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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第二章 大襲撃の夜
23/50

23 ガブの戦い④

 トゥーファはそのままサイクロプスの腕を持ち上げる。なんて馬鹿力だ。いや、驚いてる場合じゃない。俺は這うように手のひらが形作る影の下から逃れる。トゥーファは息を鋭く吐き、一気にサイクロプスを押し返した。間髪入れずに追撃するかと思われたが、


「一旦引くぞ、作戦会議だ」


 そう言ってトゥーファは後ろに飛んだ。さっきは作戦はいらねえ、って言ってたくせに勝手な……。


 アクロバティックに屋根の上へ退避するトゥーファを追い、俺も必死に建物の壁をよじ登る。サイクロプスは片手の傷など物ともしていない様子で、ゆっくりと斧を拾い上げた。逃した獲物を探してキョロキョロと視線を巡らせるサイクロプスを眼下に、俺たちは並んで敵の様子を伺った。



 頭から血を流したトゥーファは懐からポーションを取り出し、腰に手をあててグビグビと飲み干している。ボゲェェ、と地の底から響くようなゲップを吐き出すのんきな姿に向かって俺は言った。


「てめー!いきなり気絶してんじゃねえよ!」


「は? お前がすることないって言うからよ、任せようと思っただけだ。それよりほら、見とけよボゲェェ」


 ゲップの残りを吐き出しながら、トゥーファはポーションの空き瓶をポイっと眼下に放り投げた。


 ゆっくりと落下する瓶がサイクロプスの頭に当たる寸前、一瞬にして振り降ろされた斧の一撃に、空き瓶は跡形もなく粉々に砕け散った。トゥーファの言わんとしていることはわかる。


「あのスピードはやべえ。モーションもフレームも関係無しにどんな態勢からでも目玉を守るための攻撃を繰り出す。普通のサイクロプスはあんな動きしないぜ。イベント仕様の特別なやつかもな」


 だからなんだよ、いきなりやられた言い訳か。と思いながらジロリとトゥーファを見る。オレのそんな視線に気づいているのかいないのか、トゥーファは続ける。


「そこでだ。作戦がある、よく聞け。つまり俺がみたところあいつの弱点は目玉だ」


「そんなもんわかってるわ! 馬鹿かお前は!」


「わかってるなら話がはええ。お前はほら、囮になれ」


「囮?」


「いきなり目玉を狙ってもノーモーションの反撃を食らうだけだ。お前が囮になって隙を作る。そのタイミングで俺が弱点に攻撃して終わりだ。」


 その言いぐさに正直腹が立った。ここまで敵を引き付けたのは俺だろ。


「は? なんで俺が囮? 瀕死のお前が囮やればいいだろ」


「お前にはやれねえから言ってんだろ」


「何を根拠に。お前は寝てればいいじゃん。頭から血でてんぞ。俺一人でやってやんよ」


「は、冗談。じゃあ囮作戦は無しだ。その代わりあいつに止めを刺した方が勝ち、ってことで」


「おうおう、やってやるよ。勝ったほうがリーダーな。イベント終わるまでそいつの指示に黙って従うこと。いいな」


「はっは、ウケる。吠え面かくなよ」


 そう言ってトゥーファは突然に眼下の敵に向かって飛び出した。今や俺達を探すのを諦め背を向けていたサイクロプスを、空中から一直線に斬りつける。


 第2ラウンドの開始。


 正直頭にきていた。

 ひできとかもう関係ない。

 こうなったらヤケクソだ。


 やってやるよ、クソボケ野郎が。 


 オレはありったけの爆弾を取り出した。眼下のトゥーファは弱点への一撃を狙い、敵の周りを縦横無尽に動き回りながらその機会を伺っている。


 こうなればトゥーファもろともだ。食らいやがれ。けけけ。


 オレはトゥーファとサイクロプスに向けて次々と爆弾を投下した。


 戦争でも始まったかのような爆炎が足元から巻き上がる。熱風が吹き上がり、体の毛を揺らす。周囲の建物が倒壊する轟音の中、オレを罵倒する声が聞こえた。


 「てめー! 殺す気か!」


 間一髪、爆発から逃れたトゥーファが、頭上のオレに向かって叫んでいる。


 ちくしょう、生きてやがったか。


 サイクロプスも健在だ。瓦礫と白煙の中、オレを睨むように見上げている。その目は怒りに燃えているように見えた。おお、おっかねえ。


 トゥーファがオレに向かって中指を立てているが無視だ。あいつなんて知らない。サイクロプスをぶっ倒す。それだけだ。


 オレは道具袋の中に何かアイテムは残っていないかと探る。えーと……。


 ふいに、爆音とともにオレの立つ足場が崩壊した。


 え、ちょっと。


 空中に投げ出される体。トゥーファの仕業だ。あの野郎、爆弾の仕返しにオレに向かって魔法打ちやがった。あいつ、魔法まで使えるのか。


 落下する体。地上のサイクロプスが獲物、つまりオレに向かって手を伸ばす。捕まったら終わりだ。


 咄嗟にロープを取り出し、サイクロプスの一本角に向かって投げつけた。クルクルと角に巻き付いたロープを思い切り引き寄せ、オレに掴みかかろうとするサイクロプスの左手をかわす。


 間一髪、オレはサイクロプスの背後に降り立った。


「おいこら! なにすんじゃー!」


 魔物の巨大な股越しに、トゥーファと向かい合う。

 ニヤニヤと下品な笑いを浮かべ、手を挙げるトゥーファ。


「わりい、手が滑った」


 まったく悪びれないその態度。


 いやいや、オレも大人だ。いちいち付き合って腹を立てても仕方ない。目下の敵は当然ながらトゥーファではないのだ。こういう時はどちらかが寛容にならないと……。


 オレは弓を構え、サイクロプスに向けて放つ。


 と、

 みせかけて!


 敵の股をくぐって飛んだ矢は、トゥーファの鼻っ面をかすめた。惜しい。


「てめえ!」


「わりぃ、手が滑った」


 先ほどの言葉をそのまま返しヒラヒラと手を振る。すぐさまトゥーファはビキニの胸の谷間をゴソゴソと探ると、突然にこちらに何かを投げつけた。


 一直線に飛んだそれは再びサイクロプスの股をくぐり、オレの足元に次々と突き刺さる。


 数本の苦無(くない)


 忍者かよ、お前は。


「おい!当たったら死ぬぞ!」


「当たり前だろ。殺す気で投げたんだもーん」


「なんだと!」


 もう我慢ならん。完全に頭に来た。

 ひできかなんだか知らんが許せん。ぶん殴ってやる。


 オレはトゥーファに向かい歩く。

 トゥーファもオレに向かって歩く。


 戦闘中だということも忘れ、サイクロプスの股の下でオレたちは睨み合った。


 オレを見下ろすトゥーファ。

 トゥーファを見上げるオレ。


 頭上でサイクロプスが、放って置かれていじけた子供のような、寂し気な声を上げた。


 数秒間のメンチの切り合い。


 巨大な影が動いた。


 サイクロプスが垂直に飛ぶ。そのまま尻でオレたちを押し潰すつもりだ。


 しかし、睨み合うオレたちは動かない。

 チキンレースだこの野郎。


 迫る巨大な尻。


 オレを見下ろす金色のトゥーファの瞳。


 まだ、動かない。


 動いてたまるか。


 ――先に逃げた方が負けだ。


 たとえ、たとえこのまま死んだとしても、

 オレの勝ちだこんちくしょう。


 頭上に落ちる影が濃くなる。


 次の瞬間に訪れる、即死ダメージの衝撃に身を固める。


 トゥーファも動かない。

 オレと同様逃げる気配が全く無い。


 おいおい、お前も死んでどうすんだよ。仲良く死んで教会で第3ラウンドかよ。


 空気が、押しつぶされるのを感じる。


 いよいよ。


 尻が。 

 尻が。

 尻が。

 尻が。

 尻が。

 尻が。

 尻が。

 尻が。


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