新しい武器
闇の中、鮮やかな紫の瞳が浮かぶ。
日が沈み誰もいなくなった訓練室で、タクトは検証を繰り返していた。
「こう、こうか。違うな……これなら——どうだ?」
タクトの前に小さな火球が次々と発現する。
その火球の輝きが、にやりと上がった口角を照らしていた。
何度目かの検証を経て、満足のいく結果を得たタクトは再び考える。
一つ武器が増えたのなら、次はその武器を戦術に落とし込まなくては意味がない。
「どの魔法と組み合わせるかな……」
実験は続く。
◇
——タクトがカナタのスキルを目の当たりにしてから一週間後。
二人は訓練室で落ち合っていた。
タクトの目には、くっきりと隈が浮かんでいる。
「灰嶋くん、大丈夫?なんかすっごい疲れてる感じだけど……」
「え?全然疲れてないけど」
「いやそれ、たぶん自覚してないだけなんじゃ……」
「それより、これを見てほしいんだ」
そう言うと、タクトは詠唱をはじめる。
小さな火球が掌から生まれ、少し離れたところへ落下して地面を焦がした。
「……え、うん。これが何?」
「もう少し見てて」
カナタから見れば、ただ初級魔法が発現しただけに見えるだろうが——本題はここからだ。
タクトの掌からは、ポンポンと小気味よく火球が生み出されていく。
——止まることなく、次々と。
「ん?あれ、なにこれ……いつまで続くの?」
「これが一週間の成果」
「まだ出てるし……どゆこと?」
ポカンと口を開けるカナタに、タクトは小さく頷く。
確かに一目でわかるようなものではない。
「通常、魔法を行使するにはいくつかのプロセスがいるのは知ってるよね」
「知らない」
即答するカナタに、次はタクトが口を開ける番だった。
「……授業でも習ったと思うんだけど」
「魔法のことはあんまわかんないんだよね。自分が使えないからピンと来ないっていうか」
「……まぁいいか。とにかく、まず魔力を練り上げる。魔法式を組み上げて魔力を流し込む。そしてこの作業をサポートしてくれるのが詠唱なんだ」
「へー、そうなんだ」
カナタは明らかに理解できていなさそうだったが、タクトはそのまま説明を続けた。
「そうすると魔法が発現する。ここまではわかるよね」
「ギリね。ギリ」
訝しげな視線をカナタに向けながら、核心に触れる。
「そうしたら、魔法は終了しなければいけない。それが常識」
「そうなん?」
「魔法式を組んで、発現させたら終了する。魔力を垂れ流しにしないための措置だよ。僕もそう習ったし、ずっとそうしてた」
タクトは少し目を閉じる。まぶたの裏に浮かぶのは、カナタの一撃。
あの神聖力の奔流が永遠に続けばどうなるか。
そんな子供じみた発想がきっかけだった。
「——でも、必ずそうしなきゃいけないわけじゃなかった。魔法式は終了させなくても良いんだ」
今度こそ本当にわからなくなった様子のカナタに、再度実演して見せる。
「つまりね、魔法式は一回だけの使い切り。これが普通。でも僕が今使ってるのは、あえて終了させない魔法式。名付けて【持続魔法式】」
カナタは二つの魔法式を見比べても、まだピンと来ていない様子だ。
「ほら、プロセスを省いた分、二回目以降は少し早く撃てるでしょ」
普通の魔法式を用いて、詠唱を繰り返す方法。
そして、持続魔法式。
それぞれで魔法を発現させて示す。
「ん〜……確かにじぞくしき?の方がちょっと早いかも。じゃあ、なんでみんなそうしないの?」
「いくつか理由があると思う。一つ目は、もったいないからだよ」
「もったいない?」
「そう。やってみてわかったけど、持続魔法式は時間あたりの魔力消費量が半端じゃない。それに魔法式の維持にも魔力と集中力が必要だから、意外と難しい」
通常の魔法式を、瓶から必要な分の水を桶を使ってすくうようなものだとする。
持続魔法式は、その瓶に穴を開け、溢れた水をすくうような状態だ。
当然、必要な分だけを取ることは出来ず、無駄が多くなる。
「え、じゃあダメじゃん」
「普通はね。でも僕は魔力を無駄にしてもそんなに問題ないんだ。余るほどあるから」
15歳になる年の『天啓の日』に行われた魔力測定。
数十年前の測定開始以来、最大の魔力保有量を記録したのが、タクトだった。
「よくわかんないけど、とにかくいっぱい魔法が撃てるってこと?」
「まぁ、そんなとこ」
「それなら最強じゃん?」
「いや、そんなことない。持続魔法式は同じ魔法を延々と撃てるだけで、途中で別の魔法に切り替えるなら魔法式を閉じなきゃならない。それに、こうやってちまちま初級魔法を繰り返すよりも中級魔法を一回撃った方が手っ取り早いし効率も良い。だから持続魔法式が必要なのは、たぶん僕くらいなんだ」
「そうなの?それじゃあんまり強くないんじゃ……」
「うん。持続魔法式自体は強くないと思う。でも、初級魔法しか撃てない僕がアドバンテージを取るには必要。大事なのは使い方だよ」
「使い方って?」
「それは——これから考えるんだけど」
カナタの肩がガクッと落ちた。




