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ヒカリエ


久しぶりに渋谷に行った。何年ぶりになるのだろう。四半世紀くらい? …もっと?


昔、学生の頃、電車に乗ってハチ公前で待ち合わせをしたことがあった。それが最初の渋谷体験だった。


今となっては、渋谷は新宿と同じJR山手線の駅だよねという認識だが、当時まだ電車に乗り慣れてなかった自分にとっては、はるか遠くのテレビで見ただけの未知の地であり、トレンディーな若者たちが集まる街で、ミラーボール光るクラブで踊り狂うオシャレな大人たちがいて、DJが乗ってるかーい?とレコード盤をキュキュと鳴らし、ギャルとギャル男とパーリーピーポーが刺激を求めて集う町(無茶苦茶やん)というイメージしかなかった。

なぜ行くことになったのかよく覚えていないが、確か文化祭の準備をしていて、支給品だけでは足りないねという話になり、学校に相談したら予算が出ることになり、どうせなら変わった文具や資材を探しにいこうよという話になり、当時そういう文具的なものを一番扱っていそうだったのが、渋谷の東急ハンズだったから、だと思う。

そんな怖い都会にわざわざ行かなくても、という気がするが、話に効く原宿、渋谷という街に一度は行ってみたいから、という理由で行くことになったのだった。

どんな場所か全く想像がつかなかったので、迷ったらどうしよう、センター街とやらで怖いスカウトさんに声をかけられたらどうしよう(あなたはまったくそんな心配の必要はないと今なら分かるが)と不安だった。


行き方であるが、親に聞くという発想はまったくなく、スマホもない頃だったから、電車の路線図(本屋や文房具屋の手帳コーナーなどで売っていた)を見て調べた。友達に聞こうにも、みな知ってて自分だけ何も知らなかったら、と思うと、聞くに聞けない。聞けばいいのにと大人なら思うだろうが、当時は友達とはあくまでも対等で平等で、片方がもう片方の面倒を一方的に見るなんてだめで、同じでいなければいけない、という面倒なお年頃だったのだ。

まあ結局は親に行き方を聞いて、大変心配されながら行ったわけだけど。



渋谷駅に着くまでは簡単だった。

ただその後、改札を出たあたりからが大変だった。


出口が多すぎるし、路線が多く、それぞれの改札から人が出てきて移動していくのでぶつかりそうになる。人、人、とにかく人の多さに驚く。

しかも、スマホのマップがないので駅の構内図を見て、自分が今いる場所と目的地への行き先を目視で確認するわけだが、いろいろ曲がるうちにわからなくなったりして迷ってしまう。なんとかハチ公像まで辿り着いた当時の自分を褒めてあげたい。



待ち合わせ場所のハチ公前はちょっとした広場だったが、その日は晴れた日曜日ということもあってか、広場がぜんぶ埋まるくらいの結構な人だかりだった。こんなにも多くの待ち合わせの人たちがいて、はたして知り合いは見つかるんだろうかと不安になった。

不安なのはそればかりではない。まわりのお姉さんたちがみなオシャレなのもまた、自分のがんばって流行の服を着ているはずの格好が、なんか違うような、珍妙なような、悪目立ちしているような気がしてしまって落ち着かない。

周りを見ては、ほわあ、きれいなお姉さんだ、とか、髪が皆くるんくるんとキレイにセットされてる、とか、これがうわさのコギャルか、と内心ビビりながら、自分と同じくらいいけてない女子はいないものかと目で探し、誰も見ていないのに、少しでも前髪がかっこよく見えるように手で斜めに引っ張ってみたり、地元のショップで買った安物の斜めがけかばんを、大人女子たちの持つショルダーバッグ風に肩にひっかけて、ずり落ちそうになるのを片手でひしと抑えこむなど、むだな足掻きをしてみたりした。


なんとか待ち合わせできたあとは、スクランブル交差点に驚き、顔黒ギャルやルーズソックスのお姉さんや腰パン男にギョッとしながらようやくセンター街を抜けると、目的地である東急ハンズがあった。


今ではたいていのものはホームセンターで買えるが、当時は知らなかったので、何か珍しい材料がほしいとなったら、ハンズが第一選択だった。さまざまな素材やパーツ、パーティグッズまであるので半日いても飽きないところである。

アホみたいに、これ見て見て、などと騒ぎながら、七色の水に浸すときらきらする紙とか、全部で48色あるラッカーとか、その他もろもろ、学園祭で使えそう、かつ女子が好きそうなカワイイものを探して購入し、領収書を発行してもらったりして、昼過ぎくらいにその日のミッションは無事完了した。

そのあとはどこか、カフェ・ラなんとかというオシャレなカフェで、甘いスフレみたいなものを食べて、ウマーイ、とみな満足して、そのまま荷物を抱えて電車に乗って帰ったはずだった。帰りのことはあんまり覚えていない。



それから無事にみな卒業し、今は年賀状も出すか出さないかである。

今もハンズは名前は変わったけれど、まだ残ってるらしい。

よかったと思う。




さて、最近、渋谷に行ったのだが、いろいろ変わっていた。


まず、駅がさらに立体的になって複雑になっていた。と言ったところで意味不明かもしれない。

改札が2階にあって、電車の乗り換えの動線は少しはましになっているのかもしれないが、まだあちこち工事中とのことで、かえってぎゅうぎゅうに人が混んでいた。


駅の二階からは、商業ビルやほかの各所に向かって空中歩道がつながっていた。広い窓からは渋谷の街が見えて、雨にも濡れないので便利だと思った。


ヒカリエは歩道の先にあるビルの一つで、東急の劇場であるシアターオーブや東急東横線の改札に繋がっている。

その建物ができたのは2012年、スカイツリーができた年と同じで、東日本大震災の翌年だったが、奇抜なデザインが話題を呼んで、ちょっとしたニュースになっていた。せっかくなので少し偵察してみようと、時間もあったので寄ってみた。


第一印象は、確かに渋谷らしい、ギャル系女子に好まれそうなお店が並んでいるが、今どきの大きな駅にはよくあるような、ごく普通のこぎれいな駅ビルだな、というもの。スタバとか、スイーツ屋にイタリアン、アパレルショップ、全国チェーンの雑貨屋さんが入っていたと思う。


その中階、東急の大ホールに隣接して、スカイロビーという名前の場所があるらしい。ただで行けそうだったので、名前に惹かれて行ってみた。


宵の始めくらいの時間だった。


大ホールでは何もやっていないらしく、スカイロビーにはカップルが一組、ギャルの子たちが数人、そんなに広くないが、人はまばらで、眺めは、渋谷の駅前や周りの背の低いビルが見える程度だった。

そうして眺めているうちに、ほかの人たちがいつのまにかいなくなっていた。


高層の展望台じゃないので、スカイ感はあまりないが、宵空の下には、雨の平日だったせいか、あまり人のいない地上の横断歩道があり、古い三階立てくらいのビルがあり、ふと、ここは誰もいない、誰も隣の人に無関心な、通り過ぎるだけの場所で、今見えているビルさえも、所有者が手放してしまえばたぶん大手デベロッパーに買い取られて、ここと似たような、個人の顔の見えないオシャレな店の並ぶ商業ビルになるんだな、などということを意識してしまった。


別に、悪いことでもないんだけど。








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