土のついた本
その日は無事に午後の授業を終えた
五時間目には多少遅れてしまったが、成績に影響出るほどでは無い
荷物をカバンに入れ、まだ読みかけだった小説を取り出す
(二週目も残り少しだし、今読んじゃお)
数十分後、無事に読み終わり、余韻に浸りながら図書室へ向かう
今いる教室から図書室へはそう遠くなく、近くにある階段を降りればもう着く
ガラッと図書室のドアを開け、肺いっぱいに図書室の空気を入れるように大きな深呼吸する
(本の匂いは本当に好きだな…落ち着く)
図書室へは一週間に二回ほど行く
私は本を二度読むタイプで本を読むことしかやることがない
そのため他の人よりは借りている期間は短い方だろう
なにより静かだし、と心の中で付け加え、新作入荷ブースへ向かう
(今日は好きな作家の新作が入荷する日!楽しみだなあ…!)
ワクワクしながらその本があるであろう場所を探すが、見つからない
もしかしたら棚に戻されたのかな、と考え、その作家の棚を探すがこちらも空振りだ
(ウソ…!マニアックな人しか読まないと思っていたから油断した!図書担当の先生に必死にお願いして取り寄せてもらったのに…!)
直ぐにも膝から崩れ落ちてしまいそうだったが、ここは図書室。あくまでイメージの中で留め、肩を落とすまでにした
諦めきれなかった私は図書委員の人に聞いてみることにした
「あのすみません。今日入荷したはずの水城先生の『春の終わりに見る夢』ってどこにあるかわかりますか?」
「水城先生の?ああ、その本ならついさっき借りられて行ってるね」
この人が対応したのだろう、パソコンで調べるまでも無くすぐに返答が来た
「そ、そうですか。ありがとうございます。じゃあこれ返却します」
そう言うと先ほど読み終わった本を差し出す
諸々の手続きが終わり、受付から歩きだす
きっと私は今負のオーラを出している、そう自覚するぐらいには落ち込んでいるのがわかる
(お昼のあの人もこんな感じだったな…)
お昼休みにあったいちごオレの人もものすごく落ち込んでいた。きっと同じぐらいの絶望だったのだろう
「あ、ねぇ君!そんなに読みたかったらその本借りてったやつに俺から声かけとこうか?そいつ俺の知り合いだからよ」
きっとここまで落ち込んだ私を見かねてそんな提案をしてくれた
すぐにでもお願いしますと言いたかったが、私は足を止め、少し考える
(私も読みたいけど、せっかく借りてったなら時間をかけて存分に楽しんでほしいな)
「ありがたい申し出ですが、せっかく借りられていったのなら世界観を楽しんでほしいです。早く返されても本がかわいそうなので」
「そっか、わかった。確かにそりゃそうだな。」
「はい。では失礼します」
短い返答を交わした後、せっかく図書室へ来たので一冊借りていくことにした
水城先生の棚へ向かい、何を読むか吟味する
(『夏君』もいいなぁ…あ、『眠れない夜』だ。前借りようとしたら無かったのに)
『眠れない夜』を手に取り、本棚から抜き取る
すると驚愕した
なんと背表紙とは反対のページ側によく見ると少し黄ばんだ色がついてる
よく見ると土だった。それもきっとグラウンドの土
(許せない…!本を邪険に扱うなんて…!)
怒りが込み上げてきた
共用の本を汚すなんてありえない
(ん?グラウンドの土?)
そこで一個の可能性が思いつく
(きっとこれは昼休みに見た木の下で寝ていた人が返したんだ)
そう思った瞬間居てもたってもいられず、私はその本を持って再度受付へ向かう
「あの!これ土がついてるんですけど!」
借りた人の詳細を聞こうと思ったのだが、勢いのままドンっと受付を掌で叩いてしまい、そこそこいい音が図書室内に響き渡った
「うお、びっくりした。ってさっきの子か」
周りの人がなんだなんだ、と野次馬のように視線が集まってくる
(勢いつけすぎちゃった…!恥ずかしい…!)
「何?土?」
「ごめんなさいなんでもないですこれ貸し出しでお願いします」
私は詳細を聞き出すよりも一刻も早くここから逃げたい気持ちが勝ってしまった
「え?あぁ分かった」
図書委員の人は戸惑いながらも対応をしてくれ、受付が終わるや否や、私はそそくさとその場を離れた
急いで図書室を出た私はそのまま玄関へ向かい、帰ることにした
木の下で寝ていた人はかなり遠かったため顔なんて見えるわけはなかった
靴を履き替え、はぁ…と小さく息を吐く
「あ、神様だ」
横の下駄箱から崇拝者の声が聞こえてきて、不気味に思い、そちらに顔を向けると男の人が立っていた
いちごオレの彼だ
「…奇遇ですね。そして人を神にしないでもらっていいですか?」
「いーや、君は間違いなく神様だね。俺に生きろと言ってくれた」
「あまりにも規模が大きすぎませんか…そんなにいちごオレが好きなんですか?」
「俺にとっていちごオレとは、そう!血液だ!」
「へーそうですか。私は帰りますさようなら」
「待って待って、いちごオレのお礼がしたいんだ。自販機にでも行こうよ、お返しするからさ」
「なんですか、私を人気のないとこに連れて行ってどうする気ですか。セクハラで訴えますよ」
この人相手だとどうしてかイジワルを言いたくなってしまう
「何にも悪いこと言ってねえよ俺…?で、どうすんの?」
「…んー、いやまた今度にします。今日はもういいですよ」
少し考え、正直その件はどうでもよくなっており、何かあった時のお願いにでも使おうかななんて考えた
「そっか。ところでお前、名前は?」
「人に尋ねる時は自分から名乗るのがマナーでは?」
「お、おう、手厳しいな。俺は堀北秀。二年だ」
「学年はネクタイを見れば分かります」
(堀北…堀北秀先輩…)
気付いたら自分の中で彼の名前を反芻させていた
「私は一年の辻本レイです。」
「学年はネクタイ見れば分かるぞ」
「嫌味ですか」
「はは、悪い悪い。よろしくな、辻本」
「はい、よろしくお願いします。堀北先輩」
(どうせこの人もすぐに私から離れていくのに)
堀北先輩と知り合いになった、なのに一歩後ろから物事を俯瞰している自分がいる
「俺自転車だから駐輪場向かうわ。家まで送っていこうか?」
校門前で先輩が立ち止まりそんな提案をする
「いえ、初対面の人に家知られるのとか普通に怖いので一人で帰ります」
「そっか。わかった。気をつけて帰れよ」
「はい、先輩こそ」
堀北先輩は駐輪場へ向かっていく
(やっぱりなんか変な人…)
私は昼休みに抱いた感想を改めて思い出した。
そしてそのまま家へ向かった




