君色に染まるまで
みんな大好きラブコメ
教室内であちこちから話し声が聞こえてくる
すぐ隣の机で複数人で話していたり、教室の入り口前で固まって話しているグループなどがいる
(うるさいな…)
読書に集中できず、心の中でそんなことを思う
時刻は昼休み
午前の授業が終わり、各々がご飯だったり、友達とはしゃいだりすることで午後へのエネルギー補給に勤しんでいる
窓際の席に座ってる私は、本から視線を外し、校庭を見下ろす
グラウンドで制服のままサッカーをする連中
フェンスに登って度胸試しをする奴ら
桜の木の下で寝ている人
色々な人が校舎の二階からは良く見える
(あの人…本読みながら寝たのかな)
私は頬杖をついて、木の下で寝ている人を見る
木の根っこを枕にするように寝ており、その右手には本が握られていた
(あんな土まみれのとこに持っていくなんて、本がかわいそうだよ)
ありえない、と心の中で思い、視線を教室の中へ戻す
(今更本を読む気にもなれないし、ジュースでも買いに行こ)
そう思うと席を立ちあがり、教室の出入り口に向かう
その出入り口には三人で屯してるグループがいる
髪を茶髪に染めたチャラチャラしてそうな三人だ
「ねえ、邪魔なんだけど」
このままでは通れないし、実際何人かわざわざ反対側の出入り口を使う人がちらほらいるのも見えた
「あ?んだよ辻本てめえかよ」
グループの中の一人が威圧的に言う
「…ッ、だから通りたいからどいてって言ってんの」
少し怯んだが、こう来ることは想定内だ
「お前があっちのドアから出ればいいだろ。さっきからうるせえな陰キャ女」
「なんで私がアンタ達に配慮しなきゃいけないの。門番にでもなったつもり?そういうのはせめて中学生で卒業するもんだけどね。高校生にもなってみっともないよ」
「んだとてめえ…!」
「まあまあ中田君落ち着いて。辻本さんも。ちょっと言いすぎだよ」
逆上して今にも殴りかかって来そうな感じだったが、私たちの間に割って入ってきた人物がいた
「止めんな村瀬!女になめられて黙ってられるか!」
村瀬京助、私たちが入学してから一か月でクラスの中心人物になるような人気者だ
気配りはもちろん、その整った顔立ちも相まってイケメンだとクラスの連中のみならず、学校全体で噂にもなっている
(逆に良い人すぎてむしろ怖いけど)
「辻本さん、ここは僕が何とかするから行っていいよ。最初から見てたけど悪いのは中田君たちだからね」
村瀬はそう言うと、中田たちを入り口から退かし、教室の後ろ側で中田の話を聞く体勢に入った
「そう?じゃあお言葉に甘えて」
教室から出る時に目線だけ中田たちの方へ向けると、目線だけで人を射殺せそうなほどの眼差しで中田が見てきていたが、無視をし、一階にある自動販売機へ向かう
(やっぱり人と関わると碌なことにならない)
元々一人でいるのは好きな方だし、友達とかも欲しいと思ったことはない
私は他人と距離を取り、壁を作って過ごしてきた
(まあ今更友達が欲しいなんて思ったりしないけど)
教室での事を思い出しながら考えていると、自販機に着いた
何にするか少し迷った結果、お金を入れ、いちごオレのボタンを押す
すると今しがた押したボタンには『売り切れ』の文字が浮かんでいる
(あ、ちょうど売り切れ。ラッキー)
いちごオレを自販機から取り出し、立ち去ろうとした時、遠くから猛ダッシュでこちらに向かってくる人がいた
廊下を走るなんて先生に見つかったら怒られるなあ、なんて考えていたのだが、どうやらその男の人はこちらにまっすぐ向かって走ってくる
(なになに!?怖い…!)
しかも目線はしっかりとこちらをロックオンしている
知らない男の人がまっすぐこちらに向かって走ってきている
怖くなった私はその場で頭を抱えこむようにしゃがんだ
ドタドタと徐々に大きくなっていく足音
ついにその男は目の前まで来た、と思ったら私をスルーして自販機前へ行った
「…へ?」
(てっきり私の方かと思ったのに、私の勘違いじゃん…!)
これでは端から見たらいきなり廊下の隅でしゃがみこんだヤツみたいじゃないか、と恥ずかしくなる
「ここもいちごオレねぇのかよ…全滅じゃねぇかよ」
羞恥と戦ってると、自販機前からそんな言葉が聞こえてくる
どうやらその男の人はいちごオレを求めて自販機を駆け巡っていたらしい
「俺の午後は完全に終わった…俺の人生はここまでだ…グッバイ現世」
膝と両手を地面に付き、この世の終わりみたいな雰囲気を醸し出している
たかがいちごオレで大袈裟な、と心の中で笑う
でもこのままでは、私のせいみたいになって気分があまり良くない
私はいちごオレを偶々気分で買っただけなのでそこまで執着はない
「あの、すみません」
意を決して、その男の人に声をかけてみる
「…俺は今傷心中なんだ…ほっといてくれ」
「いちごオレが欲しいなら私のあげましょうか?」
ネクタイの色から二年生ということが分かったので、敬語で話しかける
「え!?良いの…!?」
その言葉を聞いた彼は驚く速度で起き上がり、私の空いている方の手を両手で握ってきた
「べ、別にそこまで好きでもないですし、そんなに負のオーラを出されても私のせいみたいで気持ち悪いので…!て、手を放してください」
「あ、あぁ悪い」
その言葉を聞いた彼は即座にパッと手を放す
急に距離が近くて驚いて、きょどってしまった
ふぅ…と息を整える
「改めて、いちごオレどうぞ。これで今世もまだやっていけますね」
まだストローも開けていないいちごオレを差し出し、先程彼がつぶやいていたことに掛けて、そんなことを言ってみる
「マジで助かる!」
いちごオレを受け取った彼は手慣れた手つきでストローを取り出し、すぐに飲み始めた
「いやー、まさかいちごオレがどこも売り切れだなんて思わなくて焦ったよ」
ぷはっとストローから口を話し、ぼやく
「そんなにいちごオレが好きなんですか?」
「あたりまえよ!ここに去年からほぼ毎日皆勤賞よ」
「皆勤賞の使い方間違ってますけどね」
あまりにも彼が美味しそうに飲むので渡したことをちょっぴり後悔した
その時昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた
「げっ、もう昼休み終わりじゃねえか!ってお金渡さなきゃだよな。ちょっと待ってな財布出すわ」
代金の件は言い出しづらかったので思い出してくれてありがたかった
見知った人、主に家族などであればそんな些細なことは気にならないのだが、今しがたあったばかりの人であれば話は別だ
早く…!と心の中で急かす
あちこちポケットを探る彼だが、どうやら財布が見つからないようだ
「わ、悪い。教室におきっぱみたいだ。すぐに取りに…って時間無いよな。」
普通に考えれば放課後とかでいいのだが、なんだかめんどくさくなってきた
「いいですよ、代金ぐらい。次に会ったときにでも何か奢ってくれればいいです」
はぁ…とため息を吐きながら言う
「そ、そうか。じゃあ俺教室戻るわ!絶対奢るからな!じゃ!」
そういうと彼は来た時よりもさらに早く廊下の向こうに消えてしまった
(って、私も早く戻らないと!)
結局飲み物は買えず、手ぶらのまま教室へと駆ける
(それにしても変な人だったな…名前聞きそびれちゃったし)
他人の事を気にしている自分に少し驚きつつ、次の授業は何だったろうと考えながら走った




