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神などいない(9)

変わらず湖畔にいる三人。

だが、見える風景は一変していた。


ラリスの遺体が見当たらない。


湖畔近くに、盛り土がある。

おそらく、そこに埋めたとみられた。


シドの声が響く。

「戦士の門!!ラリスが言ったんだな?」


落ち着きを取り戻したハージンからこれまでの経緯を聞いての質問だった。

しかし、好奇心が先行するのか、会話がかみ合わないようだ。


「なんなんだ?戦士の門って?」

質問に質問で返すハージン。


ふぅ。

ため息をつきながらも、答えるシド。


「神が封印された地へ導く門…だ」

「神…」

「神殺しによって、神は滅び、世界は暗黒に包まれた。神がかけた呪いによって…しかし、戦士の門を使い、その呪いごと神を封印し暗黒から救ったのもまた、神殺しだと言われている」


「神を封印した?…俺が?」

「神殺し…なんだろ?」


シドが聞く。

神殺しがハージン・デュエルだと言ったのはオリオストである。

確証は無い。


しかし、当たり前のようにファリエスの宝剣を操り、ラリスを倒したほどの魔導士を撃退。

更に信じがたい再生の能力。


不死再生…


その能力を目にした訳ではないが、聞きうる限り、神を封じた神殺しだと言われれば、少しの疑問など、吹き飛ぶほど突出した能力だと言える。

最初こそ驚いた二人だったが、今は信じているようだ。


「記憶が無いんだっけな?」

「あぁ、記憶なんて無い…」


神の顔すら知らないのだ…

神殺しなどと…

疑問しか湧いてこない。


「まさか神殺しがこんな泣き虫だったとは驚きだ」

ジョーが割って入ると、シドが頷きながら言った。


「確かに」

必死に笑いをこらえるシドに気付くとハージンがふくれてジョーに言う。

「笑うなよ!」


そんなハージンをからかうようなジョー。

「言ってもよ?神殺しなんていうから、どんな狂暴そうで、ギラついた奴かと想ったら…なぁ?」


「もう一度、魂…封印してやってもいいんだけどな?」

コキコキと音をさせながら両拳をもむしぐさでジョーを威嚇するハージン。


「悪い悪い、ジョークだって!涙収まるまでどんだけ待ってやったと思うんだ!これくらい言わせろや!」

そういうジョーの頬には川のような模様がうかがえる。


も、もらい泣き?


「それはさておき、戦士の門だ」

冷静なシド。


「そうだ。そうだ」


ごまかすジョー。

ごまかす必要は無かったが…


「どこにあるのか知ってるのか?」

そこに行けば何かあるかもしれない…

そんな期待をこめるハージン。


はやる気持ちに返ってきたのは意外な答えだった。

「知ってるも何も、アゼク村は、戦士の門を汚す輩を追い払ってきた一族の末裔たちが作った村だからな」


「まさか…近くにある?」

「そうだな。近いといえば近い…ラリスが来てからは見張りに立つことも無くなったが…」


湖の方を見るシド。

ラリスを埋めたところが目に入ると、動きを止めた。


ジョーが続ける。

「まあ、ここ数年そんな輩は居なかったから、見張る必要さえなかったんだがよ…普通に暮らしてたら、戦士の門は、おとぎ話に出てくる空想話でしかないからな…本当にあると信じてやってくる奴の方がどうかしてる」


「おとぎ話?」

「子供のころに聞かされなかったか?赤い方に妹イリュージア。青い方に兄ライル。神のみぞ知るその先に戦士守りし門ありて、その奥に神の能力宿りし魔石あり」


戸惑うハージンにかまわずジョーの話は続く。

「選ばれし戦士のみ通ることの許された狭き門。くぐった先にあるのは天国か地獄か…そんな語りだしだったな」

シドに同意を求めるジョー。


「そうだ。お話では、地獄に落ちた兄を妹が救いに行く話だったっけな。最後に神の能力か兄の命かどちらか選べと言われ、妹は兄の命を選ぶんだが、結局強欲な兄は神の能力を手に入れればどちらも叶うんだと両方を望み、どちらも失い妹だけが残る教訓みたいな話だったか」


「単なるおとぎ話で魔石なんてあると思えない話だが、気づく奴は気づくのさ。この地の地名との符合にな」

「符合?」

何故か自慢げに話すジョーに確認するハージン。


「たとえば、アゼク村。魔石はアゼグリアと呼ばれ、古代に失われた錬金術がもたらした奇跡の石の名だ。手にしたものに強大な力を授けるとされ、今なお多くの権力者や冒険者が探し求めている。アゼクとアゼグリア。微妙に発音が違うので、連想ゲームの答えとしては薄い。しかしだ。この湖の名がイルジーアーライル湖だと言えばどうだ?」


自信満々で言うジョーに、

「無理やり感が半端ない…」

信じられないという表情のハージン。


「でもよ?その無理やり感を頼りにやってくるんだよ奇跡の石を求める輩が…そして気づく。湖面に映る怪しい光に」

湖へ視線を落とすジョー。同じく視線を落としたシドが言う。


「天を染める美しき夕焼け映す時、その光の反射の奥に、見えるんだよ戦士の門へと続く光が…」

「まさか?」

「そのまさかだ。戦士の門はこの湖の底にある」


「それでラリスは村ではなくここに…」

「あぁ、あの小屋からだと美しい湖も見えるしな」

爆発を免れた小屋は土煙の向こうだ。


「潜ってみるか?」

探すように湖面を見るハージンにシドが言う。

「そんな簡単に行けるのか?」


「まぁ、ちょっと深いけどな」

「爆発の影響は?」


「さあな。でも、そんなやわな代物じゃないぜ」

「神が封印された場所なんだろ?そんな簡単に行けちゃっていいのか?」


「行けねえよ。おっと、門をくぐれないとかそういうんじゃないぜ」

「????」

「俺とジョー、あとシレイスとディエマでくぐってみたが、神の聖地へは辿り着けなかった」


「神の聖地?」

「神の本体がある…神を封じた場所。それが神の聖地さ」


「聖地もなにも、呪いごと封印してるなら、地獄じゃないのか?」

「だからこそだ」

「????」


「呪いを封印する。文字通り聖なる地なればこそ可能な事」

「なぜくぐった?封じられた地を訪れるというのは、封印を解くことにならないか?呪われてるんだよな?」

言いながら、失われた記憶を取り戻す為には行かなくてはならないような気もして自問に近いハージン。


「確かにな、行くべきでは無かったのかもしれない。言い伝えでも、封印されて尚、神は待ち続けているとあるしな…」

「待ち続けている?」


「復讐さ…神殺しへの復讐…」

「死んでるんだよな?」

「神殺しによって封印されたとはあるな。だが、信仰し続けている奴らが、否定するからなのか、死を迎えたとの記述や言い伝えは無いんだ」


違和感を覚えるシドの言葉。

更に耳を疑うジョーの言葉が続く。


「神は生きている。力の全てを奪われた今もなお、生き続けている」

その自信がどこからくるのか…これまでの常識が覆る言葉に怒気を含む声を上げるハージン。

「じゃあ、神殺しってなんだよ?」


「さあな。でも、その呼び名で伝承されてるんだから、神を殺したのは間違いないんじゃねえのか?。俺の考えじゃ、本体なんて言い方がそもそも違和感丸出しって感じでよ。殺されたのは分身か何かじゃないのかって考えてる。それが神の怒りを買い、世界が暗黒に染まった…そう考えれば、呪いごと封印したってのにつながるべ?」


「その答えが知りたいってのもあって、戦士の門をくぐった。神は死んだのか、それとも封印されただけなのか?しかし、封印の地にはたどり着けなかった」


つまり、選ばれし者では無かった。

悔しそうなシド。


「封印された場所など、本来行くべきでは無いのかもしれない。けど、君が神殺しだと言うなら行くべきなのかもしれない」

「なんだと?」


「神殺しは、去り際に言ったそうだ。再び災い目覚めし時我、再臨せり…」

「再臨?」

「再び現れるってことだよ。だったら、あの魔導士の出現は災いの始まりじゃねえのか?今までとはレベルが違いすぎたぜ」


「確かに…」

思い付きのようなジョーの言葉だったが、納得するようなシドの声。

「宝剣を守る村にあいつが現れ、神殺しも同時にいた。偶然にしちゃ出来すぎだな…」


疑いが確信に変わろうとしている。

「ハージン君。もし本当に君が神殺し本人だとすれば、封印が解かれようとしているかもしれない…神殺しの言う災いとは、神の呪いだ。君なら再び聖地にたどり着き、封印しなおせるんじゃないか?」


聞かれたハージンの動きが止まる。

「どうしたんだ?ハージン君?」


「本当に神殺し?…本人だとすれば?」


二人に会ってから…

いや、そもそもラリスの反応もおかしかった…


それまで感じていた違和感の正体。

気づいたハージンが疑問をぶつける。


「なあ、あんた達もそうだけど、俺が神殺しなら、ラリスはどうして俺の名を聞いて、神殺しだと気づかなかった?」


ハージン・デュエル…

それが神殺しの名前のはず。


だが、さっきから話に登場するのは神殺しという固有名詞。

「なぜハージン・デュエルで通じない?」

なぜ神殺し=ハージンとならないのだ?


「水晶の男、なんて言ったっけ?」

「オリオスト」


「そう、そのオリオストって奴が何で君の名前を聞いて、君を神殺しと言ったのか分からないが、伝承では、神殺しはファリエスキラー…ファリエス殺しと称され、何者であるか、性別すら不明とされている。神話には、少なくとも、ハージン・デュエルなんて名前は出てこない」


「ちょっとまて、ファリエス殺し?」

「なんだ、神の名前を忘れたのか?ファリエス・ジュネロ・ジルバ」


「ファリエス!!?まさか、ファリエスの宝剣って」

「そうだ。かつて、ファリエスが身に着け持っていた呪われし宝剣」


「おいおい、呪われしなんて、縁起でもない」

「いや、事実、魔剣ファリエスと言われるほど、強力な魔力を必要とするその宝剣は、戦いにおいて、いったん苦戦を強いられると、優勢から劣勢に追い込まれる狂気の剣とされている」


「凶器?狂気?」

「正気の沙汰ではない方」

「そんなヤバイ剣なの?なんかしゃべってきたし」


ハージンが言った瞬間、訪れる静寂。



「…………」



なにぃいいいいいいいい!!!



「え、え?何?」

「ファリエスの剣から声…だと」


「あ、ああ…聞こえたんだが」

「おい、シド!!こいつ、もしかして」


テンションマックスというジョー。

一方、驚きの表情を示すものの、冷静なシド。


「あぁ、マジかよ!!本当にいたよ!!シレイスの野郎、本気で悔しがるぜ」

浮かれるジョー。


疑問符しか浮かばず、呆然とするハージン。


「そうと決まれば、村に急げ!!」

「あ、あの?」


戸惑うハージン。

引かれるまま村に連れていかれそうになるが、


「忘れたのかジョー。今村はそんな状態か?」

冷静なシドの声に立ち止まるジョー…


「でもよ…あんな状態だからこそ…」

「だめだ!!ラリスの事もあるんだぞ!!」

シドの言葉に、ハッとする。


「そっか…そうだよな…」

肩を落とすジョー。


ただならぬ様子に、ハージンが

「村がどうかしたのか?さっきみんな無事だって」

不安そうな声を出す。


その時だった。

ここに見える三人では無い声が響いた。


「ラリスがどうしたんです?」


オリオストとは異なる色の水晶のついた杖を持つ華奢な色男がいる。

尋ねたのはこの男か。


その後ろに戦士風の背の高い若者。二十人はいるだろうか素人っぽい、ジョーと同じような槍、弓を持った集団が現れた。


「爆発で舞い上がったような土煙と惨状…これも説明してもらいましょうかシド…」


            ~第10話に続く~

この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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