眠れない夜
「ただいまー」
家のドアを開け、返事が返ってくるわけでもないのに声に出す
靴を整え、リビングに向かうと、机の上に一万円と小さなメモ書きが置いてある
『これでなにか食べて。次は来週の水曜に帰って来るから』
(…帰ってきても私には会わないのに)
母親は多忙だ。週に一回は帰ってきているようなのだが、私が学校に行っている時間に帰ってきているみたいだ
それに最後に顔を合わせたのは、年末年始だ
今はもう五月、もう少しで半年が経とうとしている
父親は私が小さいころに亡くなっている
この今住んでいる家を残していなくなってしまった
そんな母親は女手一つでここまで育ててくれた、そのことには感謝している
でもきっとそんなことは無いのに、時々イヤでも考えてしまうことがある
(お母さんは私よりも仕事の方が大事なのかな)
カーテンから差し込む夕日
薄暗い部屋
壁掛け時計の秒針が動く音
これらすべてが私以外この家には誰もいないという事実をより強く実感させてくる
(…とりあえず着替えてご飯にしよ)
いつも通り部屋着に着替え、冷蔵庫を開ける
パンパンに詰め込まれた冷蔵庫を見て笑ってしまう
母親が家に帰ってきたときはいつもこうして冷蔵庫が苦しそうにしている
「げ、この卵の賞味期限明日までじゃん」
一番手前にあった卵パックから卵を取り出し、手慣れた手つきで卵料理を作っていく
だし巻き卵、目玉焼き、スクランブルエッグにその他諸々
小学生の頃からこんな生活を続けているので料理なんて慣れたもんだ
(ついでに明日の弁当のおかず用に詰めとこ)
その日の晩御飯は卵料理ばっかで一人卵パーティを開いてる気分だった
腹ごしらえをし、お風呂にも入った私は早速やらなければならない事にとりかかる
時刻は夜の八時過ぎ
自室の机にはエアダスターやほこり取りなどの清掃用品が並んでいた
そう、土で汚れた本の清掃だ
(軽く土を払ってあるだけでキレイになったなんて思わない事ね)
汚した本人へ届かないメッセージを心の中で唱える
本好きな私からすると土の汚れ取りなんて造作もないことだ
(よく見たら土だけじゃなくてページとページの間にまで汚れが…!?)
上等じゃない…!と心の中で炎を燃え上がらせて一心不乱に清掃に取り掛かる
ふぅ…と満足のいく仕上がりまで終えた時点の時刻は0時を回っていた
(もうこんな時間…今日はもう寝なきゃ。明日これを返した犯人を突き止めなきゃ)
明日、厳密に言うと今日なのだが、学校へ行くことが少しだけ楽しみだった
…いや、この際楽しみというのは少し違う。
でも他に適切な言い方がわからない感情だ
頭の中がグルグルしてくる
布団を頭からガバっと被り、眠気が来るまで考えていた




