灰嶋タクトの異常性
「びっくりしました……まさか本当にただの魔法実験とは……」
「そんなに変かな」
「そんなに変です!」
コハルは腰に手を当てて頬を膨らませた。
タクトは気に留めることなく訓練室に入ると、劣化魔法式を使って霧を出現させた。
「……待ってください!」
「え、なに?」
「なにじゃないです!何ですかその魔法式!失敗してるじゃないですか!」
「あぁ、この魔法はこれで良いんだよ」
「……え?」
今度は目を点にするコハル。
コロコロと表情が変わるところは、まるで子犬を思わせる。
「僕は初級魔法しか使えないんだけど」
「今まさに中級魔法を使ってるじゃないですか」
「ん、語弊があった。初級魔法相当の出力しか出せないって言った方が正確かな。この霧魔法も、中級魔法ほどの範囲は覆えないし、細かな操作もできないんだ」
「……つまり、あえて性能を削って、省出力を果たしたってことですか?」
「そう。その通り」
「……そんなアプローチ、聞いたことないです」
「まぁ、普通に中級魔法使った方が便利だからね」
霧が十分満ちたところで、タクトは雷魔法へ切り替えた。
「……その雷魔法も同じ理論で使ってるんですか?」
「そうそう。それじゃいくよ。常盤さんはそのまま外に居て」
タクトは散歩でもするかのように霧に近づくと、全力の電撃を放った。
青白く明滅した霧から、耳をつんざく高音が漏れる。
「一体、何を……」
コハルが疑問を投げかけようとした時。
ズガンッ!!
霧壁が内部から膨れ上がり——爆発した。
「きゃあああ!!」
訓練室の外で見ているコハルですら、恐怖を感じる程の衝撃。
同時に、爆発に巻き込まれたタクトがダメージ許容量を超えたことで訓練室から吐き出された。
「うぐっ。なるほど。爆発することは再現できた。次は必要な電撃の強さと距離を割り出さないと」
タクトはスッと立ち上がると、再び訓練室へと入っていく。
「ちょ、灰嶋さん!待ってください!」
「え、なに?」
「爆発に巻き込まれたばかりじゃないですか!大丈夫なんですか?!」
「? そりゃ、訓練室だから平気だよ。痛覚カットしてるしね。ただ、今みたいに即落ちできれば良いけど、中途半端な状態だったら常盤さんに助けてもらうかも知れない。その時はよろしくね」
「……本当に回収役が必要だったんですね」
その後も何度か爆発し、コハルが活躍する場面も二回ほどあった。
時間と共にコハルの瞳から光が消え、虚ろになっていったのだが、タクトはそれに気づくことはなかった。
「よし、爆発実験はこれくらいで良いかな。常盤さん、本当にありがとう」
「ど、どういたしまして……よかった。終わった……」
「それじゃ次は風魔法の実験をしようかな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「常盤さん?あとの実験はそんなに危険はないから大丈夫だよ」
「あ、そうなんですね。よかった……じゃなくて!」
「え?」
「灰嶋さんあなた、さっきから魔法を使い続けてるじゃないですか!休憩しないと魔力欠乏症になっちゃいますよ!」
「初級魔法程度しか使ってないから大丈夫だよ」
「それでも!あれだけ連発してたら普通は魔力が切れます!」
「いやでも、訓練室の中のことだし」
「確かに訓練室内のダメージは出たら治りますが、魔力は回復しません!」
「え?そうなの?……知らなかった」
タクトは目を見開く。
訓練室内でのダメージは現実にフィードバックされないのだから、魔力も含めて全て元通りになると思い込んでいた。
「え?!例え知識として知らなくても、感覚でわかりませんか……?魔力がなくなっていく感覚があると思うんですが……」
「うーん……魔力が減るとかなくなるとか、僕は感じたことなくて。ごめんね」
そう言い残し、タクトは再び訓練室へ戻った。
「魔力が減ったことすら感じない……?」
コハルの疑問は、タクトの放った風魔法にかき消された。
◇
「結局、あの後もずっと魔法を使い続けてましたね……」
「うん。良い実験になったよ。常盤さん、長時間付き合ってくれてありがとう」
「いえ、個人的興味で残っていただけですので……むしろ、色々見せていただきありがとうございました」
コハルがぺこりと頭を下げる。
「それにしても、灰嶋さんの発想には驚かされます。魔法は組み合わせでさらに可能性が広がるんですね!」
「そんな大げさな……ただ、やれることをやるしかないだけだよ」
タクトは頬をかく。
初級魔法しか使えない彼にとっては、この学園で生き残るためには当然やらなくてはならないこと。
しかし、コハルの目には全てが新鮮だった。
「また、魔法の実験にお邪魔しても良いですか?」
「良いけど、不定期にやってるから次がいつかはわからないよ」
「大丈夫です!私、このたび訓練室管理委員会に所属することになりまして……基本的にいつもここにいますので!」
「そういうことなら、また機会があればよろしくね」
「はい!いつでもお待ちしています!」
コハルは最後にもう一度、ぺこっと頭を下げた。




