転機
二人は訓練室に場所を移した。
重い雰囲気を拭おうと、カナタが切り出す。
「それで、あたしのスキルが見たいんだっけ?」
「うん。ちゃんと撃ったところ、まだ見たことないから」
「え、マジ?」
「うん」
カナタは気まずそうに笑った。
カナタのスキルは溜めないと使えない。
その代わり、溜めたら凄い。
これがタクトの持っている情報だった。
振り分け試験ではそのスキルを披露したらしいが、勇者候補と賢者候補で分かれて試験を受けたため、実際に見たことはない。
「そかそか、りょーかい!それじゃいくね」
「うん。よろしく」
そう言うと、カナタは剣を上段に構えた。
その所作は流れるようで美しく、ぴたりと止まった後は一切姿勢が崩れない。
積んできた修練を感じさせる動きだ。
構えをとると、鈴のような音を響かせながら、青白い燐光が少しずつ切先に集まりだす。
勇者候補が使うスキルには神聖力が使われるが、この光がその神聖力なのかもしれない。
タクトは興味深げに観察を始めた。
「……それで、何秒くらい溜めるの?」
「えーと、フルチャージまで30秒くらい?」
「途中で撃つとどうなる?」
「それは——こうなる、よ!」
カナタが剣を振り下ろす。
集まった燐光が散り——特に何も発揮されなかった。
「……何も起きなかった」
「うん。フルチャージしないと撃てないんだよね」
「……魔法が失敗した時と似てるかも」
「そうなの?」
「うん。見てて」
タクトは中級魔法の詠唱を淀みなく紡ぎ、魔法式を組み上げた。
——ボフッ。
しかし、魔法式に注入された魔力が不足していたため、魔法は発現しなかった。
「魔法式を正確に組み上げても、魔力が足りなければ発動しない」
「あー、確かに似てるかも?てか、灰嶋くん中級魔法覚えてんだね」
「詠唱だけなら超級まで覚えてるよ」
「マジ?!それ凄くない?」
「凄くないよ。覚えてるだけで結局使えないからね」
「あー……なんかゴメン」
「いや大丈夫。そんなことより、今度はフルチャージして見せてほしい」
カナタは了承すると、再び剣を構えた。
「その構えじゃなきゃダメなの?」
「そ!このまま30秒くらい我慢するの。少しは向き変えたりできるけどね」
「……こんなに厳しい条件、聞いたことないな」
「そう?まー確かに普通のスキルはパッとやったらビュッて出るもんね」
タクトは顎に手を当てる。
勇者候補は神聖力を消費してスキルを使う。
スキルは即時発動。
ただしクールタイムがある。
魔法は魔力を消費する。
連続使用も可能だが、詠唱は毎回必要。
それが常識だ。
——だが、カナタのスキルはどちらにも当てはまらない。
「なんでだろう?」
「え、何か言った?」
「いや、独り言」
タクトが考え込んでいる間に、カナタのチャージはかなり溜まったらしい。
集まった燐光が剣全体に広がり、脈を打つように光の波紋が広がっている。
美しい。
しかし、その内側に秘められた力は、その見た目からは想像もできないものだった。
「……なんだ、これ」
今までに見たスキルたちとは明らかに違う。
カナタを中心にして吹き荒れる、神聖力という名の暴威。
それは、直接剣を向けられていないタクトにさえ恐怖を感じさせた。
「それじゃ……いくよ!」
カナタは剣を振り下ろし、その荒れ狂うほどの神聖力を、一気に解き放った——
「【星斬り】!!」
——瞬間、世界が青白い光に染まった。
「っ!」
あまりの眩しさに、タクトは手で庇うようにして一瞬目を逸らす。
少しして、光が収まる。
その後の光景に、タクトは思わず自分の目を疑った。
——地面が、左右へ真っ二つに割れている。
光が奔った後はブスブスと音を立て、ガラス状になって抉れていた。
それが、訓練室の端まで続く。
「あ、あはは」
自然と、乾いた笑いがこぼれた。
自分には決して届かない、一瞬の煌めき。
そのあまりの爆発力に、タクトは身を震わせた。
「すごい、すごいよ水色」
葛木兄弟はカナタを一発屋と蔑んだ。
だが、このスキルを見た今ならこう言える。
「こんな一撃、どうしたって見せつけたい」
また、掌に爪が食い込む。
今度は悔しさのせいではなかった。
「そうだ。そうだよ」
タクトに訪れた転機。
それは、発想の転換。
「僕は主人公じゃなくていい。脇役でいいんだ」
賢者として、自分自身が輝かしく活躍する未来はここに置いていこう。
そんなことよりも、今は——
「——僕が、水色を輝かせたい」




