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油断大敵の金曜日

図書室を出た後、そのまま家に帰ることにした

生徒玄関へ行き、靴を履き替える

時刻は17時

部活がない生徒たちがちらほら帰り始める時間帯だ

それにしても昨日から色々あって疲れた

本の騒動から、村瀬君の件、それに…堀北先輩

(これも全部堀北先輩が悪いんだから)

目の前にいない人に向かって心の中で悪態をつく

図書室から借りた新刊も読みたかったので、足早に帰ることにした


家に帰り、黒パーカーにショートパンツといったラフな格好に着替え、夕飯の準備に取り掛かる

今日は金曜日だ

明日、学校も休みなので豪勢に行きたい

(ハンバーグが食べたいな)

賞味期限が近いこともあり、お母さんはお肉やお魚は買い溜めしない

なのでお肉が食べたいと思った時点で買い物へ行くのは確定していた

冷蔵庫を開け、パンパンに詰まった食材たちを吟味していく

他に足りないものはないか確認していく

玉ねぎよし、パン粉よし、卵…は昨日食べたんだった

牛乳も無く、スーパーへ買いに行くことを決める

炊飯の準備だけ済ませ、家を出る


近所のスーパーへは学校へ行く道とは正反対で徒歩で十分ほどで着く

ふと後ろを振り向くと、夕日に照らされてる自分の影がかなり遠くまで伸びていた

(暗くなる前に早く帰ろう)

スーパーに着き、必要なものを集めていく

ひき肉、牛乳を取り、中に入れるトッピング系も買うことにした

チーズやうずらの卵、想像しただけでもう美味しそうだ

(あ、卵忘れるとこだった)

会計に並ぼうとしたとこでギリギリで思い出し、卵コーナーへ向かう

卵コーナーの上部分には『特売!1パック100円!』と書いてある

残り1パックだけ残っており、ラッキーと思って手を伸ばす

するともう一つの手が同じタイミングで卵パックを掴んだ

少し気まずさを感じながらも左側にいたもう一つの手の持ち主の顔を恐る恐る伺う

顔を確認するなり、パックから手を放し、顔を背ける

「ん?おー、辻本じゃねえか。奇遇だな」

堀北先輩だった

自分の明らかにラフすぎる格好が急激に恥ずかしくなってくる

まさか誰かに会うとは思っていなかったが、まさかの堀北先輩に会ってしまうとは

…堀北先輩だからなんだという話だが

兎にも角にも、一大事という事には変わりはない

「家では眼鏡なんだな。なんか雰囲気違くて一瞬誰かと思ったぞ」

ははは、と後ろから聞こえてくる笑い声に屈辱にも似た感情が湧いてくる

「卵…」

「ん?」

「卵買うんですか」

話題を切り替えたくて、無理やり方向転換する

「んーまあ母さんからのおつかいでな。辻本もか?」

「…晩御飯の材料にしようと思って」

「そりゃ大事じゃねえか。卵は譲るよ、もってけ泥棒!ってか?」

「ふふ…なんですかそれ」

明らかに違う用途の言葉に笑いが零れてしまった

改めて堀北先輩の方へ向きなおし、卵パックをかごの中へ入れる

「ではありがたくこれはいただいていきますね」

「おう!そんな怪盗みたいなセリフは残していかなくてもいいんだぞ」

「そ、そんなつもりじゃ…!」

言われてみれば確かに怪盗が言い残していきそうなセリフだなと思う

「冗談だよ。辻本はもう買うものは無いのか?」

「あ、はい。卵で最後です」

「んじゃ、会計の列に並ぶか」

「そうですね」

歩き出した先輩の後ろをついていくようにレジへ並んだ

「ところで今日の晩御飯は何なんだ?」

待っている間暇なだからか、かごを見ながら先輩が聞いてくる

「あ、今日はハンバーグにしようかと」

「いいなぁハンバーグ!俺も食いてぇなぁ…」

「じゃあ…うちに食べに来ますか?」

「マジ!?」

先輩はいつかのイチゴオレのように目に生気が戻ったようにキラキラさせている

こんな提案するなんて自分でも驚いたし、戸惑った

前まで家を知られることすら、イヤだったのに

「で、でも勘違いしないでくださいね。これは卵を譲ってくださった恩です。そのおかげで私は今日もご飯にありつける訳ですし。あ、あと味は期待しないでくださいね。私好みの味付けにしますから!」

一息で言い切ったので息が上がる

こんな言い訳染みたこと言わなければよかったと後悔する

「おう!人から頂くんだ!文句なんて何一つ出てこないよ」

二ッと笑い、その直後にようやく空いたレジに向かった


二人して会計を済ませ、スーパーを後にする

「そうだ、ハンバーグの日程とか後々決めたいし、連絡先交換しねえ?」

スマホのチャットアプリを立ち上げながら先輩が言う

「それもそうですね。お互いの連絡先が分からなかったら意味ないですし」

「おう、んじゃあこれ俺のQRコードな」

お互い交換し、チャット欄の名前に『秀』の名前が入った

一瞬誰だか分らなかったが、先輩の下の名前だったことを思いだした

少しだけ不思議な感覚だ

「お、辻本のアイコンはネコか。かわいいじゃん」

一瞬自分に対してかわいいと言われたと思い、ドキッとしたが、冷静に考えてネコの事だと瞬時に悟る

「通学路に見かける猫ちゃんです。お昼寝してたので思わず撮っちゃいました」

「そっか、いい写真だな。んじゃ俺こっちだから」

先輩は私の家とは逆方向を指さし、歩き出す

「また連絡するからな!じゃーな!」

「あ、はい!おやすみなさい!」

こちらから背を向け、段々と小さくなっていく先輩の後ろ姿を少しだけ眺めてから私は帰ることにした

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