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木の下へ

図書室を後にし、教室へ向かう

教室に近づくにつれ、中からいつも通り騒がしい声が聞こえてくる

このクラスであと11ヶ月過ごす、そう考えただけで嫌気がさしてくる

うるさい

品がない

頭が悪い

このクラスにはまともな人がいない

ふぅ…と一息吐き、教室のドアに手を掛けた

「あれ、辻本さん珍しいね。こんなギリギリに」

声の主を確認するように顔をそちらへ向けると、共通カバンと肩にエナメルバックをかけた村瀬が息を上げながらそこに立っていた

「ちょっとね。村瀬君は朝練?」

エナメルバックからはタオルやユニフォームらしきものが乱雑に詰め込まれているからか、はみ出して見えた

「そうだね。朝練は時間が早くてちょっと大変だけどね」

「次期部長候補様は大変ですこと」

「うーん、それもみんなが勝手に言ってるだけだし、僕なんてまだまだだよ」

少し困ったように頬を掻く、村瀬君からは本心でそう言っているように感じた

「あっそ。私には関係ない話だけどね。時間だし、そろそろ着席しないと先生来るよ」

その様子を一瞥し、ドアを開けようとする

「あ、辻本さん!」

この人はいつまで関わってくるんだろう

「…なに」

「今日の昼休みにグラウンドで3年生対1年生の試合をやるんだ。良かったら観に来ない?」

「行かない。さっきも言ったけど興味ないから。それじゃ」

吐き捨てるように言って、さっさと教室のドアを開け、自分の席に座る

私が席に座ったぐらいで村瀬君も入って来た

すると女子たちがまるで獲物が来た時のハンターのような素早い動きで村瀬君の前に集まる

「村瀬君!昼休み私絶対応援行くからね!頑張って!!」

「アンタ邪魔よ!…村瀬君!私も行くから!絶対勝ってね」

「はは、ありがとう」

いつも通り女子たちにやさしい対応

だけどその笑顔はいつもより曇っているようだった


4時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り、教材を机の中へ片付け、カバンから弁当を取り出す

いつも通り自分の席でお昼を食べる

ただ一つだけいつもと違うことがある

それは目線だ

いつもであれば教室の中で騒ぐ連中を見たり、次に読む本の事を考えたりしている

だが今日は昨日借りられていった新刊を守るため外に注意を向けてる

桜の木に近づく人物がいないかグラウンドをくまなく見ながら弁当をつつく

流石にお昼休みが始まったばかりだからなのか、グラウンドには人影がない

(別にあの図書委員の先輩を信用した訳じゃないけど、一番見つける確率が高そうなのがそこってだけなんだから)

教室へ行ってもいいのだが、何組かもわからないし、会っても何を言えばいいのだろうか

そもそも堀北先輩が汚した、という証拠は状況証拠でしかなく、別の人が汚したパターンもあり得るはず

なのに私は堀北先輩のせいにしている

(…でもあの人なら汚していてもおかしくないし)

知り合ってわずかだが、そこだけは謎の信頼があった

そうこう考えているうちに、弁当を食べ終える

(ごちそうさまでした)

空の弁当箱に向かって手を合わせた

ちょうどそのぐらいから、グラウンドへ人が集まり始めている

そういえば昼休みになんかするって村瀬君言ってたな、と一人で納得する

教室の中でも、村瀬君の応援やら頑張ってやらの声が聞こえてくる

そんなクラスメイトへ向けた冷めた視線を外し、再び桜の木へ目を向ける

するとグラウンドへは目もくれずに桜の木に向かっていく人物がいた

見覚えのある男の人だ

思わずガタっと立ち上がる

教室に残っていた人たちは驚いたような話し声が聞こえてきたが、今はどうでもいい

よく見ると片手に本、もう片方にはパンを握りしめて、昨日見かけた男の人が寝ていた位置にまっすぐ向かっていく

(見つけた!もう本は汚させないんだからね!)

見つけるや否や、走って教室を飛び出す

階段を駆け下り、生徒玄関へ向かう

「あ、辻本さんもグラウンドへ行くの?なら一緒に行かない?」

玄関で靴を履き替えていると先に靴を履いていた村瀬君に声を掛けられる

「そうだけど急いでるから邪魔しないで」

汚させない、と頭の中は本の事でいっぱいだ

「は?何アンタ。村瀬君が声かけてくれてんのになにその態度」

隣の下駄箱から女子生徒が出てきた

「すっげーむかつくんですけど」

靴を履き替え終わり、玄関から出ようとしたところを二人の女子に道をふさがれてしまった

顔に見覚えがなく、恐らく他クラスだろう

「だから急いでるって言ってるんだけど。そこ退いて」

なんか昨日も同じ事されたなぁ、と感じる

「アンタの態度が気に食わない。根暗女のくせに」

「そうよ!村瀬君に謝りなさいよ」

如何にもな高圧的な態度を取ってくる

「根暗だからなんなの。アンタ達みたいな複数でしか入れないような金魚の糞よりはマシでしょ」

「…ッ!このクソ女!」

今にも叩かれそうになり、少し身構える

「待って待って!高梨さん落ち着いて。辻本さんも昨日と言い、言いすぎだよ。もう少し柔らかい言い方しないと、友達いなくなっちゃうよ?」

村瀬君が間に割って入って止めた

「…余計なお世話。それじゃ」

二人が村瀬君に気を取られているうちにスルッと横を通り抜ける

「おい待て!」

後ろで高梨と呼ばれていた女をなだめる村瀬君の声が聞こえてくるが、今そんなことは気にしている場合じゃない

(一刻も早く堀北先輩のとこに行かなきゃ!)

まっすぐグラウンドへ駆ける

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