気づき
「ふぅ!ひっさびさに全力出したー!スッキリスッキリ!」
カナタが軽やかな足取りでタクトの元へ歩み寄る。
しかし、タクトは俯いていて気付く様子がなかった。
「どうだった?あたし、この振り下ろしだけは結構自信あるんだー!……って、灰嶋くん、どしたー?」
訝しんだカナタがタクトの顔を覗き込む。
——すると。
「うぇっ!?」
カナタは恐ろしいものを見たかのように後ずさった。
「……そうだ。それなら……ならどうする?僕にできるのは……どの魔法なら効果的だ?……」
タクトはまばたきすることすら忘れ、ブツブツとひとり呟いていた。
「あの、灰嶋くん?」
意を決した様子のカナタが、タクトの肩をポンと叩く。
——ガバッ!
「うひゃあ!」
勢いよく振り向いたタクトに、カナタがまた後ずさる。
「すごいよあのスキル。なんだよあのデタラメな威力」
真顔でにじり寄るタクトに、カナタは両手を胸の前で組んでさらに後ずさった。
それでもタクトは距離を詰める。
「もっと知りたいんだ。連発はできるの?溜めたままどのくらいキープできる?あの音と光は消せる?構えを解いたら0からやり直し?ある程度溜めた状態をセーブしたりできる?」
「いやいや、いきなり言われてもわっかんないし、なんか怖い!」
カナタは素早い足運びで大きく距離を取った。
「あ、ごめん。つい興奮して」
物理的に離れたことで、タクトにも少し冷静さが戻る。
「でも本当に、すごい一撃だった。感動した」
「そ、そんなに?……もう、調子狂うし」
カナタは髪の毛をいじりながらそっぽを向いた。
しかし、タクトは気にする様子もなく、再び思考の海に飛び込んでいく。
——全ては、水色カナタを輝かせるために。
「水色」
「……なに?」
チラリと横目で見るカナタに、タクトは言った。
「一週間欲しい」
「え、なに?一週間?」
カナタの顔には困惑がありありと浮かんでいる。
だが、タクトはそれに気付かない。
「一週間後、またここで」
そう言い残し、タクトは踵を返して去っていった。
一度も振り返ることなく。
「な、なんなの……」
カナタの疑問は、きっちり一週間解消されることはなかった。
◇
タクトは男子寮の自室に籠り、机に置いたノートにペンをひたすら走らせていた。
カリカリという音が、途切れることなく部屋に響く。
「初級魔法同士、攻撃を目的としてぶつかり合えば基本的には相殺される。属性によって相性はあれど、威力に大きな差がないんだから当たり前だ。でも、相殺されてちゃダメだ」
思考を整えるため、魔法式をノートに起こす。
魔法しかなかったタクトにとって、何千何万と繰り返したその動作は、もう身体に染み付いている。
「じゃあどうすれば良い?中級魔法を撃つのは無理。僕じゃ必要な出力量を満たせない。初級魔法の範疇で相手を凌駕するには?物量で押す……違う。まだ自分を主役に置いた思考になってる」
タクトはコンコンと頭を叩き、水色の一撃を思い出す。
脳に深く刻まれたあの爆発的な輝き。
……確かにピーキーなスキルだ。
使い勝手が良いとはお世辞にも言えない。
しかし、その破壊力は弱点を補って余りある。
「あのスキルを撃ち続けられたら、確実に無双できるんだけどな」
——その時、タクトにあるアイデアが降ってきた。
「撃ち続ける……待てよ。そもそも、魔法ってなんで撃ち続けられないんだ?毎回詠唱してるから?それが常識——そうだ、そうだよ。常識に囚われる必要なんてない。使い方を工夫しろ。自分を上手く使って水色を活かせ」
思考がカチッとはまり込む感覚。
ノート上を走るペンが一段と速くなり、タクトの仮説を現実のものとして組み立てていく。
「そうだよ。ここが無駄なんだ。いや、普通は必要だけど僕には要らない」
——バンッ!
ノートを勢いよく閉じると、タクトは呟いた。
「検証が必要だ」
制服のローブをばさりと身に纏うと、訓練室を目指して歩き出す。
「灰嶋ぁ〜ブツブツ言いながらひたすら書き続けるの怖いからやめてくれよぉ……」
タクトのルームメイト・佐藤ルイトの悲痛な声は、本人に届くことはなかった。




