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初級魔法しか使えない僕が、一撃必殺しかできないギャル勇者と一緒に最強になる話  作者: 八泉


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13/30

ランニングと閃き

「劣化魔法式と相性の良い魔法……か」

 タクトは自室で一人、机に向かっていた。

 手元には真っ白なノートが開かれている。

「劣化魔法式はその魔法の根本……一番活かしたい要素を残して他を削るから、操作性や範囲の調整を捨てても問題ない魔法……」

 トン、トンと規則的にペン先をノートに落とす。

 まだアイデアは降りてこない。

「灰嶋、またやってんのか?」

「ルイトくん」

 ルームメイトの佐藤ルイトが、見かねて声をかけた。

「この前みたいにペンがぱぱっと走っていないところを見ると、調子は良くないみたいだな」

「……うん。ちょっと行き詰まってるかな」

「そうか。でも、少し急いだ方が良いかもな」

 タクトは無言で首を傾げた。

「お前たちが入れ替え戦で倒したシュンとコウのチーム。F組で連勝したみたいだぜ」

「そうなんだ。流石は新聞部。情報通だね」

 ルイトは得意げに八重歯を覗かせた。

「ってことで、次はお前たちが狙われる番だな」

「そうなるね」

「あいつら、お前たちへのリベンジに燃えてるからな。この前みたいにはいかないぞ。なんせ模擬戦で——中級魔法を使ったって話だ」

 その二日後、コウ・シュンから入れ替え戦の申し込みがあった。

 担任によりタクトとカナタのチームが指名され、試合は一週間後の開催が決まったのだった。


 ◇


「それで、今日は何を試すの?」

 タクトとカナタは訓練室にいた。

 まだ早朝なため、周りに人はほとんどいない。

「いや、まだ何も思いついてないんだ」

「マジ?入れ替え戦まであと一週間だけど大丈夫?」

「大丈夫じゃない。だから少し身体を動かしたら、良いアイデアが降りてこないかなと思って」

「あーね。だったらココじゃなくても良くない?どうせなら外を走った方が、景色も気分も変わって良いアイデアが浮かぶかも!」

「あぁ、確かに」

「じゃああたしがいつも走ってるコースで一緒に走ろ!」

 そう言うと、カナタはタクトの手を取って歩き出す。

「ほら、こっち!」

「……うん」

 柔らかな手の感触に、タクトは少し俯きながらカナタに続いた。


 ◇


「……いつも、このペースで、走ってるの?」

「え〜?いつもはもっと速いし!今日は灰嶋くんに合わせてゆっくりだよー」

「……す、すごい、な」

 タッタッタっと小気味良いリズムを刻みながら走るカナタ。

 そのフォームは、ほとんどブレることがない。

 反対に、タクトは呼吸もリズムも乱れがちで、走り慣れてないのが丸わかりだ。

「ほら、おしゃべりしてたら息乱れるよ〜。呼吸に集中、集中!」

「わ、わかった」

 一定のリズムで呼吸することを意識しながら足を前に出す。

 身体はしんどいが、頭が少しずつクリアになる不思議な感覚を覚えていた。

「大丈夫?ちょっと休む?」

「……あと少し」

「……そっか」

 カナタは優しく目元を細めながら、リズムを刻み続けた。


 ◇


「さぁ、ここで少し休憩しよ〜」

 カナタが示したベンチに二人で座る。

 涼しげな顔のカナタに比べて、タクトは頬を上気させて肩で呼吸している有様だ。

「灰嶋くん、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫」

 タクトはそう返事すると、持参した水分を口に流し込み、深く息を吐く。

「こうやって走ること、よくあるの?」

「まぁね〜。基本は毎日走ってるよ」

「すごいな」

「そんなことないし。もう習慣だからやってるだけって感じ」

 カナタは身体を軽く伸ばしたあと、目線を遠くに投げた。

 朝の風に、カナタの長い金髪が軽くそよぐ。

「小さい頃から走ってるってこと?」

「うん。走ったり素振りしたり……実家が剣術道場やってるからさ」

「そうなんだ」

「あたしは落ちこぼれで、あんまり期待されてなかったけど……お姉ちゃんがすごくてさ。結構比べられて、キツい時期もあったんだよね」

「お姉さんがいるんだね」

「うん。別に仲が悪いわけじゃないよ?憧れ、なのかな。あーすごいなーって気持ちが先にきちゃって、上手く喋れないことが時々あるんだよね〜」

 カナタは人差し指で頬をかきながら、困ったように眉を下げた。

「憧れ、か……」

 タクトは自分の掌に視線を落とす。

 初級魔法しか使えない。

 そんな自分を導いてくれた。

「そういう意味では、僕の憧れは水色だな」

「……へっ?!」

 カナタは、ランニングの最中よりも赤みを増した顔をタクトへ向ける。

 そして胸元で両手を握りしめたまま、ずりずりとベンチの端まで後ずさった。

「な、なに急に……!」

「いや、水色の星斬りは僕の憧れなんだ」

「あ、スキルの話ね……」

 カナタはさっと髪を整えると、不服そうな視線をタクトに向けた。

「僕には絶対真似できないあの一瞬の破壊力。本当に羨ましい。それに、さっきの話で納得したよ」

「納得?」

「うん。剣を振り下ろす時の動作……所作の美しさかな。あれは、水色がずっと積んできた努力の結晶なんだなって」

「なっ、なに急に……」

 もじもじと服の裾をいじる。

「構えから振り下ろしまでに一切のブレがないんだよね。決められたルートを切先が走っていくような……まてよ」

 タクトは急に視線を足下に落とすと、まばたきすることも忘れてぶつぶつと呟き始めた。

 そして——

「——訓練室に戻ろう。試したいことがある」

 そう言ってカナタの肩を掴んだ。

 カナタは精一杯の呆れ顔を返したが、タクトはそれに気づくことすらなかった。

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