決着と余韻
——決着。
しかし、会場は妙な静けさに支配されていた。
「……これが、F組とE組の入れ替え戦?」
「D組同士の模擬戦より激しかったよね」
そんな声が、わずかに聞かれるばかり。
観客のほとんどは息をすることも忘れ、その場に張り付いていた。
「……素晴らしい」
銀前リオンは、観客席で一部始終を観ていた。
「灰嶋くんや水色さん、それに対戦相手の二人も、本当にレベルが高いな」
タクトの魔法を見に来たはずが、気づけば戦いの展開に目を奪われていた。
「やっぱり今年の一年生は当たり年なのかもしれない」
リオンは、S組に所属する唯一の一年生を思い浮かべていた。
——天才。
そう称される少年を。
「……それにしても、灰嶋くんは面白いな」
以前見た閉じない初級魔法とは違い、今回は明らかに初級魔法ではない何かを使っていた。
「中級魔法の威力や操作性を削って、無理やり自分が扱える形にしているのかな?ボクにはない発想だ」
初級を修めれば中級。
次は上級、そして超級。
通常の魔法使いはそうして階段を登る。
そんな常識から外れたタクトの進化に、リオンの笑みが深くなる。
「でも……それじゃ早晩頭打ちになる。別の工夫が必要だね。灰嶋くん」
リオンは闘技場から出てきたタクトの姿に目を細める。
「さて、次はどんな魔法を見せてくれるのかな」
そう呟いて、観客席を後にした。
◇
戦闘が終わった瞬間。
トモエが何かを堪えるように拳を握りしめるのを、チヒロは横目で見た。
絶体絶命。
二人が霧壁を突破した時、シュンたちの勝ちは決まったと思った。
しかし、タクトはチヒロの予想を超えてみせた。
「予定通り。だけど……予想外」
まさか、霧壁を爆発させるとは。
これで今後、タクトの霧壁を突破することは更に難しくなる。
霧の中で爆発に巻き込まれれば無事では済まないだろうから。
「それに……水色カナタ」
カナタが放ったのはたった一度の斬撃。
しかし、それを放つことができたのはパートナーを信じ、自分の役割を全うしたから。
一人一人ではコウとシュンにも勝てないかも知れない。
でも、二人なら勝てる。
タクトとカナタはそういうチームだ。
「……わたしたちとは、違う」
自嘲する。
チヒロとトモエはチームだが、信じ合っているわけではない。
隠し事もお互いにあるだろう。
しかし、それでもE組トップに君臨している。
チヒロが闘技場から出てきたタクトに視線をやると、彼と目が合った。
「……そう」
チヒロは立ち上がると、まだ動けないトモエに声をかける。
「トモエ」
「……なにかしら」
「あの二人が次に狙うのは、きっとわたしたち」
「……そうかも知れないわね。次も勝てば彼らはE組で二連勝になるもの」
おそらく、あの二人はチヒロたちにリベンジを果たしてからD組への昇格を狙うだろう。
先ほどのタクトの目が、そう語っていた。
「でも、わたしたちもあの二人に勝てば二連勝。入れ替え戦に挑める」
「……そうね」
「次は、昇格する。わたしと、トモエが」
「……勝ちましょう。D組への挑戦権を得るのは私たちよ」
トモエが立ち上がり、出口へと歩き出す。
その目には力強い光が宿っていた。
チヒロは最後に一度、振り向いて呟いた。
「信頼関係があろうとなかろうと——強いのはわたしたち」
そして、トモエに続き会場を後にした。
◇
——模擬戦闘、終了。
勝者、灰嶋タクト・水色カナタ
「あっっぶなかったー!ギリギリすぎ!!」
「本当にね」
闘技場から一歩出れば、中で受けたダメージはリセットされる。
しかし、精神的な負担は別のようで、タクトの頭はまだズンとした重さを残していた。
「それにしても……やけに静かだな」
妙な雰囲気の会場を見渡すと、観戦に来ていたチヒロと目が合った。
次はまた、彼女たちと戦うことになる。
彼女から目線を切ると、ちょうど闘技場の向こうからコウとシュンが歩いてきた。
「いやぁー!負けた!」
「今回は結構自信あったんだけどなぁ。灰嶋くんには一杯食わされたよ」
「本当な。まさか自分ごと吹っ飛ばすとは思わなかったぜ」
「……二人が突っ込んでくるから、ああする以外になかったんだよ」
二人に手を差し出す。
自然と、身体がそう動いていた。
「またやろうぜ!」
「次は勝つよ」
「……もう、次は勘弁してほしいかな」
タクトはあいまいに笑って手を握った。




