堀北という人について
久しぶりにこんなに走ったので息が上がる
グラウンドへ近づくにつれ、人が増えていく
グラウンドでは、ユニフォームを着たサッカー部がアップなどをしている
目標の木は今いる位置からちょうどグラウンドを挟んだ反対側にある
(先輩いた!)
先輩の姿を確認し、パンを食べながら片手で本を読んでいるようだった
人ごみを避け、グラウンドの周りをぐるっと回って、先輩のいる木に近づく
走ると目立つため、なるべく早歩きで近づく
「堀北先輩!」
ようやく接敵する
「ん?うお、辻本じゃん!どした?そんな疲れて」
ちょうどパンを食べ終えたのか、本を開こうとしていた
「す、少し…待ってください…」
両ひざに手をついて、前かがみで体力回復に励む
「お、おう?」
先輩は頭に?マークを浮かべながら、私が息を整うのを待ってくれている
弁当を食べ終わってからほぼダッシュでここまで来たのだ
脇腹は痛いし、普段運動もしてないので体力も少ない
流石にちょっとは運動した方がいいのかななんて考える
ふぅ…と一息つき、膝から手を放し、顔を先輩へ向け本題に入る
「先輩、単刀直入に聞きます。『眠れない夜』を汚したのは先輩ですか?」
「汚した?なんのことだ?」
「ですから!先輩が昨日ここで読んでいた『眠れない夜』のことです!土が付いていて汚されていました!」
「あ!その事か!いやー悪い!俺としたことが土をつけてしまった!すまん!」
パンっと顔の前に合掌を作り、謝ってくる
こんなにあっさり認めるもんで少しだけ拍子抜けだ
「一応汚れは取ったつもりだったが、なんかあったのか?」
合掌を作ったまま視線だけこちらへ向けてくる
「なんかあったもなにも、私がその汚れを取ったんですよ」
本を差し出して証拠を見せようとするが、本は教室にあることを思い出す
「そっか。それは助かったよ。これで貸し二つだな」
合掌を解き、ニコッと先輩は笑う
なぜだか、その笑顔から目が離せなかった
「…そ、それで先輩はここで何してるんですか」
ハッと我に返り、少しだけ顔を見てるのが気まずく感じ、さっき始まったばかりのサッカー部対決へ目をやる
「ここは俺の秘密基地なんだよ」
先輩も同じようにグラウンドを見る
「秘密基地…?思いっきり人目に触れて開けてますけど」
「ま、まあそうなんだがな?でも木の下に来ると、影が周りとの境界みたいになっててなんか俺だけの空間!って感じがするんだよ」
「…そうですか」
「あ!今何言ってんだこの人って思っただろ!」
「思ってないです。頭おかしいって思っただけです」
「言葉が違うだけで、殺傷力は変わってないんだよ…友達にも理解されねぇし」
肩を落とし落ち込む堀北先輩を一目見て、先ほどの言葉について考える
(秘密基地…か)
口ではああ言ったが、理解できないっていったらウソになる
確かに区切られた自分のスペースというのは居心地がとても良い
だからこそ、自分は教室などの不特定多数がいる場所は少し苦手に感じるのだろうか
だってそこは自分だけの空間は限りなく狭く、いとも簡単にその空間は維持できなくなる
「ところで、これは今何やってんだ?」
「どうやらサッカー部同士の対決みたいです」
先輩から一メートルほど離れた位置に座る
「あー、なんかクラスのやつが言ってたな。なんか三年が新しく入って来た生意気な一年を黙らせるための格付けだとかなんとか」
「そんな物騒なものだったんですか。これ」
なんて野蛮なんだろう
確かに生意気なのは先輩からしたら面白くないだろうけど、こんな晒上げるみたいなやり方はあまり好きではない
「普通に考えりゃ、三年に勝てる訳ねぇのに、こんな晒し上げる真似しなくてもいいのにな」
少しドキッとした
このドキはときめいた奴なんかじゃなく、考えが一緒だったことに対して驚いたドキだ
「…先輩もそう思うんですか」
「そりゃそうだろ。部の問題は部の中で始末をつけりゃいい。わざわざ大衆を使うのはちょっとダサい」
「…そうなんですね」
不覚にもカッコいいと思ってしまった
いやでもこのカッコいいは考え方とかに対してだ
(…さっきからこれは誰に向けて言ってるのだろうか)
体育座りのまま顔だけ埋める
「お、あの一年めちゃめちゃ上手いな」
先輩の目線を追うように顔を上げグラウンドへ目を向ける
そこにはドリブルで何人もごぼう抜きをし、ゴールをかっさらう村瀬君の姿だ
黄色い声援も飛び交い、仲間に背中をたたかれ困ったように笑う姿は教室で見かける姿と一緒だった
「一年であんなに上手いなんてなぁ…サッカー部のこれからが楽しみだな」
「そうですね」
「辻本はあの一年とはクラス一緒なのか?」
「一緒ですけど」
「じゃあさ、教室でもモテモテなのか?」
「そうなんじゃないですか?」
常に女子に囲まれてるから誰かしらと付き合っててもおかしくはないだろう
「そっかぁ、辻本もやっぱあんな感じなのがタイプなのか?」
「そんなことより!昼休みにここで本を読むのはやめてください!本がかわいそうです」
何故か腹が立って、声を荒げてしまった
図書室での失態を繰り返したことに気付き、周囲を見渡す
そこには驚いた表情をしている堀北先輩を除いて、こちらを見ている人は誰もいなかった
「わ、悪い。もうここでは読まないよ。本の扱いも一層気を付けるから」
少し怯えたように言う先輩を見て、なにやらいたたまれなくなった私はすぐにでもここから離れたかった
「…ッ!それだけです!では!」
バッと立ち上がって背を向け、来た道をさかのぼるように歩き出した




