガブ「なんだよそれ!うるせーな!ほれ!拾え貧乏人が!」


ガブはレドに100ゴールドを投げつけた。

9999のダメージ。

レドは死んだ。


レド「ぐおおお……」


ガブ「何やってんだよ!」

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