実験の協力者
エピソードが抜けていました。すみませんでした(11月4日追加)
「なんとか残留したわけだけど」
「いや〜、ほんと危なかったよね!灰嶋くんの自爆がなかったら負けてた!」
カナタがジュースを片手にけらけらと笑う。
死闘を制した二人は、ラウンジでささやかな祝勝会をあげていた。
「うん。もう危ない橋を渡るのはこりごりだ。だから、模擬戦を挑む前に劣化魔法式のバリエーションを増やしておきたい」
「ふむふむ」
カナタはストローを咥えたまま何度か頷いた。
コウとシュンは強かったが、次にタクトたちが狙うのはE組トップのトモエ・チヒロのチーム。
トモエには初級霧魔法を一撃で消し飛ばされ、チヒロにナイフで瞬殺されたことは記憶に新しい。
せめて中級魔法に対抗する手段をいくつか実用レベルに仕上げなくては、勝負にすらならないだろう。
「それと霧壁の爆発……あれはほとんど偶然の産物だけど、劣化魔法でもああして組み合わせたら、足りない火力を補えるかも知れない」
「あれヤバかったもんね。あたしも吹き飛ぶかと思ったし」
「よく構えを解かなかったなと感心したよ」
「ま、灰嶋くんならなんとかするって思ってたからね〜」
カナタからのストレートな信頼に、タクトは頬をかきながら視線を机に逃がす。
「あ、照れてるでしょ〜」
口角をいたずらっぽく吊り上げたカナタを直視できないタクトは、ガタッと立ち上がった。
「とにかく、僕はまた少し訓練室にこもるよ」
「あ、ごめんあたしはパスでいい?」
「うん。大丈夫。なにか用事?」
「そ!チカちーとご飯行ってこよっかなって」
「……チカちー?」
「うん。E組の伏見チカちゃん。降格回避おめでとう会やろってさっき誘ってくれたんだよね。それじゃ、また明日教室でね!」
そう言い残し、カナタは金髪をなびかせて颯爽と去っていった。
「……コミュ力高いなぁ」
タクトは少し汗をかいてしまったジュースを一気に飲み干すと、容器をゴミ箱に捨てて訓練室へ向かった。
◇
「さて、まずは霧壁の爆破実験かな」
あの場では成功したが、次に使おうとしたら不発では笑えない。
「あ、でも僕が吹き飛んだ時の回収役が居ないや」
あの時は至近距離で、できる限りの火力を叩き込んだ。
この実験でもそうなったなら自爆は必至。
一瞬で落ちるか、爆破の勢いで訓練室から飛び出せば良いが、半死半生の状態で床に転がったまましばらく発見されないなんて事態は避けたい。
「他の実験からやるしかないか。流石に自爆するのは気が進まないから、先に終わらせたかったんだけど」
タクトが嘆息したその時——
「どうかしましたか?」
控えめな声が、タクトの耳へ届いた。
タクトが声の主へ振り返ると、その女子生徒は両手で口を押さえてわずかに飛び上がった。
「あ、ごめんなさい。あまりにも綺麗な紫色だったからつい」
ぺこりと頭を下げると、三つ編みにされた黒髪がばさりと揺れた。
「いや、気にしてないよ。えっと、どちら様?」
「あ、すみません!私は常盤コハルです。あの、灰嶋くん、ですよね?」
「うん。そうだけど」
「やっぱり!校内新聞で見た写真と同じだったので、もしかしてと思ったんです!」
コハルの深緑色の瞳が、丸メガネの奥でタクトを見つめている。
そういえば、以前リオンにも似たようなことで驚かれたな、とタクトは思い出した。
「ところでため息をついていたようでしたが、何か困ったことでもありましたか?」
「困った、というほどではないんだけど、実は魔法の実験をしようと思ってて」
「実験!そうなんですね!魔法のことならお手伝いできるかも知れません」
コハルは胸を張ってそう言った。
「え、手伝ってくれるの?」
「はい!魔法の実験、興味がありますから!それで、どんな実験をするんですか?」
「えーと、まず大量の霧を張って」
「ふむふむ」
「そこに至近距離から強力な電気を放つんだけど」
「……?」
「たぶん爆発するから、吹き飛んだ僕を回収する人が必要なんだ」
「……???」
コハルは眼を白黒させる。
「えと、もう一度聞いてもいいですか?実験をするんですよね?」
「うん。霧魔法の中に電撃を打ち込んで爆破させる実験」
「……もしかして、なにか犯罪でも企んでます?」
コハルは胸の前で腕を組むと、スッと距離をとった。




