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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第一章 ノースピークの戦い
11/50

11 ギルドハウス②

 取っ替え引っかえニアの着せ替えに興じるギルドメンバーたちの様子を俺は頬杖をついて眺めていた。


 もう眠い。後はこの人たちに任せて寝ようか……。そんな様子に気付いたのか、ミレイがニアをいじくり回す手を止めて俺の隣に唐突に座る。すぐさまレドさんと八丁さんが空いた席の奪い合いをはじめた。


「フジ、可愛い娘連れてきてくれてありがと!」


 ガブほどではないがミレイも少々お酒を飲んでいるらしく頬が上気している。普段は貧血でも起こしそうなほどに白い肌が僅かに色付いている様子は、正直少しドキっとした。


「いやあ、どういたしまして」


 俺はそんなミレイの顔をまともにみることが出来ず、なんとなく視線をそらして言った。それを別の理由と捉えたのか、ミレイはさらにずいっと俺の顔を覗きこむ。顔が近い。


「なんか元気ない?あ、報酬貰えなかったからいじけてるんでしょ」


「そんなことないけど……」


 いやそういうことにしておいてもいい。とにかくミレイよ、ちょっと離れてくれ。自分ではわからないが、俺の顔もきっと赤くなっているに違いない。それをミレイに気付かれるのではないかと気が気じゃなかった。


「よくわかんないけど一番面白そうな報酬ゲットしてきたんだから良いじゃない。元気だせー」


 そう言ってミレイは俺の肩をバンバンと叩く。ぐ、この上スキンシップか……。俺は気をそらそうと適当に頭に浮かんだ話題を口に出した。


「報酬といえばミレイは何貰ったの?」


「あー……わたしは……。一応これ。」


 ミレイが歯切れ悪く懐から取り出したのは見たことのないアイテムだった。小さな口紅のような物体に、精巧な天使の銀細工が施されている。


「何これ。初めてみた。えーと……『エンジェルキッ……」


「待った!それ以上言わないで!さっきみんなに散々いじられたんだから」


 どういうことかよくわからないが、俺は声に出さずミレイが手にしたそのアイテムの詳細をみた。


【エンジェルキッス・フォー・ユー】

 ルージュに宿った愛の力が対象者へのダメージを一度だけ無効化する。


 なんだか恥ずかしい名前のアイテムだ。愛の力か……。


 「エンジェルキッスの時点で恥ずかしいのにフォー・ユーって運営頭おかしいよね」


 テーブルの上でその口紅を転がしながらミレイが言う。名前はともかく、超レアアイテムっぽいのは間違いない。一度だけというのが使いどころが難しそうだが。


「わたしこういうの勿体無くて使えないタイプなんだよねー。使い方よくわかんないし。どのみちこんなの恥ずかし過ぎて使わないけど。欲しかったらフジにあげる」


 自分がエンジェルキッス・フォー・ユーを誰かに使うところを想像してみたが、考える余地は無かった。


「いや、いらない」


「でしょ。わたしだっていらない」


 ミレイはその口紅を指で弾き、クルクルとテーブルの上で回転させた。その軌跡を眺めながらしかし、このアイテムがレドさんあたりの物にならなくて良かった、とも思った。


 まあ、とにかくさ、とミレイが口を開く。


「さっきさ、みんな死んじゃった時。わたしたちがんばったよね」


 急に真面目な顔。そうだ。頑張った。さっきの戦闘。バタバタして感慨に更ける暇もなかったけど、ミレイの一言で急に勝利の実感が沸いた。


「この調子で極点も攻略できちゃったりしてね。いや、わたしたちには無理かあ」


 ミレイはそう言って笑った。冗談まじりの一言だけどなんとなくわかってる。別にミレイだけじゃない。この世界に生きる冒険者なら、誰もが戦いの先の勝利を夢見る。


 努力も時間も足りてないけれど、自分たちなりに楽しんだ日々の先に、こんな勝利の感慨がたまにあれば最高だと思う。欲は言わないけれど、そう思うのは良いことだよな。俺は何となくそんな気持ちを肯定したかったが、上手く伝える言葉が思いつかず、いつもの軽口しか出なかった。


「エンジェルキッスなんとかがあれば勝てる……かも……」


「それはもういいからー」


「お前らー!やらしい話してるんじゃねーぞお!」


 いつの間に起きたのか、ガブが割ってはいった。いまだに呂律も回っておらず足元もおぼつかない。


「酔っぱらいが来たからやらしい話は終わりでーす」


 ミレイは逃げるように席を立ち、再びニアの元へ戻った。俺はほっとしたような、なんだか寂しいような気持ちになった。そんな俺の複雑な男心などおかまいなしにガブが、俺の報酬も見てくれよーと、絡んでくる。


「女神のロザリオ~てってれーん!ほれ!超レアよ!しかも二つ!いやー、誰かさんと違って俺はついてる!きっと女神様に気に入られてるよ俺!」


 ガブが手にしているのは戦闘中に死亡すると無条件で生き返らせてくれる、というレアアイテムだ。かなりの高値で取引されているためさっさとオークションにでも出品すればいいものを、俺に自慢するためにわざわざ取っておいたに違いない。


 はいはい良かった良かった、と適当にあしらう俺にガブはぐっと詰め寄る。


「しかしフジよ、どうせ連れてくるならあんなチンチクリンじゃなくてセクシーなお姉さんでも連れて来てくれれば良かったのになー。フジはそういうところ気が利かないよねっ、と」


 そう言ってガブは俺の肩に体当たりをかましてきた。ぐ、うざいぜ。


「お前飲み過ぎだって」


 めんどくさくなった俺は軽くガブを手で払う。それをかわした弾みでガブの足がもつれ、テーブルの上をコロコロと転がり、大人しく座るニアに抱きつくように倒れかかった。


 NPCへのハラスメント行為はシステムで禁止されている。例に漏れずガブは見えない壁に弾かれ、そのまま勢いあまって床に転げ落ちた。


「ガブちゃんサイテー、引くわあ……」


 倒れ込んだガブを、ミレイが冷ややかな目で見下ろす。


「あ、いやわざとじゃないって……。そもそも当たってないし!ほら、これで遮られたんだよ!ん、てかこれ……何?」


 ガブが指差す空中に、小さな三つの球体状の何かが浮いていた。何もない空間から突如現れたように、それはただ静かに、音もなく存在していた。


 一瞬の沈黙。


 みんなの視線がその金色の球体に注がれた次の瞬間、ガブがもう一度言った。


「で、まじで、これ何?」


 とてつもない轟音と光が辺りを包んだ。


 三つの球体からそれぞれ極太の光の束がガブに向かって放たれ、カンストダメージを現す表示が次々とガブの頭の上を舞った。貫通したレーザーで部屋の床は砕け散って四散し、椅子が飛び、机は割れ、部屋の棚一面に並べられた謎の薬剤が入った小瓶が次々と砕け飛び散った。驚いたミレイとベルさんが悲鳴を上げる。小瓶の中の薬剤から煙が立ち上ぼり、たちまち視界が真っ白になる。


「なにこれ!」


 遮られた視界の中、声だけが響く。


「え!なんで!?また謎の死を遂げたんですけど!!」


 何が起こったのかわからず、家中パニックに包まれる。


 「僕の家がああああ!何てことしてくれるんだい!」


 まとわりつく煙を手で払いながら、俺は何が起こったのか確認しようとメニューを開き、システムログを表示させた。


※※※※※※※※※※※※※※


ニアの「パムルゴニアの光」

ガブに99999のダメージ。

ガブは死んだ。


女神のロザリオが輝きガブは生き返った。

女神のロザリオは砕け散った。



ニアの「パムルゴニアの光」

ガブに99999のダメージ。

ガブは死んだ。


女神のロザリオが輝きガブは生き返った

女神のロザリオは砕け散った。



ニアの「パムルゴニアの光」

ガブに99999のダメージ。

ガブは死んだ。


※※※※※※※※※※※※※※


 どうやら一瞬のうちにガブは三回死に、あれほど嬉しそうに自慢していたロザリオは二つとも砕け散ったらしい。


「俺のロザリオがああああ」 


「僕の家がああああ」


 泣きわめくガブとレドさんは無視だ。壁に開いた大穴から白い煙が流れ出て、視界がだんだんと鮮明になる。手探りで俺の元へ歩み寄ったミレイが、表示したままのシステムログを横から覗き込んだ。


「この攻撃、『パムルゴニアの光』ってめっちゃヤバくない?そんなスキル見たことないし。で、さっきの玉何?」


 三つの玉はいつの間にか現れた時と同じように何の前触れも無く消えたようだった。が、前後の状況から、その正体は予想がつく。システム的には心当たりがあった。


「あれは多分ニアのガーディアンだと思うんだけど……。ほら、町の衛兵とかそういう役割のやつ」


 この世界のNPCにはすべからく『ガーディアン』と呼ばれる守り手が設定されている。村人を襲えば自警団が駆けつけ袋叩きにされるし、商店の店主を攻撃すればすぐに警備兵が駆けつけタコ殴りにされる。城の王様を狙えば大量の兵士たちがどこからともなく現れたちまちにサンドバッグだ。


 要は、NPCを襲えば守り手によって返り討ちに合う、ということだ。


「てことは、ガブちゃんのセクハラにガーディアンが反撃したってこと?」


「多分……」


 ガーディアンの強さや発動条件はNPCそれぞれで設定が違うが、あんな破壊的な攻撃は見たことがない。かなりの最上位クラスのガーディアンであることは部屋の惨状とガブの虐殺ぶりを見れば明らかだ。


「みんなどうなってるのーわたし目の前がまた真っ暗なんだけど~」


「僕の家がああああ!」


「おーい誰か生き返らせてくれー!おーい」


「煙い……」


 まるでこの世の終わりのように騒ぎ立てるギルドメンバーたちとは対照的に、ニアはただ静かに、変わらず虚空を見つめていた。


 そんな状況の中で俺は、さっきの光、なんか夢で見たことあるような気がするなあ、という既視感を感じていた。




フジ「と、いうわけで、これにて第一章は終わりとなりまして、次回から第二章にはいります」


ベル「二章はどんな感じなの?」


レド「えーと、ここに謎の資料が……。なになに……カリアに無数の魔物が押し寄せ……ふむふむ……フジは呪われ、レドは火だるまになり、え、そうなの?ガブは調子をこき、これはいつも通りだね、ミレイは暴漢に襲われ……ほほほう、ベルはち◯毛汁を飲み干し……え?どゆこと?八丁は行方知れズ……となるらしい。他には、最強の冒険者も現れる、と書いてあります」


ベル「へ〜、よくわからないけどなんだか楽しそうだね!」


レド「そ、そう?君、ち◯毛汁飲み干すんだぞ……」


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