神などいない(10)
「あまりに帰りが遅いので来てしまいました」
20人ほどの集団の中心にいる魔導士の見た目が言う。
「シレイス…」
どうやら、シドの知り合い…
というか、状況からしてアゼク村の人々らしい。
「おい、シド。これは何だ?ひどい変わりようじゃないか」
「戦闘でもあったのか?」
「いったい何があったんだ?」
広がる惨状に次々と上がる声。
「そ、それは…」
ラリスの事を説明しなければ…
思うシドだが言葉が浮かばない。
どう伝えれば…
そんなシドに容赦のない疑問。
「ラリスはどうしました?」
逡巡するシド…
その様子を見ていたハージンが平然と言い放つ。
「ラリスなら死んだ…」
「な、なんだと…!!」
見知らぬハージンの言葉に戦士風の若者が剣を構える。
「やめるんだディエマ!!」
シドが慌てて止めた。
「こいつは敵じゃない!!」
ジョーが合いの手を入れるが不審な表情を向けるディエマ。
「敵でないなら、誰なんです?」
鋭い切れ長の整った目のシレイスが疑念を訴える。
「ハージン・デュエル…神殺しらしい…」
シドが言い放つと、それまで硬かったディエマの表情が和らいだように思えた。
「神殺し!!おい、シド!!本当か!!」
上ずる声にはどこか喜びのような感情を感じる。
しかし、続くシドの言葉は感情を逆転させる。
「あぁ、本当だ…と思う」
「思う?」
「あ、や、俺も正直、信じるしかないといったところでな…」
「そんないい加減な…ぐっ」
不満を訴えるディエマをシレイスの手が制した。
その後ろにいる二十人も動向を見ている。
そのうち何人かは、武器を構えたままだ。
村の長が警戒を解く中、ハージンは未だ未知の存在なのだ。
シレイスが聞く。
「敵ではない…あなたが言うのなら、間違いはないのでしょう。聞かせてもらいましょうか…その根拠を」
「いいだろう!!けど、その前に、ディエマ…その剣を降ろしてくれないか?お前たちも…」
更に後ろにいた武器をかまえる若者たちを指さすシド。
「キンデ!!シャムゥ!!ほかの奴らも!!武器は構えなくていい!!ハージン君は味方だ!!」
と訴える。
仕方なさそうに武器の構えを解く若者たち。
しかし、すぐに構えられる前傾姿勢を取っている。
「ハージン君、宝剣を出してくれ」
「え、宝剣?いいのか?」
敵意さえ感じる中、一応聞くが、
「君が何者か、説明するのに、能力を見せてくれと言ってるんだ」
早くしろと言わんばかりのシド。
「そうか…?」
戸惑いながらも、
(こい!!)
願うだけで、ハージンの手に出現する宝剣。
魔力が双剣を成す。
先ほどと違い、魔力が回復したのか勢いがある光の剣は、畏怖を覚えさすには十分だったに違いない。
瞬間、シレイス以外の新規組全員身構える。
「くそ!!マジか!!」
「あいつの仲間…!!なのか?」
「やべぇぞ!!こいつの魔力!!」
「宝剣を呼べる???」
驚きと混乱を感じる中、
「だから、構えなくっていいんだって!!」
シドより先にジョーが叫ぶ。
「正直、神殺しとわかるまで、宝剣を扱える上にこの魔力!!敵かと思ったさ!!あの魔導士の仲間かとな!!でも、俺はこうして身構えもしない!!」
驚きながらも、構えを崩さない村人たち。
そんな村人を見回しながら、そうじゃないだろうジョー…とでも言いたげなシド…
宝剣の声…その件にふれれば楽に説得できたはずなのに…
口を挟む事を許さない声量でジョーの説得は続く。
「こいつは敵じゃないからだ!!今、家で休んでるお前たちの家族や、俺たちの命を奪おうとしたあの魔導士を追い払ってくれた恩人なんだよ!!」
「おん…人」
少し考える村人達…
「そうだ。今こうしてここにいる。水晶に閉じ込められた時、そんな事想像できたか?こうやって疑って、敵意を向けられるのも、助けてもらったからだぜ。そうじゃなきゃ、闇に包まれた空間での絶望しかなかったはず。けど、聞こえた。あの声が…お前たちにも聞こえなかったかよ?こいつの声が!!」
瞬間、誰もがお互いの顔を確認した。
!!!!!!!!!!
シドやジョーがそうだったように、頭の隅にあった疑問符が結び目をほどく勢いで消えてなくなる。
そんな驚きを含んだ表情…
今度こそ死なせない!!!
記憶に強く残るその力強い声は、そこにいる全ての者を納得させる声だったようだ…
ただ、その声の主を除いては…
「よしてくれ…結局ラリスを救えなかったんだ…」
バツが悪そうにうつむくハージン。
既に宝剣はしまってある。
と、その時、全ての村人が存在に気付いてなかった人影がハージンに近づく。
見れば10歳もいかないくらいの女の子だった。
「ハー…ジン?」
話しかける少女。
「うわ、レナン!!」
家族と思われる若者が慌てて飛び出る。
「兄ちゃん、この人怖くないよ?」
「何してんだレナン!!」
慌てる若者にジョーが話しかける。
「バード!大丈夫って!!」
「でも、神殺しって…」
恩人であるとは認識しながらも、未だ未知の存在である神殺しのフレーズに、不安を覚えるバード。
それは他の者も同じらしく、動向を見守る。
そんな緊張の走る空間に、事も無げに言い放つジョーの声が響く。
「神殺し?ビビる必要ねぇって!!」
一様に『?』という表情の視線が集まる中、ジョーは続けた。
「だって、あんな泣き虫なんだからよ!!」
予想もしないジョーの言葉に、
「は?」
唖然とするバード含む何人かの村人。
そんなやり取りの中、レナンは、すたすたとハージンに近づくと、その手を握る。
戸惑うハージン。
敵意の無い少女は目をつむって何かを探る感じ。
数秒の間。
目を開けたレナンはニコリと笑みを浮かべ言った。
「やっぱり大丈夫!!ラリスと同じ波動を感じるもの」
「ラリスと?」
「うん!!とっても優しい流れ!」
「俺が…やさしい?」
「ラリスを助けようとしてくれたんでしょ?」
「あ…あぁ…」
苦々しい表情。
つらい記憶がフラッシュバックする…
何度も何度も治癒の波動を送った…
絶対に救うんだ…
でも、救えなかった…
「一生懸命…でも、繋ぎ止められなかったんだね」
まるで、ハージンの頭の中を見ているような会話。
救えなかった命…
ラリスの最期…
再び沈みそうになる心。
そんなハージンに小さな女の子が、バードを指さすと、力いっぱい叫んだ。
「ハージンは悪くない!!だって、お兄ちゃんを救ってくれたじゃない?私のお兄ちゃん。大好きなお兄ちゃんを!!」
「レナン…」
照れるバード。
「みんなも救ってくれた!!…って、あれ?泣いてるの?」
「いや、ちが…」
溢れそうになっているのを堪える様子を見せるハージン。
やれやれ…
「お~い、お前が泣いてたから帰れなかったっての黙っててやるから、また泣くのは勘弁してくれよ!!」
からかい気味のジョー。
「また??」
バードが言う。
「おう、またどころかよ…」
「あぁ!!あ!!」
得意そうに続けるジョーの言葉を遮るハージン。
「それ言うんだったら、もらい泣きしたお前に気付いて、泣く気が失せたの言うからな!!」
やっぱりもらい泣きだった!!
「うるせぇ!!そんな恥ずかしい真似俺が…」
「本当だ!!ジョーってば泣いた跡~!!」
レナンの言葉に、慌てて目をこすり、事実だと認めたも同じジョー。
「うわ、だっせぇ、マジかよ!!」
バードの容赦ない突込み。
「くっそ~とんだ神殺しだぜ!!」
悔しそうなジョー。
その様子に、それまでの緊張が嘘のような笑い声が広がるのだった。
所変わってアゼク村にある大広間…
「これか…村に戻ろうとしたジョーを止めた理由は…」
三人の男が横たわっている。
三人とも屈強な体つきではあるが、中年といった感じで若干年がいっている感じだ。
一見すると寝ているように見える三人。
その三人のそばにいる家族とみられる人たちが声を掛けている。
「あんた!!いつまで寝てるんだい!!いい加減起きとくれ!!」
「父さん…父さん!!父さん!!!」
「兄貴!!おい、バカ兄貴!!何で目覚めねぇんだ!!」
状況から見るに、奥さん、子供、弟といった感じ。
「アベナとカル…そしてゾンデ。俺たちが行く前、水晶に閉じ込められた者たちだ。君と同じで、揺すろうと、何をしようと目覚めない。このままでは、命を維持できなくなるのは間違いない…」
シドの言葉に、
「俺は、あきらめないぞシド」
「私だって…」
咎めるように声を上げる家族。
よく見れば、焦燥しきった表情…
ずっと付きっ切りでいるらしい…
「浮かれられないって訳だ…」
状況を理解するハージン。
「そうだ…君は目覚めたときどう…」
ハージンなら何か出来る事があるんじゃないのかとシドが言いかけた瞬間だった。
おもむろにハージンが横たわる一人の胸の上で気を分け与えるとでもいうように手をかざすと、
「ぐはっ!!!」
あの時のハージン同様飛び起きた。
「あんた!!!」
「き、奇跡か!!!」
父親に呼びかけていた若者が言う。
その父親にも手をかざすハージン。
ムクリと起き上がる父親。
「とう…さん…」
抱きつく若者。
訳が分からず当惑する目覚めた父親。
兄を呼んでいた若者もハージンに期待を込める。
状況を見守ると、同じく目覚める兄。
再開に涙する若者…
「マジかよ!!シレイスでも何もできなかったのに!!」
様子を見ていたディエマが驚きを口にする。
くやしそうなシレイス。
すぐに平静を装うと聞く。
「どうやったのです?」
「わからない。なんかこうしたらいいような気がした」
即答するハージン。
「まるではじめから分かっていたような物言いですね」
少し考える様子のシレイス。
横にいたディエマが続ける。
「記憶がないか…あんたが何者かわからないのが気になるが、味方であってほしいもんだな」
言いながら、剣の柄をなでるようなしぐさを見せると、咎めるようにシレイスが言った。
「ディエマ…またですか?」
「あ?何が?」
「戦いたいのでしょう?」
こう聞かれ、知らぬ間に手を置いていた剣の柄から手を放すディエマ。
「う…何言って」
「図星ですね」
「まあ、興味はあるが…」
無理だろう。
言いかけるディエマを無視してハージンに向き直るシレイス。
「どうです?私たちと勝負しませんか?ディエマと私は一応、この村の要です。私たちに勝つことが出来れば、もしあなたに悪意があった場合、この村は、あなたの思い通りに出来る」
「おい、シレイス何言って…」
「味方かどうか知りたいのは私も同じ。戦ってみればわかるというものです。どうです?もっとも、あなたに悪意があって、今すぐこんな村滅ぼせるというならそれも一興ですが…」
ふざけているのかと思われても仕方のない真意を測りかねるシレイスの言動。
シドが仲裁に入る。
「おいおい、ハージン君に悪意があるわけないだろう?」
「シド、これは私なりのけじめです。このまま彼を味方として迎えるのは、たやすいのですがね…戦士の門の守り手としては、そうはいかない」
「たく、戦いたいのは俺より、シレイスじゃねぇか!!」
あおるディエマ。
何故か嬉しそうだ。
「油断していたとはいえ、魂を封じ込まれたのは、わが師、ラリスの名折れ!汚名返上というわけです」
「無益なことだ…ハージン君。断っても…」
慌てるシド。
それまで黙っていたハージンが言う。
「いいのか?本気出しても?記憶喪失だけど、戦い方は一応体が覚えてる。怖いのは、加減がわからないかもしれない」
「上等!!それでこそ、思いっきり挑めるってものだ」
やる気満々といった様子のディエマ。
「神殺しの実力、試させてもらうかよ!!」
「ストーップ!!ここでやる気か!!?」
思わず声を上げるシド。
部屋の中なのだ。
「そうでしたね。では、続きは場所を変えるとしましょうか」
ディエマと同じく嬉しそうなシレイス。
「なぁ、シド、ハージンの様子がやばくないか?」
気づいたジョーが言う。
確かにハージンの様子がおかしい。
狂暴な感じ…
それまでない気の流れ…
「神殺しの戦いか…やばいかもな…」
ジョーの事が眼中にない様子のシド。
シドもおかしい??
嫌な予感を覚えるジョー。
「おい、シドってば!!!」
「激しい戦いにならんとも限らん。君は村の者たちが来ない様に見張っててくれ…」
さっきまで、止めようとしていたはずのシドの言葉…
止めなくていいのか?
言いかけていたジョーだったが、言葉が出なかった。
シド、シレイス、ディエマ、そしてハージン。
戦いを提案してから、ある種、異様な雰囲気を帯びているように見える。
何かが違う…そんな感覚…
違和感を覚えながらも、雰囲気に気圧されたジョーは四人が出ていくのを見守るしかなかった。
~第11話に続く~
この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。
でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。
そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。
僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。
僕の中にあるヒーローそのものです。
絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります
すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




