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神などいない(8)

あれからどれだけの時間が経っただろう…


爆発の跡が残る湖畔。

ささくれ、倒れかけた木々。


モクモクと漂い、未だ収まることの無い土煙が動いていなければ、まるで時の流れが止まっているように感じただろう…


そこを避け、少し離れた場所にある正常な木の幹に、もたれるように座るハージンの姿があった。

湖面そばのラリスの遺体を見るでもなく見つめるハージンはまるで、呆けたように見える。


(また救えなかった…)

自嘲するようにハージンの口元が歪む。


(また…か…)


初めて会ったはずのラリス。

なのに、なぜまたなどと…?


(記憶があるわけじゃない…でもまた救えなかった)


そんな気がする…

ラリスの死がなぜ、こんなにも胸を締め付けるのか分からなかった。


(会ったことがあるのか…?)

必死に探すが、悪夢を見て飛び起きたところまでしか記憶をたどれない…


(ハージン・デュエル…お前は一体何者なんだ?)

自身に問いかけるも、答えが見つかるはずはなかった。


見つめる手に力を込めてみる。

自然に波動が生まれている。


掌を覆う、ぼんやりと揺らぐ赤にも青にも見える光を見ながら考える。

さっきは使えなかった能力…


(こんな能力…どうやって手に入れた…)


自然に、やろうと思ったら出来た。

だが、そんな修行も訓練も受けた覚えは無い。


無我夢中で、オリオストに対抗できる(すべ)を欲しただけ…

手にした能力は誰にも負けない能力だと思えた。


(調子に乗ってた…完全に油断だ)


結界に閉じ込められた自分に嫌気がさす。

(正面ではなく、死角に行くべきだった…)


神速と呼べるほどの速さを手に入れていた…

神の能力か…


それを使えば雑作もなかったはず…


(何故…)

何度問いかけようと、彼女を失った現実は変わらない。


(彼女を救えなかった)

襲う後悔。


消える手の光。

ハージンの心を負の感情が支配する…


今オリオストが現れたなら、彼を殺すなど、雑作もない事であるに違いなかった。



再び永遠にも感じられる時が過ぎた頃。

ハージンに必死で呼びかける声がある。


「お~いハージン君!!」


聞き覚えのある声。

しかし、自分の中にこもったハージンには届かない様子。


反応のない様子に、駆け寄ったのはなんと、シドだった…

あの時シドを呼びに来たあいつもいる。


二人とも魂を封じられたのでは無かったか?


「ハージン君?」


もう気づかない距離ではないというのに無反応のハージン…

肩に手を置こうと伸ばしたシドの手が止まる。


隣にいた奴が叫んだからだ。


「おい!あれ!!!」

「なんだよ突然大きな声出すなってジョー!!…って俺もか…」


ジョーが指さす方に向きながら、ポリポリ頭をかくシドだったが、信じられない光景に、


「…???な、なななんだとぉおおお!!!!」

思わず声を出しながら二度見する。


嫌でも目に飛び込んでくる光景…


なぜ気づけなかった?


ハージンから発せられる負のオーラとでもいうべき空間…

かなり広い範囲に及んでいた。


目線を狂わせた元凶と思われるが、魔法の力に疎い二人には気づけなかったようだ。


これ…普通、気づくよな…

鈍感すぎる…


なんで?

全体が見えてなかった事に納得のいかない二人。

改めて全体を見渡す。


削れた湖面の端切れ…

湖面に緑を映していたはずのささくれた木々…


静かな湖畔に災害のように降り注ぐ土煙…

そして…横たわるラリスだった。


「いったい、何が…」

ハージンを見るが、相変わらず反応が無い。


ラリスの方へ向き直る二人。

「寝てるだけ…だよな」


治癒の波動によって、傷や怪我は無いラリスだが、血まみれでボロボロになった衣服に最悪がよぎる…

加えて湖の惨状。

しかし、彼らにとって、それらを目にしても、彼女の死は考えられない事だった。


「おい、ラリス!!」


ジョーが呼ぶが、当然ながら反応がない。

嫌な予感しかしないが、一縷の望みにすがるシド達。


「起きてるんだろう?」


「ラリス!!…ラリス!?…おいラリス!!!」


ラリスのもとへ向かう二人。


その間も呼びかけはやめない。

それでも二人の存在に気付かないハージン。


しかし、見るとは無しに見ていた視界に、ラリスへと近づく二人がよぎると、ようやく二人の存在に気付くハージン。


死んだと思っていた二人が居ることに、一瞬驚いた顔をするが、脈を診ようとラリスに手を伸ばすシドを見て彼が何をしようとしているか気づいて伝えた。


「死んだよ…ラリスは…」


自分から言った言葉だったが、改めてラリスは死んだのだと思い知らされるハージン。


言い淀むように発せられた声は小さく、届かないくらいに思われたが、彼らにとっても一番聞きたくない言葉は、大声を出さなくても響いたようだ。


「死んだ!?守護者、ラリス・マーキュリーがか?」

「おい、いい加減な冗談は…」


信じられない思いは、言い訳を探す。

しかし、突き付けられた現実は変わらなかった。


「冗談で、ここまですると?」

無情にも思えるハージンの言葉。


壊された湖と未だ晴れない土煙を指す。

それでも衝動は止められない。


「そんなの、あってたまるか!!」


急いで脈を診る…

だが、打ち返す鼓動が伝わるはずは無い…

ジョーに向かって首を振るシド。


(信じられぬ…)


シドとジョー共に、絶句。

無音の時間は永遠とも感じられた。


「あのヘンテコ野郎にやられたのか!?」

無音を打ち破ったのはシド。


しかし、質問に返る言葉は返答では無かった。


「彼女を救えなかった…すまない…」

うつむくハージン。


「なんで謝る。君も水晶に囚われてたんだろう?」

謝る理由が解らないという様子のシド。


「水晶には閉じ込められなかった…」

「閉じ込められなかった…?」


信じられないという様子のジョー。


「抗う暇すらなかったのに?」

「なぜかはわからないが、耐えられた…」


「耐えたって…魔導士みたいな事言いやがる」

「待て、あの時点ではまだラリスは居なかった。君はどうやってここまで?」


「そうだ。アゼク村からここまで、何回も分かれ道があったはずだ。何も知らないで、たどり着ける可能性は…」

ジョーの脳裏には疑念がわき始めていたが、それを遮るシド。


「無いわけじゃない」

「いや、でもシド?」


「俺が知りたいのは、なぜラリスが死んだか…だ」

不満そうなジョーだったが、これには黙るしかなかった。


「ここへは、あのヘンテコ野郎…水晶の男と一緒に来たのか?」

「いや、水晶と交換だと言われ、宝剣を取りに一人でここに来た」


「一人?」


疑念を深めるジョーをよそに、シドは続けた。

今思えば、言い逃れできないタイミングを計ろうとしていたのかもしれないが、村のリーダーとして、疑うより先に信じようとしていたのかもしれない。


「資格者として認められなければ宝剣は手に出来なかっただろう?」

「あぁ…そうだな…資格者とは認めてもらえてなかったかも…」


どう答えていいのか迷うハージン。

「ちょっと待て…だったらなんで戦いになる?資格者でないなら剣さえ見えないはず…」


さらに深まるジョーの疑念。


「いや、剣が見えるも何も、気づいたら手にしてて…」

「見えたのか?」


コクリと頷くハージン。


「あれは魔導士級の魔力を持っていなければ見えないんだ」

「シド、やっぱり普通じゃないぞコイツ」


ジョーの警戒。

しかし、シドは全く疑う様子は無い。


「で、ラリスは剣を貸してくれたかい?」

「いや…剣を手にしたとたん、攻撃された…」


ジョーが槍を構え始めた。

「攻撃だ?…宝剣を手にしただけで?ラリスがそんな無茶を?」


「いや、方法がまずかったのかな…」


よせばいいのに、宝剣を呼ぶハージン。

その手に宝剣が握られる。


宝剣は無傷だった。

爆発の影響はなかったようだ。


しかし、術者本人の魔力の低下が原因か、勢いのない光の刃。

予想しない宝剣の出現に、さすがに身構えるシド。


「宝剣よ来いって願ったら、手にしてた…」

「ハッ面しれえことを言う…」


ギラリと光るジョーの鋭い目


「水晶に吸い込まれなかったことと言い、宝剣を手にしてることといい、お前…あいつの仲間なんじゃないのか?二人でラリスを…」


「ちが…ほら」

消える宝剣。


「オリオストに殺されかけたんだぜ?仲間な訳…」

否定しようとするが、させないジョー。


「オリオスト?それが奴の名前か?何で知ってる?」

聞いておきながら、答えようとするハージンを無視して言葉は続けられた。

「素性が知れないんだったよな?…やっぱり怪しいぜシド!!」


持っていた槍を向けるジョー。

対し、剣の柄にかけた手を放しシドが言う。


「いや、彼は嘘をつく人間じゃない」

「おいおい、俺が呼びに行った時まで目覚めてすらいなかったから、まともに話せてないって言っていたじゃないか?」


「俺は村を治める長だ。人の本質は見抜けるつもりだ」


まだ何か言いたそうなジョーを手で制止する。

ハージンの方に向き直り、さあ言い訳があるなら、話してみろとでもいうようなシド。


「残念だが、記憶が無い。この村に来るまで何をしてたのか、ここに来た理由もわからない」

正直な思いを述べるハージン。


「まて…」

手に持っていた槍を握りなおすジョーに静かにつげるシド。


しかし、止まらなかった…

今にも槍を突き出しそうな勢いでまくしたてるジョー。


「都合がよすぎやしないか?ここまで来た記憶がない。だから分からない?そんな訳あるか!!そうだとしたら、自分の名前さえ忘れてても、おかしくないくらいの記憶喪失だぜ?シド、こいつ絶対怪しいって!!」


少し考える様子のシド。

「いや、怪しいなら、宝剣を出した瞬間、攻撃すればいいだろう?」


「剣が完全な状態じゃなかったからじゃないのか?あの剣、魔剣だから、相当魔力がいるんだろう?ラリスとやりあって、消耗したんだろうぜ」


「だとしても、すぐに剣をしまう理由にはならない。お前は気づいてないだろうが、彼からは殺気が感じられない」

「それにしてもだよ?どうしたんだシド?いったいなんで、素性の知れないこいつを…」


「どうして…か?どうしてだろうな?」

少し考えるシド。


心配そうに見つめるジョー。

疑われていて不安そうなハージン。


見比べる。

と、突拍子無く、声を上げるシド。


「そうか…さっきからひっかっていたのはこれか…」

「お、おい?」


大丈夫か?ジョーの顔はそう言っている。

そんなジョーにますます不安を与えるシド。


「彼は恩人だ」


「はあ?」


思わず槍を落としそうになるジョー。

構わずシドが続ける。


「水晶に閉じ込められ、俺は暗闇にいた。あらゆる感覚が奪われ、このまま存在が失われるのだと思った…でも、聞こえたんだ…あの声が!!」


今度こそ死なせない!!!


「しばらくして…爆音と共に激しい光の渦に巻き込まれ、体に戻ることが出来た…」


爆音とはあの結界の爆発によるものと思われた。

ハッとするジョー。


ジョーの思考は読み取れたが、それでもとどめとばかりに確認するシド。


「ジョー…お前には聞こえなかったか?彼の声が…」

「今度…こそ…死なせない…?」


お前か?

答えを求めるようにハージンを見るジョー。


「あ、ああ言った。でも、別にあんたらに言った訳じゃ…」


あまりの衝撃で、思わず震えるジョーの声…

そうだ。この声だ!!!


暗闇の中、唯一心に希望を与えてくれた声…


「俺たちに向けられたのではないかもしれない。しかし、彼がラリスの為にあの男と戦っていた事にはならないか?」


シドの言葉に、再びハージンを見るジョー。

自分と同じようにハッとし、見開くハージンの眼。


その眼を貫きそうなほどの距離に、槍の切っ先が向けられてるのに、避けるでもなく後悔の表情を浮かべ、ラリスを見るハージンを見て理解した。


構えられていた槍が下げられ、武骨な顔がさらに武骨そうに見えるくらいに眉をよせて頭を下げるジョー。


「疑ってすまなかった…助けてくれてたんだよな?ありゃあ、間違いなくお前の声だった…」


続く言葉は、下がりきったハージンの心を動かすのに十分だった。


「ありがとう…」


ラリスを救えなかった…

自分はありがとうなんて言われる人間じゃない…


反論しようとするハージンをシドが遮る。


「ラリスの事は残念だった。しかし、君は確実にアゼク村のみんなの命を救ってくれた大恩人だ。ありがとう!!」


「みんな…?」

「あぁ、みんな無事だ」


俺に救えた命があった…!!!

生きててくれた!!!!

救えていたというのか…


目の前がかすむ…

くしゃくしゃ顔のハージン。


「よがった…」


何故かわからない…

でも、その熱くこみ上げる想いは止めようと思っても止められない。


気づけば、後悔ではなく、歓喜の涙がとめどなくあふれていた。


           ~第9話に続く~

この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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