連勝
——リィン。
規則的な鈴の音が、繰り返し響き渡る。
「やばい……やばいぞタカヤ!」
「……大丈夫だ。音と光を頼りに探せばいい。よく見ろ。あの辺りが少し明るいだろ」
タカヤが指差した先をよく見れば、確かに青い光がほんのわずかに煌めいている。
それを見つけた二人はほくそ笑んだ。
「よし、ぶった斬ってくる」
「あぁ。急げよ」
「おう」
タカヤはカツミが霧の中へ向かうのを見送った。
「しかし、なんでこの霧はこんなに量が多いんだ……?詠唱を連発しても流石にこうはならねぇだろ」
音と光という勝ち筋を見出したことで余裕が出たのか、タカヤは霧の観察を始めた。
一方、カツミは深い霧の中、光に向かって一直線に向かっていた。
カツミは振り分け試験で一度だけ、カナタのスキルを見ている。
あの攻撃が自分たちに向けられるかと思うと、嫌な汗が止まらない。
「……へっ。溜まる前に倒せばそれで終わりだ」
不安を拭うように、剣の柄を握りしめる。
そして、光の元へ辿り着いた。
「ここだ!『ダブルアタック』」
カツミのスキルが発動する。
振り下ろす剣がぶれ、二重に攻撃を加える妙技。
シンプルだが威力は単純に二倍。
これで終わる——そのはずだった。
「——残念。そっちはハズレだよ」
カツミが剣を振り下ろした先。
そこにはただの青い光球が浮かんでいた。
「——いけるか、水色」
「おっけー!」
カナタが掲げた剣はすでに青白い燐光を纏い、眩く輝いている。
風が吹き抜ける。
タクトの放った風魔法が霧を割り、道を作った。
驚愕に目を見開くカツミ。
霧の外側にいたタカヤ。
そして——剣を掲げたカナタ。
三人を真っ直ぐに繋ぐ一本の道を。
タクトが射線から外れるように身を引き——カナタがその力を一気に解き放った。
「『星斬り』!!」
——瞬間、莫大な光の奔流は大気を切り裂き、二人へと襲いかかった。
「——綺麗だ」
タクトはその光景を目に焼き付けながら、ぽつりと呟いた。
◇
——模擬戦闘、終了。
勝者、灰嶋タクト・水色カナタ
宙に浮かぶ魔法掲示板の文字は、二人が勝ったことをしっかりと示していた。
「か、勝ったー!!!」
「うん」
「これって、退学は流れたってことだよね?!」
「そうだね」
「きたー!やったー!!ほら、灰嶋くん!」
タクトが顔を上げると、カナタは弾けんばかりの笑顔と両の掌をタクトへ向けていた。
タクトもつられて両手を差し出す。
——パチン。
「ハイタッーチ!」
「うん」
カナタは普段通りのノリとテンションだ。
対して、慣れていないタクトの頬には少し赤みが差した。
「ん〜?灰嶋くん、照れてんの?」
ニマニマと笑みを浮かべながらカナタが顔を覗き込む。
タクトは誤魔化すように頭を振ると話題を変えた。
「最後のは、運が良かったよ」
「でも、ほとんど灰嶋くんが言ってた通りになっててマジびびったし」
「たまたまだよ。でも、良いデータになった」
葛木兄弟は彼らなりに考えて動いてくれた。
やはり実践は違う。
練習や想像とは違って反応が生きている。
だからだろうか、顔を赤くした葛木兄弟がズンズンとタクトに近づいてきた時、口が自然と動いていた。
「——再戦、しよう」
タクトの第一声にカナタは目を見開き、葛木兄弟の顔はさらに赤みを増すのだった。
「上等だ!今すぐボコボコにしてやるよ!」
「たまたま勝ったからって、いい気になってんじゃねぇぞ!」
「ちょ、灰嶋くん!?」
「よかった。まだ試したいことがあったんだ」
そう言い残すと、タクトは審判の教師に今から再戦する旨を伝えた。
ワクワクを抑えきれない。
そんな面持ちで。
◇
その後に行われた再戦では、霧が充満する前に葛木兄弟がタクトに目掛けて突っ込んだ。
タクトは土魔法で地面を盛り上げ、水魔法で足元を滑らせながら、必死に逃げ回って時間を稼ぐ。
そして二人の追撃が緩んだところで距離を離し、再び霧を展開した。
霧に二人が巻き込まれた後は雷魔法に切り替え、微弱な電撃を繰り返し浴びせかけて動きを鈍らせる。
そして——最後はカナタの星斬りが炸裂した。
◇
「灰嶋タクトくん」
連勝をおさめ、闘技場からの帰路に着く二人を呼び止めたのは、生徒会副会長だった。
長い黒髪を後ろで一つにまとめた細身の男性だ。
両目はほとんど閉じたままだが、穏やかな笑みを浮かべている。
「はじめまして。ボクは生徒会の銀前リオン。あっちで立ってるのは会長の金凱ガエン」
ガエンは舌打ちしただけでこちらに目線も向けない。
獅子のような髪が印象的な大男で、その両の金眼が鋭く光っている。
「ごめんね。無愛想なやつなんだ」
「はぁ。それで、何の用ですか?」
カナタは隣で固まっていたので、とりあえずタクトが対応する。
「タクトくんは面白い魔法の使い方をするね。それにあの霧魔法……ただの初級魔法ではなさそうだ」
「あぁ、あれは魔法式を閉じなかっただけですよ」
「ちょ、灰嶋くん!言っちゃっていいの?!」
固まっていたカナタが驚いて口を挟んだが、タクトの反応は淡々としたものだった。
「うん。他の人が使ってもあんまり意味ないし」
「魔法式を……?なるほど。キミの特殊体質については噂に聞いてるけど、そう工夫するとはね。本当に面白い」
リオンは微笑みを絶やさないままタクトの顎に手を添えると、くいっと持ち上げた。
「こんなに鮮やかな紫色、見たことがない。興味が尽きないな」
「はぁ」
カナタが隣で「はわわわ……!なにこのシチュ、どう解釈したらいいの……!」と慌てふためいているのを尻目に、リオンは一歩引くとタクトを見つめた。
「連勝したんだし、入れ替え戦をするのかな?」
「そのつもりです」
「ボクもタクトくんと遊びたくなってきたよ。早く上まで上がってきてね。ほら、同じクラスじゃないと戦えないから」
「善処します」
クスクスと笑うと、リオンはガエンを連れて去っていった。
タクトは二人を真顔で見送った。
「なんだったんだ?」
「いや、ほんと、なんだったの……?」
カナタは何故か顔を赤くして頬に手を当てていた。




