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瀬戸先輩

先輩から走って逃げた後、自分の机で腕に顔をうずめる

(あんなタイミングで逃げるなんて絶対先輩に変な人だって思われた…!)

さっきの自分の奇行を思い出し、脳内で悶える

チラッと先ほど先輩と居た場所を見るが、先輩の姿は見えない

どうやって先輩に弁明をしようか考えていると、外から歓声が聞こえてきた

あまりにもうるさいので気になって窓から見て見ると、村瀬君がチームメンバーらしき人たちから胴上げをされていた

なにやら一年生たちが三年生に試合で勝ったみたいだ

(ふーん、やるじゃん)

村瀬君に試合は興味ない、とは言ったもののやはり気分の悪いものだったので、三年生には少し「ざまぁ」といった感想が浮かんでくる

そんなことを考えていると、昼休みが終わるチャイムが校内に鳴り響きだした

グラウンドでは思ったより試合が長引いたからなのか全員慌ただしく動いていた

結局試合に参加していたサッカー部はもちろん、観客の生徒たちまで授業を遅刻してきていた


放課後、机の中のものをカバンにしまっている最中、村瀬君がこちらへ近寄ってくるのが目の端に見えた

「辻本さん、ちょっといいかな」

「…なに」

心の中でうげ…と思いつつなるべく表面に出さないように注意する

「今日昼休みに僕ら一年生が三年生に勝ったのは知ってるかな」

「なんとなくそんな気はしてたけど、そうだったんだ」

「うん、それでなんか打ち上げをするみたいなんだけど良かったら辻本さんも来ない?」

「行かない」

「即答かぁ、なら今度「行かないって言ってるじゃん!」」

分かり切っている答えのはずなのに誘ってくる村瀬君に腹が立ち、村瀬君に被せて声を荒げる

堀北先輩に対する焦り、自分への苛立ち、そしてこの男の踏み込んでくる不快感

感情があふれ出してきて、抑えが効かない

「大体なんでいつもいつも私なんかに構うの!?毎回断ってるんだから無駄だって察してよ!」

ここまで来たら自分でも止めることができない

ただでさえ溜まっているストレスをうまく発散する術を知らないのだから

「私は一人がいいの!だからほっといてよ!」

大声を出したもんで、少し息切れがしてくる

周囲からはひそひそ声が聞こえてくる

当然だ、まだ誰も出て行っていない教室で大声を出したのだから

諦めたように息を吐き、チラッと村瀬君を見ると呆然としている

「…やっぱりすごいな辻本さんは」

注意していないと聞き取れないレベルの声量で何故か褒められた

誰も村瀬君の言葉は聞こえていないようだった

「それならさ、連絡先交換しない?もうこれ以上こういうのは誘ったりしないからさ」

もう関わらないで、に対する返事ではない

やはりこの男は何を考えているのかまるで分からない

だが冷静になって考える

ここでこの提案を言葉通り受け取れば、今後の学校生活は少しは快適になるはず

「…それで引き下がってくれるならいいよ」

スマホを取り出し、村瀬君にチャットアプリのQRコード差し出す

「ありがとう」

それを読み込み、慣れた手つきで登録を済ませる村瀬君

「じゃあね、辻本さん」

怒鳴ってしまったのにまったく気にしていないようだった

(いや、むしろ想定していた、までありそうだな)

打ち上げをする連中を引き連れて教室を出ていく村瀬君を見届けてから私も教室を後にする

(なんか疲れちゃったし、図書室にでも行こ)

精神的疲労を和らげてくれるのはやはり本だけだ


ガラッと図書室のドアを開け、受付カウンターへ目をやる

すると受付お馴染みの顔がこちらに気付き、こちらへ来いと言わんばかりに手招きをする

はぁ、とため息をつき、図書委員の先輩のいる受付へ向かう

向かう途中に、最近溜息の回数増えてるななんて考える

「辻本さん、昼休みに堀北にあったんだね」

受付に着くと気になってたのか、すぐに聞かれた

「えぇ…まあ」

という事はこの人は堀北先輩から一部始終を聞いているのだろう

昼休みに会いに来た事

本を汚した件に関して詰められた事

最後に…怒鳴ってから走って逃げたこと

すると、先輩は思い出したのか小さく笑っている

「なに笑ってるんですか」

「いやーごめんごめん、君面白いね」

「こっちは名前も知らない人から面白がられて気分最悪です」

と顔を背け、少し不機嫌そうに言ってみる

すると先輩はハッと何かに気付く

「あー!そういえばそうだったね。俺は瀬戸悟」

「私は辻本です。よろしくお願いします」

今更よろしくというのは遅い気はするが、この場の適切な言葉が出てこず、とりあえずテンプレを使うことにした

「それで瀬戸先輩はどうして私をこちらに?」

下げていた頭を上げ、気になっていたことを聞く

「あ、そうだった。堀北がこれを返したから君に知らせようと思ってね」

瀬戸先輩はPCのすぐそばに置いてあった一冊の本を手渡してきた

(これは…『春夢』!?)

それは昨日堀北先輩が私よりも先に借りていった新刊だった

「もう返したんですか!?」

「放課後になって最初に返しに来たよ。この前遠回しに後輩が待ってるよって伝えたからかな」

「そ、それで返す時なんか言ってました?」

「本を汚したことに対してめちゃめちゃ謝られたね」

「ほ、他は?」

「いや、これ以上は何も言ってなかったかな」

「そうですか…」

堀北先輩が愚痴を言ってないことにホッと胸をなでおろす

「あ、でも命を救ってもらった後輩がいるって昨日聞いたよ。クラス中に言いふらしてたね」

優しそうな眼を細めて再度笑いながらそういう瀬戸先輩

「もう勘弁してください…」

あらぬ噂が二年生に広まりつつある様子を聞かされ、いたたまれなくなる

「も、もうこれ貸し出しでお願いします!」

瀬戸先輩に『春夢』を突き付け、照れ隠しをする

「はいはい」

そのまま貸し出し受付の手続きを進めてもらう

「…瀬戸先輩は堀北先輩と仲いいんですか?」

待ってる間気になってたことを聞いてみる

「んー腐れ縁かなぁ。幼稚園から一緒の仲だし」

「そうだったんですね」

それならこの人から堀北先輩の情報を取れる、なんて打算的な考えがでてくる

「あいつ普段は気丈に振舞ってるけど、実は自分のテリトリーを邪魔されんのが嫌いなんだよね」

「え?私昼休みに思いっきり堀北先輩の邪魔しちゃいましたけど」

あの距離感が少しおかしい堀北先輩からは想像できない内容で意外だった

すると瀬戸先輩の手が止まる

「そっか、君ならいいんだ」

と少し遠い目をしながらつぶやいていた

「瀬戸先輩?」

「ごめんごめん、これ貸し出しおっけーだよ」

先程の雰囲気からは打って変わって、誤魔化す様に本を差し出してきた

「あ、ありがとうございます」

私は本を受け取り、カバンに仕舞う

瀬戸先輩の先ほどの雰囲気が気になるが聞かないでおくことにした

(部外者の私がそこまで聞いても多分教えてくれないよね)

「それでは失礼します」

「うん、またね」

ペコっと頭を下げ、図書室を後にした

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