D組への入れ替え戦
「それじゃ、打ち合わせ通りにやってみよう」
「おっけー!」
入れ替え戦当日。
タクトとカナタは準備万端でこの日を迎えた。
対戦相手はD組最下位の原田ヨウカと野原ケンシのペアだ。
「ハラハラコンビ」などと呼ばれることもあるそうだが、一度はトモエたちを下した相手だ。
油断はできない。
「——試合開始!」
審判の声が響くや否や、ヨウカは詠唱を始めた。
「あれは……水の中級魔法かな」
タクトはその詠唱を聞いて、相手が使おうとしている魔法を見抜いた。
すぐさま自分も詠唱を始める。
——雷の初級魔法を。
ヨウカが魔法を放つよりも先に、細い雷矢が彼女に向けて放たれる。
「なんだ? 初級魔法か?」
ケンシはヨウカを庇うように、彼女の前に立ちはだかった。
「——今だ」
タクトが呟く。
それと同時に、雷矢が二つに分かれた。
一つはそのままケンシに。
そしてもう一つは——ヨウカへと飛んだ。
「なっ!? ヨウカ、そっちにいったぞ!」
ケンシは自分に向かってきた一本を弾き飛ばすと、叫びながらもう一本の雷矢を追った。
だが——
「くそっ……! 間に合わない!」
ケンシが庇うより先に、雷矢がヨウカへ突き刺さった。
「きゃあっ!」
バチッと弾けた音を残し、雷矢は消えた。
「ヨウカ! 大丈夫か?!」
「う、うん。平気。でも詠唱が……」
ヨウカの視線の先では、渦巻いていた水の塊がばしゃりと崩れ、地面を濡らしていた。
「……やり直せばいいさ。まだまだ魔力はあるだろ?」
「うん。大丈夫!」
ヨウカは体勢を立て直すと、再び詠唱を始め——
「あれ、もう霧が……」
二人の困惑を深めるかのように、白い霧が戦場を覆い始めていた。
◇
「やった!」
二手に分かれた雷矢を見て、コハルはグッと拳を握った。
「灰嶋さん、やりましたね……! それにしても、実戦でいきなりあの魔法を使いこなすなんて……とんでもない技術と精神力!」
コハルのメガネがきらりと光る。
その視線の先では、タクトが次の一手として霧を展開していた。
「完全に主導権を握ってる。あの分岐する雷魔法……もしかしたら、魔法戦の常識を塗り替えてしまうかも……!」
コハルは食い入るように戦況を見つめた。
◇
戦場に満ちた霧の前で、ケンシとヨウカは次の手を決めきれずにいた。
「——くそっ! なら俺が霧を突破して……」
「ダメよ! あの霧って確か、爆発するんでしょ!?」
「じゃあどうすれば……」
——リィン。
鈴の音が戦場に響きわたる。
二人は以前にもタクトたちの戦いを見ており、それが【星斬り】のチャージに伴う音だと知っていた。
「……私の魔法で霧を突破する。相手がどこにいるかはわかる?」
「わかった。サーチしてみる」
短い作戦会議を終えると、ヨウカは詠唱を始めた。
一方で、ケンシは自分の剣を地面に突き立てて目を瞑り、スキルを発動した。
霧の中にいる二人の気配を探る。
「……あっちだ! あそこに二人いる!」
ケンシが指差した方向に向けて、ヨウカが練り上げた魔法を放つ。
幅2メートルはあろうかという水の拳が、唸りを上げて霧の中へ突入した。
その勢いのまま霧を巻き込みながら突き進み——
霧の中に隠されていた土壁に激突した。
大量の水と土が混じり合い、辺りに泥が広がった。
「なんだ?!」
「霧の中に壁があったみたい。でも、これで相手が見えた!」
水の拳が霧を巻き込んだことでトンネルのように視界が開け、ヨウカの目にタクトたちの姿がはっきりと映った。
「次で決めるわ!」
再び、中級魔法の詠唱を始める。
まだ鈴の音は規則的に響いている。
詠唱はもう後半。
これなら、【星斬り】が完成する前に間に合う。
ヨウカがそう確信した時……雷矢が奔った。
「きゃっ!!」
「ヨウカっ!」
「……っ、また!!」
ヨウカはキッとタクトを睨みつけた。
「今なら向こうが見える。俺が行く!」
ケンシはタクト目掛けて勢いよく駆け出す。
ところが、その足はすぐに止まった。
「くそっ! 泥が……うっとうしい!」
ぬかるんだ足下では、まともに走ることすら難しい。
そしてタクトは……泥に苦戦するケンシに容赦なく雷矢を撃った。
「がっ!? くそ、てめぇ!!」
ヨウカが魔法を撃とうとすれば、雷矢で潰される。
ケンシが近づこうとすれば、泥に足を取られる。
二人の苛立ちは相当なものだろう。
しかし——
「ごめん。でも勝負だから」
タクトは終始揺らがなかった。
そして、鈴の音が止まる。
ケンシの目には、青白く輝く剣を掲げたカナタの姿が映っていた。
「ッくそおおお!」
——カナタの星斬りが炸裂し、ケンシは放たれた光の奔流に飲まれて退場した。
その様を見たヨウカは、引きつった笑みを浮かべ——
「……私だけじゃ勝てないわ。降参よ」
両手を挙げると、自分たちの負けを認めた。
——この瞬間、タクトとカナタのD組昇格が決まった。




