E組トップの実力
「——模擬戦、致しません?」
授業の休憩時間。
長い赤髪を縦に巻き、前髪をキレイに揃えたその少女は、サファイアブルーの鋭い瞳をタクトに向けて言い放った。
「……水色、どうする?」
「え、まだ私たちE組に上がったばかりなんだけど……」
ジトっとした視線を感じたタクトは周囲を見渡す。
E組の面々はおしゃべりや自習を止め、こちらの反応を伺っている。
新入りの実力を見極めたいのだろう。
「……逃げますの?」
赤髪の少女の目に、厳しさが更に上乗せされたところでタクトが切り出した。
「いや、受けるよ」
「灰嶋くん!?」
「仕方ないよ。基本的に断るのはルール違反だ。向こうから取り下げてくれるなら別だけど」
タクトの返答を聞いて、赤髪の少女はフンと息を漏らす。
「申し遅れました。私は火谷野トモエ。チームメイトはあちらの安斎チヒロです」
トモエが手で指し示す先では、机に突っ伏していたチヒロが小さく手を挙げた。
「僕は灰嶋タクト。チームメイトは隣の水色カナタ」
トモエは小さく頷く。
「急な話ですが、今日の夕方でいかがかしら?」
「え、今日?!」
カナタが眼を大きく見開く。
「——わかった」
「灰嶋くん!日程はこっちで決めていいんじゃないの?!」
「来週から中間テストもあるし、早めに終わらせた方がお互い良いと思う」
「ま、まぁそうだけど……」
「決まりね。では放課後に闘技場で」
そう言い残すと、トモエは自分の席へと戻っていった。
「ねぇ、私たちまだなんの打ち合わせもしてないのに大丈夫?!」
カナタは眉を寄せてタクトへ詰め寄った。
「うん。正直言って大丈夫じゃない」
「えぇ?!」
「でも、E組の実力を知るには良い機会だよ。クラスの雰囲気を見る限り、あの人たちがリーダー格な気がするし」
「え……もしかして灰嶋くん、知らずに受けちゃったわけ?!」
「……?なにを?」
「火谷野さんチームは、E組トップなんですけど!!」
「……うん、良い経験になるね。さぁ、次の授業が始まるよ」
カナタの責めるような視線から逃れるため、タクトは授業へと意識を移したのだった。
◇
夕陽の差し込む闘技場。
タクトとカナタは即席の作戦会議を行なっていた。
「今回は、劣化魔法式で霧を使うのは止めるよ」
「え?なんで?」
「実際に使ってみたら、想像以上に制御ができなかったから。光魔法の目眩しは使うかもしれないから、合図したら眼を閉じて」
「じゃあ、霧なしで戦うってこと?」
「いや、霧の初級魔法を持続魔法式で使うよ。中級魔法相手にどれだけやれるかはわからないけど、それも良い実験になる」
「それはそうだけど……」
「そろそろ始めるぞ!両者準備は良いか?」
審判役の教師から声がかかり、二人は作戦会議を切り上げて戦場に足を踏み入れた。
◇
「——試合、開始!」
教師の合図とともに、タクトは霧魔法の展開を始める。
しかし、相手の動きは早かった。
「その戦法はもう知っていますわ!」
トモエが詠唱を終えると、槍のような形をした猛烈な炎がタクトへ襲いかかる。
タクトは即座に風魔法に切り替えて自分ごと後方に吹き飛ばすことで難を逃れた。
しかし、張っていた霧は熱で蒸発してしまう。
タクトは風魔法と炎槍の余波で吹き飛び、カナタの足元まで勢いよく転がった。
「ちょ、大丈夫?!」
「……なんとか。中級の火魔法か……流石の威力だ」
意図せず距離を稼げたため、タクトは再び霧をばら撒き出す。
「なにやらの一つ覚えかしら!」
トモエの炎槍が再び飛来する。
着弾とともに霧は吹き飛んだが、霧の裏でタクトたちはすでに移動していた。
「中級魔法を連発できるのか。E組トップは伊達じゃないな」
「感心してる場合じゃないし!」
なんとか炎槍から逃れたものの、二度押し込まれたことで戦場のほとんどを制圧され、逃げ場はない。
「とにかく移動しないと。目を閉じて」
タクトは合図すると光球をトモエに向けて飛ばし、そこで気づいた。
「あれ、もう一人は——」
「——ここに、いる」
タクトの背後でナイフが数回煌めく。
放った光球が爆ぜる前に、タクトは退場していた。
「いつの間に?!」
急に現れたチヒロに驚愕しながらも、カナタは反撃を図る。
しかし、チヒロはその剣をまともに受けることはせず、するりとその場を離脱した。
その直後——
「これで、チェックメイトですわ」
——トモエが放った三度目の炎槍が、カナタを貫いた。
◇
——模擬戦闘、終了。
勝者、火谷野トモエ・安斎チヒロ
「……弱すぎますわね」
トモエはタクトの元に歩み寄るなりそう言った。
「以前よりも霧の展開速度が遅かったようですが、もしかして私たちを舐めているのかしら?」
「……いや、ただの調整不足だよ」
トモエは冷ややかな眼でタクトを睨みつけると、ふんと鼻を鳴らしてチヒロと共に去っていった。
「……負けちゃったね」
カナタは肩を落とす。
初めから厳しいと思ってはいた。
ただ、その差があまりに圧倒的だった。
「……これは、一筋縄では行かなさそうだ」
◇
——翌日。
タクトが教室に着くと、机に手紙が残されていた。
そこには。
「今日の放課後、教室で待ってて」
という、短いメッセージが記されていた。
【10話到達!】
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