タクトの仕事
タクトの仕事
「大丈夫、完全にノープランなわけじゃない」
その言葉を聞いて、カナタは胸を撫で下ろす。
「ただ、実験に付き合って欲しいんだ」
タクトは紫色の瞳を輝かせて言った。
◇
「いやああああ!!」
「大丈夫だよ。実際にダメージがあるわけじゃない。当たってくれなきゃ検証できないし」
「それでも熱いし痛い気がするの!!」
タクトは持続魔法式を使って火球を放っていた。
——カナタを狙って。
闘技場や訓練室でのダメージは現実にフィードバックされることはない。
今回はさらにダメージ設定をいじって痛みを感じないように調整してある。
今は亡き大賢者『時空の賢者』が作成した、貴重な実践訓練施設だ。
とはいえ、精神的には火球をわざと浴びるというのは厳しく、カナタは逃げ回っている。
「そうか……それなら、水魔法でどう?」
「えー、まぁそれなら……」
「よし、いくよ」
次は水球を次々と生み出し、カナタへぶつけていく。
「いた、いたっ!いたい!」
しばらく水球を浴びた後、カナタは光の粒子となって消えた。
タクトは顎に手を当てる。
「やっぱり初級魔法じゃ倒すのに時間がかかるな」
考えていると、カナタが再び訓練室内へ戻ってきた。
「ハァ……なんかもう疲れた。それで、実験は上手くいったん?」
「全然」
「——あたしの苦しみはなんだったわけ?!」
長い金髪をかきむしるカナタ。
しかし、タクトは気にせず続ける。
「この一週間で、F組では三回の模擬戦があった。水色は見に行った?」
「まぁ一応見たけど……」
「展開は様々だったけど、三回とも、勝負を決めたのは勇者候補の攻撃だったよね」
「あー、言われてみればそうだったかも」
「さっきの実験でもそうだったけど、初級魔法の威力だと相手を倒すのに時間がかかるんだ。その点、勇者候補の剣の方が瞬間火力が高くて決定力がある。水色のスキルなんてその典型だ」
「つまり、あたしが敵を倒した方が早いってこと?」
「その通り。だから僕がやるべきなのはそのための舞台を整えることだと思う」
そう言ってタクトはしゃがみ込み、訓練室の地面に指で書き出した。
「火球や水球みたいな直接攻撃は、実際の対戦では上手くいかないと思う。勇者候補がいるから」
「まぁ、あたしでも避けられるくらいの速さだったしね」
「……いや、それは水色がすごいんだと思うよ。F組の模擬戦で魔法を避けてる人、いなかったし」
カナタは頬をかく。
「いやぁ、お姉ちゃんに比べれば全然だし」
「お姉ちゃん?」
「あー、うん。なんでもない」
気まずそうに笑うカナタを見て、タクトは追求するのをやめて話題を変えた。
「要は、僕が持続魔法式で使うべき魔法が他にあるんじゃないかってこと」
「それこそあたしには専門外なんだけど……そもそも、灰嶋くんってどんな魔法が使えるわけ?」
「初級魔法なら、固有魔法を除けば全部使えるよ」
「……全部?確か普通は適性のある魔法がいくつかあって、それを伸ばすみたいな話、授業で聞いた気がするんだけど」
「うん。でも僕は全部使える」
「マジ?それズルすぎじゃん」
「ズルくないよ。結局は初級魔法しか使えないんだから。大したことはできないし」
「そういえば、初級オタクとか呼ばれてたっけ。ってか、なんで初級魔法しか使えないの?魔力はいっぱいあるって言ってなかった?」
「魔力保有量はたくさんあるね。でも、出力が弱いんだ」
「……?」
カナタが首を傾げると、彼女の長い金髪がさらりと流れた。
「そうだな……例えば風船を膨らませて、穴を開けたらどうなる?」
「そりゃ、割れるんじゃない?パーンって」
「じゃあ、もっと小さな……目に見えないくらいの小さな穴を開けたらどうなる?」
カナタは顎に指を当てて少し考えた。
「んー、ゆっくりしぼんでいくんじゃない?」
「そう。中の空気は少しずつしか出ていかない。僕の魔力も一緒。少しずつしか取り出せないんだよ」
カナタが何度も頷く。
どうやら腑に落ちたらしい。
「だから、勝負を決めるのは水色。この構図はたぶん変えられない」
「責任重大だね」
カナタは制服の裾をキュッと握りしめた。
「大丈夫。星斬りを耐えられる敵なんて……僕には想像できないし」
カナタは自分のスキルにまだ自信が持てないのか、視線を泳がせている。
「あー、まぁ撃てればね」
「だからそれを撃たせるのが、僕の仕事」
タクトはスッと立ち上がると、癖になってしまった猫背を少し伸ばした。
「思いついた。これならいけるかも」
地面を見れば、無数の書き込みの中心に一つの魔法式が記されていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
タクトとカナタの二人が、少しずつ前に進み始めました。
この先、二人がどう成長していくのか。
そして、タクトの「初級魔法しか使えない」という弱点が、どう変わっていくのか。
ご注目いただければ幸いです。
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