不規則の中の型
「今日の午後から入れ替え戦……間に合わなかったね」
「……うん」
あれ以降、半ば習慣となった早朝ランニング。
タクトも筋肉痛と戦いながら、なんとか継続している。
「配列はいじり回したけど、上手くいかなかった」
「だねー。今日はもう巻き添え覚悟で、派手にばら撒くしかないんじゃない?あたしも我慢するし」
「うーん……」
二人は一定のリズムで脚を動かし続ける。
「F組に落ちるよりは、ずぶ濡れの方がまだマシだし」
カナタの顔に引きつった笑みが浮かぶ。
クラス落ちはよほど嫌らしい。
「……そういえば、水色ってどこを目指してるの?」
「ん?どこって?」
「目標、みたいなものはある?」
カナタは少し視線を彷徨わせる。
「具体的にどこまで!ってのはないけど……やっぱ卒業までにS組に入るのが目標……かな」
「そうなんだ。何か理由があるの?」
「理由……そんな立派なものじゃないけど——自分に自信を持ちたいから、かな」
「自信……」
「あー、やっぱ今のなし!忘れて!」
誤魔化すようにブンブンと手を振りながら、カナタは少しペースを上げた。
「水色はもう十分、すごいと思うけど」
「それってスキルの話でしょー?人間ってそれだけじゃないじゃん?」
「……それだけじゃ、ない」
タクトの視線が遠くなる。
考え事を始めたためか、足元への注意が疎かになったタクトは——
「ぶへっ」
「ちょ!灰嶋くん大丈夫?!」
石畳に躓き、思い切り転んでしまった。
カナタがしゃがみ込んで心配そうにタクトの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫。大丈夫だから……訓練室に行こう」
「……またそれぇ?!」
タクトは擦りむいた膝を気にすることなく、訓練室に向かって走り出した。
◇
「そうだ。そうだよ。配列にばかり目が行き過ぎてた。魔法式は配列だけでは決まらない。持続魔法式の時にわかってたはずなのに」
訓練室に着くや否や、タクトは霧魔法の詠唱を唱え始めた。
失敗するたびに「違う……違う……」と繰り返し呟く様子に、近くで見ているカナタから困惑の声が上がる。
「急に訓練室まで来たと思ったら、今度はなに?!」
「魔力の流し方だよ。ここが均一だからいけなかったんだ」
「え、なに?」
「もうコツや感覚みたいな話だから説明しづらいんだけど、これと配列の変更を組み合わせれば……」
ボフッという音とともに、霧が空高く舞い上がった。
「うぇっ?!あ、でも霧が出た!」
「方向性は合致してきた。じゃあこう?……違う。それなら——こうか?」
組み上げた魔法式に、魔力を不規則に流す。
次は、余計な音はしなかった。
「でき……た?」
「うん。これなら大丈夫そう」
二人の目の前には大量の霧が、真っ白な壁のように前面に展開されていた。
「すごいすごい!これで入れ替え戦も安心じゃん!」
「いや……そうもいかないよ」
ボフッ。
今度は何故かタクトの右後方にだけ霧が展開された。
「……なんで?!」
「魔力の流し方が少し変わるだけで結果も変わっちゃうんだ。まだ成功の感覚が掴みきれてない。……だから、僕はこのままここで練習する」
「え、授業は?!」
「サボる」
「マジ?」
「うん。今はこっちの方が大事だから。悪いけど先生に伝えておいてくれる?」
「いやそれ、伝えるあたしの方がハードル高いやつじゃん」
「……よろしく」
「もー!今度お菓子奢ってもらうからね!」
カナタは頬を膨らませながら訓練室から去っていった。
「……さて、どこまで詰められるかな」
タクトはまた黙々と、魔法の修練に励む。
成功した時の感覚を忘れないうちに。
◇
「それで、授業をサボるだけの成果はあった?」
「うん。大体思った通りに出せるようになったよ」
「……大体?」
「八割くらいは成功するようになった」
「まだ二割失敗するんだ……」
「そう簡単にはいかないよ。今回は思いついてから時間がなかったし。おかげで霧魔法しか練習できてない」
「まぁ霧で隠れてバーンってのがいつものパターンだし、良いんじゃない?」
「……それで上手くいけば良いんだけどね」
訓練室で合流した二人が闘技場に着くと、対戦相手の加藤コウ・山井シュンチームはすでに準備を整えていた。
「お、来たな」
「今回は前のようには行かないぜ」
二人の落ち着いた佇まいは、自信の程を感じさせる。
「うん。よろしくね」
タクトは二人の目をしっかりと見つめて、頷いた。




